第21話
~穂風~
希望していた大学の指定校推薦に合格して、来年からの大学が正式に決まった。
楽しみだな、大学生生活。
そして、日曜日だった昨日、ついに免許も取得したあたし。
順調順調~。
とりあえず今日の朝、学校に行く前に原付で海に来てみた。
「おはよー!」
夏葉とちょうど駐輪場で会う。
夏葉も原付だ。
「おー、穂風。早速原付で来たな」
「うん、嬉しくて」
「車の運転も楽しみだな?」
「まだ緊張するけどね~」
そんな話しながら板(※サーフボード)を持って海へ。
今日は波のコンディションが良くてめちゃくちゃ気持ち良い。
夢中で波に乗ってたら、いつの間にか学校に行かないといけない時間。
「夏葉、あたしもう行くね!」
「ん。あっ、ちょっと待て」
「何?」
「今日俺ん家来るなら俺遅くなるから先帰ってろ」
そう言って夏葉があたしに家の鍵を渡した。
「なんで?」
「別に、仕事」
「浮気か」
「ちげえよ! なんでそうなる」
冗談だもーん。
夏葉の鍵を大事にしまった。
「じゃあね! またあとで~」
「はいよ」
そして学校が終わって夏葉の家に直行。
制服を脱いで勝手に夏葉の部屋着を着てから、適当にだらだらして過ごす。
早く夏葉帰ってこないかな~。
遅くなるって言ってたけどどのくらいだろ?
と思ってたのに、ピンポンとインターホンが鳴って、誰だろうとドアののぞき穴から確認したら夏葉だった。
早くない!?
「おかえり! 早かったね!」
そう言いながらドアを開けた瞬間、あたしはびっくり…。
「どうしたの!?」
夏葉が右腕にギプスをして立ってる…。
「なんか骨折した」
「骨折!? なんで!?」
「波に巻かれて吹っ飛んできたサーフボード腕で受けちまった」
大けがじゃん…。
すごい痛そうだし利き腕だし…。
なんかあたしが泣きそう…。
夏葉が左側の手であたしの頭をぐしゃっと撫でて笑った。
「んな顔すんなよ。そんな酷い骨折じゃねえし安静にしてればすぐ治るって医者が言ってたぞ」
「すぐってどのくらい…」
「ん~…ぎりサーフィンできるようになるまで2ヶ月弱ってとこ? 完全に治るまではもうちょいかかるっぽいけど」
「全然すぐじゃないじゃん…」
サーフィンできるまで2ヶ月弱って…。
長すぎるよ…。
「あたし今日泊まる…」
「何言ってんだよ」
「だって利き腕も使えないのに夏葉どうやって生活するの? 夏葉が死んじゃう…」
「死なねえよ…」
泊まると言い張るあたし。
家にいるママに電話をかけた。
《はあ…。しょうがないね、夏葉にお大事にって伝えといて》
「は~い」
というわけで夏葉の家にお泊まりになった。
キッチンに立って料理してると、夏葉から後ろから左腕で抱きしめられた。
「家に穂風いるのまじ最高だな」
「でしょ~。あっ、そうだ、鍵返すね」
「いや、俺もう1個持ってるし、穂風が持ってろ」
「いいの!?」
嬉しくて死にそう…。
彼氏の家の合鍵…。
夏葉が、喜んでるあたしを見ながら髪を手ぐしでとかす。
それからあたしの首筋の匂いを嗅いだ。
「穂風の匂い」
「恥ずかしい…」
「好きな匂い」
んもう~…。
無駄にドキドキさせないでよね!
「出来た! 食べよ?」
「ん。うまそうじゃん」
出来たカレーをテーブルに置いて夏葉と向かい合わせに座った。
夏葉からスプーンを奪う。
「…なんで?」
「穂風ちゃんが食べさせてあげまーす」
「最高だな」
夏葉にカレーをあーんしてあげる。
たまに夏葉が左手であたしにあーんしてきたり。
あたしたちイチャイチャしすぎじゃない?
なんかすごい楽しい…。
食後にリンゴもあたしが剥いて、一緒に食べて。
お風呂も一緒に入って洗ってあげる。
着替えも手伝ってお布団へ!
「至れり尽くせりだな」
「今日は夏葉のメイドさんだと思っていいよ」
「なんだそれ、エロいな」
夏葉の左腕にすり寄る。
夏葉があたしのおでこにキスした。
「痛い?」
「痛み止め効いてっから今はそんなに」
「そっか。良かった…」
夏葉があたしの頭を優しく撫で続ける。
この手が好き…。
あまりにも心地よくて、いつの間にか夏葉の腕の中で眠っていた。
朝になって目が覚めたら目の前に夏葉の寝顔。
寝顔可愛い…。
夏葉の寝顔を見るのは実は初めてかも。
可愛すぎるので、夏葉にチューした。
「ん…」
夏葉が目をつぶったままあたしを左腕で引き寄せる。
朝から超幸せだけど…学校遅刻する…。
心を鬼にして夏葉の腕からすり抜けて、学校へ行く準備をしてると、夏葉が途中で起きた。
一緒に朝ごはんを食べて、家を出る…。
「じゃあね、死なないでね…」
「だから死なねえって…」
「へへ。じゃあね、いってきます!」
「ん。頑張って」
行ってきますのチュー!
うん、頑張る!
夏葉に手を振って出発した。
学校では、リアに「女子高生が23の男の家から朝帰り」とからかわれ、一日授業を受けて。
放課後は海へ。
夏葉は昨日できなかった仕事をしに行くらしい。
海に行ったら花枝さんと愛姫と…悠星くん?
「やっほー」
「ミカゼ!」
「なんで悠星くんいるの?」
愛姫は花枝さんにコーチングしてもらってるから分かるけど…。
悠星くんはなぜ?
「俺も花枝さんにコーチお願いすることにしたんだよ」
「そうなの!?」
「ん。花枝さん教えるのまじ上手いから。もっと高み目指したいし」
みんな頑張ってるんだね…。
あたしも負けてられない。
そして、夜…。
「おかえりー!」
「…なんでいんの?」
「ママに泊まる許可もらってきた! 夏葉が治るまで泊まり込みで夏葉の介護しまーす」
というわけで、あたしは今、夏葉の部屋。
ママをなんとか説得して、週に一度帰ることを条件に、夏葉が治るまで泊まる許可をもらったんだ。
「まじ? 最高だな」
夏葉がそう言ってあたしの頬を撫でた。
この手があたしは大好きだ。
ていうか夏葉が治るまで泊まれるの嬉しすぎる!
あたしどんだけ好きなの!
「そよ子さん怒ってなかったか?」
「全然! むしろ心配してたよ。ご飯も作って持たせてくれた」
あたしは思い出したようにそう言って、夏葉の冷蔵庫を開けた。
「ほら、勝手に入れたけど、肉じゃがとかロールキャベツとかきんぴらごぼうとか色々」
「まじ!? そよ子さん大感謝…」
「お大事にーって言ってたよ」
「つーか」
夏葉がそう言ってあたしを片腕で軽く引き寄せた。
「なに?」
「穂風治るまでいんだったら治らねえ方がいいな?」
「なに言ってんの!」
心配だからまじで早く治ってほしいよ!
あたしも一生ここ泊まってたいけど…。
でも夏葉もあたしのことめちゃくちゃ好きなんだね。
超うれしい。
「早く治していっぱい色んなことしよ?」
あたしがそう言うと夏葉がニヤニヤ笑った。
「ナニしてくれんの?」
何か変なこと想像してる…。
あたしは笑顔で返した。
「なんでもしてあげるよ?」
「……お前エロいな」
「夏葉のせい」
夏葉が面食らった顔をした。
勝った!
「にしても、サーフィンできるまで2ヶ月弱ってやばいね。あたし、1週間サーフィンできないだけで耐えられない…」
「本当にな。収入影響するからやべえし」
「あたしが養ってあげるよ」
「ははっ、頼もしいな」
そのとき、夏葉のスマホに着信が入った。
スマホをのぞき込むと、『絵奈』の文字。
女!?
あたしが眉間に皺を寄せながらスマホを睨むと、夏葉があたしのおでこに軽くデコピンした。
「姉だから」
あたしに一言そう言って、夏葉が電話に出た。
お姉さん…。
喋るわけでもないのになんか急に緊張!
確か夏葉の10歳上って言ってたよね?
「もしもし」
《あ、夏葉―? あんたさ、いつ実家帰ってくる予定?》
スピーカーホンにしてるわけでもないのに、お姉さんの声が電話越しによく聞こえてくる。
元気そうなお姉さんだ…。
「いや、特に帰る予定ねえけど…」
《なんかこの前お父さん会ったら、夏葉にってお金預かったからあんたに渡したいんだけど》
「別にいいから…。今度帰ったときまで取っとくか振り込んどいて」
《何言ってんのよ、早く渡したいから近いうちこっち来て。お母さんだってあんたのこと心配してんだから》
そこまで会話が聞こえてきたとき、ちょうど宅配のインターホンが鳴った。
夏葉は電話を続けたまま、あたしが「はーい」と玄関先に出て荷物を受け取る。
荷物を持って元の場所に戻ると、そのタイミングで電話越しから《…あんた、今女と一緒にいんの?》と聞こえてきた。
やばっ…。
悪いことをしてるわけでもないのに、緊張して心臓がひっくり返る。
「…いるけど」
《彼女? だったらちょうどいいからその子も実家連れてきな》
「何言ってんだよ…」
《分かった? 絶対だからね? 言うこと聞かなかったらどうなるか分かるよね?じゃ、あたしそろそろ行かないとだから》
そう言って一方的に電話が切れた。
嵐みたいだ…。
っていうか…。
「夏葉の実家? 行きたい!」
「聞こえてたのかよ…」
「全部聞こえてた!」
「姉ちゃん声でけえからな…」
というわけで、渋る夏葉を無理矢理納得させ、夏葉の実家に行くことになった。
お母さんが住んでる夏葉の実家は千葉県寄りの東京にあるらしい。
お姉さんはそこからちょっとだけ離れた都内に一人で住んでるんだって。
ちなみにお父さんも都内に住んでるみたいだ。
夏葉の実家へは、練習がてらあたしの運転で行くことになった。
緊張するけど頑張る!
そして、当日。
夏葉のいつも乗ってる左ハンドルの車じゃなくて、家から借りてきた右ハンドルの車。
夏葉を助手席に乗せて出発~!
「穂風、肩張りすぎ」
「だって緊張するもん…」
「何に? 運転? 実家?」
「どっちも…」
あたしがそう言うと、夏葉が左手であたしの頬を軽くつねった。
「なに…」
「可愛いなと思って。あんま緊張すんなよ? 運転も普通に上手いし」
そう言われたら頑張っちゃうけど…。
ドキドキする~…。
それでもなんとか着いた夏葉の実家。
こじんまりした綺麗な一軒家だ。
って待って、ガレージにバックで車入れられない…。
「夏葉…」
「俺が補助してやるから軽くアクセル踏んで」
夏葉がそう言って助手席から左手でハンドルを持った。
夏葉の真剣そうな顔が視界に入って、さっきとは違う意味でドキドキ。
夏葉って本当にかっこいい…。
そして、無事に車庫入れが出来た。
ふう…。
そのとき、家から綺麗な女の人が出てきた。
茶髪で肌が焼けた美人。
夏葉のお姉さん!?
慌てて車から降りて挨拶した。
「こんにちは…! 夏葉…さん、とお付き合いさせていただいてる、岩崎穂風です!」
「うわ~こんにちは! 可愛い~~! こんな可愛い子がうちの夏葉と…。あっ、あたし、夏葉の姉の
明るくてすごい良い人…。
それに夏葉に似てる。
「穂風ちゃんが運転してきたの?」
絵奈さんがそう言ったとき、夏葉が車から降りてきた。
絵奈さんが夏葉の方を見る。
「えっ、あんたどうしたのその腕…」
「折った」
「まじ? 大変じゃん」
絵奈さんはそれだけ言って、家のドアを開けて「お母さーん? 来たよ、夏葉たち!」と大きな声で言った。
めまぐるしい…。
2人で家にお邪魔した。
「いらっしゃーい!」
元気な声がして、絵奈さんにそっくりな人が玄関に来た。
夏葉の…ママだ!
夏葉を産んだ人!?
あたしは慌ててお辞儀。
「はじめまして! 岩崎穂風です! 夏葉さんにお世話になってます!」
あたしがそう言うと、お母さんが元気よく笑った。
「こちらこそうちの息子がお世話になって! 夏葉ってあんま感情出さないから付き合いづらいでしょ」
「そんなことないですよ!」
「アハハ、ありがとね。ていうか夏葉、あんたどうしたのその腕」
お母さんが夏葉に視線を送った。
「折ったんだって」
絵奈さんが代わりに答える。
「あそうなの。まあいいわ、入ってー」
お母さんが家の中に入れてくれる。
絵奈さんもお母さんもあんまり夏葉の腕のことには関心がないみたいだ。
たくましいね…。
「あ、ほら夏葉。これ、お父さんから」
「あー。サンキュ」
絵奈さんが夏葉に封筒を渡す。
お金預かったって言ってたっけ。
「あんたもたまにはお父さん会いに行きなよ。さみしがってたよ」
「っつってもなあ…。会っても話すことねえし気まずいんだよ」
行きの車の中で聞いたけど、夏葉が1歳のときにご両親が離婚したらしくて、あんまりおお父さんと仲良くした記憶がないんだって。
たまに面会はしてたけど、そんなに仲良くなれなくて大人になってからはほとんど会ってないらしい。
絵奈さんはお父さんと定期的に会ってて仲良いらしいけどね。
「で? 穂風ちゃんと夏葉はやっぱり海で知り合ったの?」
お母さんが楽しそうにあたし達に聞いた。
「あ、そうです! あたしもサーフィンやってて!」
「やっぱり~! 夏葉この前まで海外行ってたから、出会ったのはそのあと?」
「はい、引っ越してきた初日にたまたま知り合って…」
「何それー! 運命?」
お母さん、元気だ…。
でも楽しそうですごく嬉しい。
話しやすいし。
「でも結構若そうだね~。ハタチくらい?」
「あっ、えっと…」
夏葉の顔をちらっと見た。
前に、高校生に手を出したってバレたら怒られるって言ってたよね。
でも嘘つくわけにいかないし…。
でも、あたしがどうしようかとオロオロしてたら、夏葉が口を開いた。
「18歳」
夏葉…。
はっきり言ってくれるんだね…。
「まさか、高校生じゃないよね?」
お母さんの顔色が若干変わった。
夏葉の方を真剣に見る。
反対されたらどうしよう…。
「いや、高校生。高3」
夏葉が言った。
覚悟決めてる顔だ…。
「あんた高校生に手出したの!?」
「信じらんない! 穂風ちゃんの親御さんとちゃんと話した?」
お母さんと絵奈さんが口々に言う。
「話したしもう何回も会ってるし家にもお邪魔させてもらってる。俺も最初葛藤あったけど今はご両親から信頼も得てるから。穂風のこと、すげえ大事にしてるし」
夏葉が真剣な顔で2人に言い切った。
お母さんとお姉さんの前でそんな風に言ってくれるの…超嬉しいよ…。
「あの、夏葉さん、本当にあたしのことちゃんと気遣ってくれてて、あたしがどんなに遅くまで一緒にいたいって言っても絶対早く帰してくれるんです」
「穂風ちゃん」
「うちの両親からも、そういうところ本当に信頼されてるんです」
あたしがそう言うと、お母さんと絵奈さんが顔を見合わせた。
それから優しい顔をしてあたしを見つめた。
「もし夏葉に嫌なことされたらすぐあたし達にチクっていいからね。うちの息子のこと、大事に思ってくれてありがとう 」
そんな風に言ってもらえるなんて…。
反対されたらどうしようって怖かった…。
どうしよう、すごく嬉しい。
ちょっと涙目になってしまって、夏葉の方を見た。
夏葉がふっと笑って、愛おしそうな目であたしの頭を軽く撫でる。
お母さんと絵奈さんが、そんなあたし達を見て顔を見合わせて笑ってた。
恥ずかしい…。
それから、夜ご飯まで食べさせてもらってからお暇することになった。
ガレージまでお見送りしてくれる。
「うわ~、良い車乗ってるんだね。穂風ちゃん、良いところのお嬢様でしょ」
「あはは…」
まあぶっちゃけそうだけど…。
2人にお辞儀して運転席に乗り込んだ。
窓を開けて、「ありがとうございました!」と笑顔で言う。
「あっ穂風ちゃん」
お母さんがそう言って、あたしの耳元に顔を近づけた。
「夏葉が穂風ちゃんのこと大事にしてるの、すごく伝わった。あんな優しい顔する夏葉見たことないし。ありがとうね」
それだけ言って、笑顔で車から離れてあたしに手を振った。
あたしはお辞儀をして車を発進させた。
「…母さん、最後なんつってた?」
「夏葉があたしのこと大好きなのが分かったって」
「嘘だろ…」
あたしは黙って笑った。
本当だもーん。
夏葉に大事にされてるのも、夏葉のご家族に会ったのも、夏葉のご家族に歓迎されたのも。
全部全部嬉しい。
行ってよかったー!
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