良い潮流

第34話

~穂風~


あたし今、最高に楽しい!

夏葉にロングの世界に戻してもらった今、ほぼ毎日海にいる。

夏葉がプレゼントしてくれた、新しい緑の板は見るたびに嬉しくなる。

大好きな人からこんな風に愛されて、大好きなサーフィンをまた大好きになれて。

あたし、幸せだな…。

あたしの写真で一躍有名人になってしまった夏葉は、海外出張が以前よりもずっと多くなった。

会える時間も前より減っちゃったけど、愛されてるのを毎日感じてるから不安にはならない。

寂しいは寂しいけどね。


そんな今日は、数日前からハワイのノースショアに行ってた夏葉が帰国する日!

夕方の便で帰ってくる予定。

1秒でも早く会いたいから空港まで行っちゃうもんね~。

大学で授業を受けてても夏葉のことばっかり考えて全然集中できない…。

夏葉に怒られる!

お昼は1人で学食。

食堂でご飯を食べてたら、「岩崎じゃん」と声をかけられた。

見ると、同じサークルで同期の野本くん。


「ここ座っていい?」

「どうぞー」

隣の席に野本くんが座った。

野本くんは、爽やかな好青年って感じの男の子だ。

サークルはあんまり頻繁には行ってない。

今は海が大事で。

波がないときはたまに顔を出して、部室でボードゲームしたりしてるけど。

「岩崎って結構昼1人?」

「そうそう。実は大学に友達あんまりいないんだよね」

「なんで? 誰とでもすぐ仲良くなれそうなのに」

「あたし入学したばかりの頃、結構大学サボっててさ…。サークルとかも入ってなかったし」

「なるほどな~。せっかくサークル入ったんだしもっと声かければいいのに」

そういう野本くんもお昼1人で食べてんじゃん…。

と思ったけど、もしかしたら野本くんも実は友達がいないのかもしれない。

地雷かもしれないし黙ってよ!


「…なんか失礼なこと考えてる?」

「え? な、なんで?」

バレた!

「この時間は仲良いやつはみんな午後からの授業で家にいんの」

「そ、そうなんだ…」

失敬失敬。

「そういえばこの前本屋行ったらスポーツ雑誌の表紙に岩崎いてめちゃくちゃ驚いた!」

食べながら他愛もない話をしていると、野本くんが思い出したかのように言った。

「あ、それ多分あたしが本格復帰したときのやつだ」

あの写真は結構いろんな雑誌で使われてたし。

ネットニュースとかにもなったからかなり色んな媒体に載ってる。


「岩崎がサーファーって知ってから結構サーフィン系のもの目に入るようになってさ」

「へ~」

「お、サーフィンの写真だ~ってよく見たら岩崎でびっくりした。めちゃくちゃかっこいいな」

「ありがと! 実はあの写真彼氏に撮ってもらったやつなんだよね」

「あのイケメンの彼氏ね。めちゃくちゃすごいな!」

へへ。

褒められて良い気分だ。

お昼休みが終わるので、次の授業に行こうとしたら野本くんも同じ授業なことが判明した。

いつも後ろの席に座ってて、『岩崎いるな~』と思ってたらしい。

というわけで、毎週この時間のお昼は一緒に食べることになった。

わーい、友達増えた!


「この授業眠いよな~」

「わかるー」

そして今日もウトウト…。

してたら授業が終わった。

今日の授業はこれで終わり!

夏葉に会うまでまだちょっと時間あるから部室に顔出そうかな。

「あたし今から部室行くけど野本くんは?」

「まじ? 俺も次空きコマだから行こうと思ってた」

というわけで一緒に部室へ。

「へ~、じゃあその彼氏さんがスランプから抜けさせてくれたんだ」

「そうなの! 大好き」

「でその写真きっかけに彼氏さんも有名人になったと」

「まあね」

「良いカップルだな~。かっけえ」

部室には誰もいなくて、あたしと野本くんは2人で雑談タイム。


「野本くんは恋人とかいるの?」

「一応いるよ。付き合ったばっかだけど」

「へ~。どんな人?」

「同じ学部の人。笑った顔がかわいいの!」

2人で恋バナで盛り上がった。

なんか仲良くなれた気がする!

大学に友達とかがいないからちょっと嬉しい。

話に盛り上がってたらいつの間にか行かなきゃいけない時間。


「じゃあ夏葉のこと迎えに行ってくるね~」

「おう!気をつけてな~」

野本くんに別れを告げてから空港へ。

久しぶりの夏葉。

時差もあって、この期間そんなに話せてないから久しぶりに夏葉と会えて嬉しい。

空港でしばらく待ってたら出口から夏葉が来た!

あたしにすぐ気づいてくれる夏葉に駆け寄って抱きついた。


「会いたかったよ~」

「お~、人目あんぞ~」

「いいもーん」

でもチューはやめとく!

「おつかれおかえり!持ってあげるから荷物ちょうだい!」

「いやいいわ…。それより早く家帰りてえ。車?」

「うん! 大学に車で乗り付けてやった!」

「ははっ。バレたらすげえ怒られそうだな」

「ちゃんと申請したもんね。えらい?」

「えらいえらい」

あしらわれてる~…。

まあいいや。会えて嬉しい!


夏葉と一緒に空港の駐車場まで行く。

サーフィンの道具とカメラの機材を持つ夏葉はとにかく荷物が多い。

あたしが半分荷物を持ってあげても横並びできなくて手がつなげない…。

ようやく駐車場に着いて車に荷物を積み込んで一息。

助手席の夏葉を見てへらっと笑ったら、夏葉がおもむろにあたしの頭を撫でた。

「ありがとな、迎え来てくれて」

「当たり前だよ~」

「会いたかった」

夏葉がそう言って軽くあたしを抱き寄せた。

あったかい…。

幸せだ…。

最後に一瞬チュッとキスしてくれる。

嬉しいあたしは元気よく車を発進させて夏葉の家に向かった。


「今日授業終わったあと暇だっただろ」

「なんかね、友達できた!」

野本くんの話を夏葉にした。

「この浮気女」

「野本くん彼女いるもん!」

「わかんねえぞ~。穂風のこと好きな男は絶対いるからな?」

それは夏葉があたしのこと好きすぎるだけじゃん…。

「あ~疲れた。寝るわ…」

「はーい。おつかれさま、おやすみ」

夏葉がベッド横になった。

あたしはそんな夏葉を横目に、夏葉の荷物を片付けようと立ち上がる。

って、ん…?

夏葉が目を瞑りながらあたしの腕を掴んだ。

そのまま布団の中に引きずり込まれ、夏葉の胸の中…。

あったかくて幸せ…。

でもムラムラしちゃうかも…。

夏葉の首に唇を寄せた。


「おい…」

「なに?」

「まじ眠いんだって…」

「ふふ~」

気にせず夏葉の首を食べ続けた。

夏葉があたしの口を押さえにかかった。

「ん~」

「寝かせろって…」

眠い夏葉の手の力なんて大したことないので、すぐに手をどかせるあたし。

夏葉によじ登って唇にチューすることにした。

夏葉もさすがに諦めたのか、スイッチが入ったのか、そこからはもうずっとイチャイチャ。

夏葉があたしを反転させてあたしの上にまたがった。

あたしの勝ち~。

久しぶりの夏葉は幸せだった。

終わってから「まじで寝るからな…」と言った夏葉。

ごめんね。

そんな夏葉の胸にしがみついて、2人でそのまま朝まで寝た。

今日は最初から泊まるつもりでパパに許可を取ってきてるんだ。


次の日はあたしが大学。

一緒に朝シャワーを浴びて、朝ご飯を食べて、都内で用事があるという夏葉と一緒に家を出た。

夏葉、眠そう…。

「眠そうだね」

「どの口が言ってんだよ…」

「へへ」

電車の中で夏葉が隣に座るあたしの肩にもたれて眠り始めた。

肩の重みがそれだけ幸せの重みだ。

可愛い寝顔。

それからしばらく電車に揺られて大学へ。

夏葉と一緒にキャンパスに入ってみたら、ちょうど野本くんがいた。

「野本くんだよ」

夏葉に教えてあげた。

「ふーん、あれが」

夏葉は面白くなさそう。


「次の授業も野本くんと一緒だよ」

「へー、そう」

おもしろい!

野本くんに手を振ると野本くんがこっちに気がついた。

「おー、岩崎。おはよー」

「おはよ!」

「お、隣の人は…例の彼氏さん?」

「そうだよー」

野本くんが夏葉に「どうもー」と軽くお辞儀した。

夏葉も軽く頭を下げる。

「昨日岩崎から色々話して聞いてたんすよ! めっちゃかっけえっすね! 岩崎の復帰したときの写真? もめっちゃ良かったです!」

野本くんが楽しそうに夏葉と喋る。

友達に彼氏紹介するのって楽しいかも。

「あ、そろそろ授業始まるかも」

「そうだな!」

「じゃあね、夏葉」

手を振って夏葉と別れた。


それからその日の授業を一通り済ませて海へ。

海には悠星くんがいた。

「またお店早く閉めたのー?」

「だって客来ねえし…」

まったく…。

あたしの呆れをよそに、悠星くんがあたしの足元に目を向けた。

なに…?

「なんか膝んとこついてるけど」

「えっ? …うわっ」

見ると、膝の少し下のあたりに赤い痣…。

絶対昨日の!

なんか膝あたり嚙まれたと思ってたけどキスマークだったのか…。

夏葉がキスマークとか、しかも見える位置になんて珍しいけどやっぱ相当眠かったからかな…。


「幸せそうだな」

「…」

恥ずかし…。

「そういう悠星くんは愛姫とどうなの?」

「べつに。あんま会えねえし。次の合宿で久しぶりに会うみたいな感じ」

そっか、国際の遠距離恋愛は大変だよね…。

あたしだって1週間夏葉と別の国で離れただけでも寂しかったのに…。

にしても合宿か…。

毎年恒例のMAKANA主催の世界選手権に向けた強化合宿。

世界選手権が近い。

心が少しざわついた。

ううん、大丈夫。

あたしはあたしなりの、結果にとらわれない楽しい波乗りをするの。

ざわつく心に、夏葉がぼんやりと浮かんで、すうっと気持ちがほどけていくような気がした。

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