入り江から
第36話
~穂風~
今年もMAKANAの合宿がはじまった。
世界選手権の会場に合わせ、今回の合宿地はフィリピン。
去年は新人枠での参加だった夏葉は、今年はメインのフォトグラファーとしての参加。
夏葉の実力がこうやって認められていってうれしい。
ニコニコするあたしに、夏葉が「お前のおかげ」と頭をなでてくれる。
ちなみに、公私混同しないようにとMAKANA側からは注意を受けているらしい。
だけど、どうやら夏葉の写真はあたしを好きなことがバレバレだとアンディやリアムから言われているので、「どこまで公私を分けられっかな…」と頭をかいていた。
自覚がないなら直すの難しいよねえ。
あたしは他人事だ。
だってその分夏葉があたしのこと好きってことだからうれしいもんね。
今回日本からの合宿参加選手は、あたしと悠星くん。
そして、今年初参加の杉下真恋選手…。
因縁というか、トラウマとも言える選手なのでちょっと不安ではある…。
でももう乗り越えたから…頑張るしかない。
あたしも夏葉もまだ杉下真恋と関わる機会がなく話したことがない。
どんな選手なんだろうか…。
なんて思いながら、集合場所の空港ロビーで、日本からの参加者がそろうのを待つ。
朝が早く、緊張であまり眠れなかったあたしは、気づいたら夏葉にもたれて寝ていた。
しばらく待つと、「遅くなりましたあ~」と高い声が聞こえた。
その声でぼんやりと目を覚ます。
見ると、杉下真恋。
ピンクに染めた長い髪に黒いキャップを深くかぶってる。
杉下真恋は一人ひとりに挨拶して回っている。
あたしたちのところにもやってきた。
「あれっ、もしかして桐本さんですか? カメラマンの」
「そうですけど…」
「えー! 嬉しい~!一度お会いしてみたかったんです~。今日楽しみにしてました!」
「そりゃどうも…」
思ったよりキャピキャピしたタイプだ…。
なんかちょっとやな感じを受けるのはあたしが小さい人間だから?
真恋があたしにも目を向けた。
「あっ、岩崎穂風さん! 岩崎龍臣さんの娘さんの! はじめましてえ~」
やっぱまじで苦手かも…。
あたしは少々引きつり気味。
「はじめまして~…」
夏葉が心配そうにあたしを見ていた。
飛行機が目的地の空港に着くと、到着ロビーに愛姫が見えた。
と思いきや、愛姫がこっちに向かって走り出し…。
悠星くんに抱き着いた。
その場にいた全員が2人を凝視する。
到着早々やるねえ…。
「I missed you~~!」
「日本語で頼む」
「あいたかったよー!」
「ん、俺も」
まさか悠星くんを嫌ってた愛姫がこんなになるとは…。
それから、空港にはアンディも。
「(久しぶり、元気だったかい?)」
夏葉とアンディは軽くハグをして、お互い背中を叩き合う。
あたしもアンディにぺこっとお辞儀をした。
「(今回もよろしくね)」
「(はい、こちらこそ! アンディに撮ってもらうの楽しみにしてます!)」
「(ハハッ、彼氏もカメラマンとしているのに?)」
「(これはこれ、それはそれです)」
夏葉が「おい…」とジトっとした目を向けてきたので知らないふりをした。
それから全員でホテルに移動して、荷物を置いたり準備してからビーチに集合した。
今日のあたしは新調したイエローのビキニ。
うん、我ながら焼けた肌によく似合う!
愛姫と一緒に夏葉に見せびらかしてたら、悠星くんが夏葉に耳打ちした。
「おい、俺の彼女そんなにジロジロ見ないでよ」
「見てねえよ…。悠星こそ穂風のことあんま見んなよ」
「安心して、愛姫しか目に入んねえもん」
「俺らは高校生か!」
面白い会話…。
なんてやってたら、杉下真恋が夏葉たちのところにトタトタ走ってきた。
「悠星さん、はじめましてえ~! 今日会えてめっちゃ嬉しいです!」
「おお、本物の杉下真恋だ。よろしく」
「ちょっと、本物のって何ですか~! あはは、悠星さん超面白いですね!」
「テンションたか…」
真恋が口元に手を当てて笑ってる。
それから真恋が夏葉のほうを見て、「今日きれいに撮ってくださいね」と言って、また笑った。
え! ムカつくかも!
何て言うんだっけ、こういうの…。
ぶりっこ…?
愛姫の方を見ると、愛姫もイライラした顔をしていた。
午前の練習が終わり、午後はCMの撮影。
最近MAKANAが新しく出したスポーツ飲料のCMに、真恋と一緒に出演する。
カメラマンは夏葉だ。
「CM最近一気に増えて不慣れなので教えてくださいね!」
語尾にハートマークが付きそうな勢いであたしと夏葉にきゅるんとした声を出す。
この子がいなければ夏葉に一人で撮ってもらえたのに~…。
波乗り中の映像は午前中に撮ったから、午後は飲料水を飲んでる簡単なカットだけ。
夏葉にこんな風に撮影されるのは新鮮だからドキドキしちゃう。
真恋も同じように撮られてるのが気に入らないけど…。
「はい、OK。お疲れ」
なんていう間に撮影は終了。
あとは、あたしの簡単なセリフを入れるだけ。
≪しゅわっと弾ける爽快感!≫
って、夏葉が真恋に話しかけられてる~…。
「夏葉さんって何歳なんですか~?」
「24」
「ええ! めっちゃ大人っぽ~い! あたしの2個上と思えないです~」
それからもベタベタと夏葉の腕や髪に触れて…。
イライラマックス!
早く録音を終わらせて夏葉のところに直行したいのに、イライラしすぎて失敗ばかりした。
その日の夜。
あたしと夏葉、愛姫で悠星くんの部屋に集まった。
「何あの女!? 夏葉に気がありすぎって感じ! あたしと付き合ってるの知らないの!?」
「あのオンナほんとさいあく! ユウセイにかわいいアピールしてる!」
どうやら愛姫も真恋に対して腹に据えかねてるようだ。
男たちは困った顔。
ちょっと好かれてるからってまんざらでもないってこと!?
「おい落ち着けよ…」
「だってムカつくじゃん! 何も感じないの!?」
「まあなんか距離ちけえな~とは思うけど。みんなにあんな感じだし」
みんなにはしていいけど自分の彼氏にされたら超ムカつくもん…。
愛姫とこの感情を分かち合う。
「愛姫嫉妬してんのかわいいな」
「それどころじゃないよ! バカ!」
怒られてるし…。
それからしばらくあたしたちが怒っては彼氏たちがなだめるというのが続き…。
「ほら、もう夜遅いからさすがに寝るぞ」
というわけでそれぞれの部屋に帰ることになった。
悠星くんは愛姫の部屋で寝ると言ってそのまま。
あたしは夏葉をあたしの部屋に引きずった。
そのとき、ちょうど部屋の前で真恋と会った。
「あれっ、穂風さん…と夏葉さん?」
「どうも~…」
「なんで2人一緒にいるんですか~?」
「夏葉があたしの部屋で寝るから…」
「えっ、2人って付き合ってるんですか!?」
知らなかったのかよ!
心の中でちょっとガッツポーズ。
これで距離離れる! と思ったら…。
「え~、そうなんですね~! あたしってえ、結構男の人との距離近くて誤解されること多くて~。直したいとは思ってるんですけど近かったらごめんなさい~」
そう言って両手で手を合わせる真恋。
確信犯じゃん!
ムカつく~~!
直したいと思ってるなら直せよ!
でもムカつくのも相手のてのひらって感じがしてまた悔しい…。
しっしっというポーズにならないように気を付けながら手を振って真恋と別れて部屋に入った。
「…穂風?」
「なに」
「あれは…確信犯だな」
「でしょ!!」
「なんか…イニシアチブ取られないように気を付けるわ」
「絶対そうして!!」
もうこうなったら真恋に対してサーファーとしての不安感はなくなった。
ライバル心で俄然やる気出てきた!
次の日以降も真恋は同じ調子で。
最終日。
あたしはもう我慢の限界だ。
あたしってやっぱ変わったかも。
前までプライドが高すぎてこんな器が小さいような感情認めなかった。
自分に素直でいい変化だって思ってる。
今日も夏葉やほかの男性スタッフにべたべた触ってる真恋。
あたしはそこにつかつかと歩いて行って…。
「夏葉」
そう呼んで、夏葉の唇にいきおいよくチューをかました。
ポカーンとしてる真恋とほかのスタッフさん。
してやった!!
(でも、あとで夏葉に怒られたのは内緒)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます