浜風の青春

第13話

~穂風~


夏休みが終わるまであと少し。

今日はあたしの誕生日だ。

ようやく18歳。

ちょっと大人に近づいたんじゃないかと思う。

大人な夏葉にあたしも追いつきたいもん…。


今は夏葉の部屋にいる。

夏葉はどこかお店を予約しようとしてくれてたけど、あたしが夏葉の部屋がいいと断った。

どこか行くよりここが落ち着くから。

夏葉と2人でいたいしね。

夏葉が作ってくれたほうれん草と鮭のクリームパスタをお昼に食べ終わり、夏葉がお皿を洗っているところを後ろから抱きしめて顔を背中につけた。


「何してんの」

夏葉が洗いながら言う。

「くっついてるのー」

「動きにくいわ」

「あとどのくらいで終わる?」

「もう終わる」

そう言って言葉通り水を止めた夏葉。

体ごと振り向いて、あたしの髪の毛にキスした。

それからあたしの腕をほどいて、デスクまで移動して、引き出しから何かを取り出す。

あたしは畳に腰を下ろした。


「ん、誕生日プレゼント」

そう言って夏葉がテーブルに小さい箱をコトンと置いた。

やばい、想像以上に嬉しいかも…。

好きな人があたしのために用意してくれたプレゼント…。

ドキドキする気持ちを抑え、箱をゆっくりと開けた。

うそ…。


入っていたのは、シルバーのピアス。

夏葉が右耳にしているのと同じやつだ…。

前に、穴は開けてないけど、夏葉と同じピアスが欲しいって言ったんだ。

そのときは、お揃いなんてガキくさいことはしないって一蹴されたのに…。

「いいの…?」

「ん、特別な」

夏葉はあたしを喜ばせる天才だ。

中毒性あるよ…。


「すぐ穴開ける…」

「と思って、こっちも」

夏葉がそう言ってピアッサーを出してきた。

用意良すぎだよ…。

「開けてやる」

そう言った夏葉はピアッサーを手に持ってあたしの左耳に触れた。

夏葉が開けてるのとは反対側の耳。

夏葉の綺麗な顔がすぐそばにあって、あたしの耳を見てる。

「耳ちっせえな」

言いながら、あたしの耳を軽く撫でる。

その瞬間、体がぞくぞくし出した…。


何この感覚!?

前に夏葉に唇をなぞられたときと同じ感覚だ。

あたし、変態なのかな…。

「開けたい位置とかあるか?」

「おまかせします…」

「了解」

ピアッサーと耳たぶを消毒してから、夏葉がピアッサーを握った。

なんか手慣れてる…。

夏葉に触れられた耳の部分が相変わらずなんだかぞくっとする。


「行くぞ~」

瞬間、痛みが突き抜けた。

一瞬だった…。

「しばらくはファーストピアスしてろよ?」

そう言ってキラキラした石のピアスをあたしの耳にそのまま入れてくれた。

「こっちは?」

そう言って、反対の右耳に触れる。

「左だけでいい…」

「おっけ。てか…」

夏葉が言葉を切ってあたしの顔を見た。

なに…?


「んなエロい顔してっと襲うぞ…」

え!?

そんな顔してた…?

あたし一体、どんな顔してんの…?

「耳弱いのな」

そう言って夏葉は更に優しくゆっくりとあたしの耳に触れ始めた。

「…っ」

なんとも言えない感覚が体を駆け巡る。

気持ちいい…かも…。

「可愛すぎ…」

夏葉はあたしのおでこに強めにキス。


家にいると、夏葉は唇には絶対にキスしてくれない。

大切にされてるのが嬉しかったけど、やばい、今、超不満かも…。

夏葉の膝の上に正面から乗っかって、少し腰を浮かせて夏葉の口に濃いめにキスした。

「穂風、これ以上は俺がマズイ」

夏葉がそう言って体を離す。

ううん、あたしが耐えられそうもない…。

「しよ…?」

あたしが言った。

「…言ったからな」

夏葉があたしにキスをした。

夢中でキスしながら、ゆっくりと体が倒されていく。

下から見る夏葉の顔は、いつもよりもずっとずっと素敵に見えた。

もっと触れられたい…。


キスをしながら、夏葉があたしの着ている服のお腹のところに手をかけた。

ドキドキしている心臓。

なのに、そのとき…。


《ピンポーン》

来客を告げるインターホンの音。

「…」

あたし達の間に一瞬沈黙が流れる。

「…無視するぞ」

「うん…」

夏葉がもう一度あたしにキスをしようとした。

でも、そのタイミングでまた音が鳴った。

それも《ピンポーンピンポーン》と連続で…。


「夏葉…」

「あーくそ、誰だよ…」

夏葉がそう言ってあたしの上からどいた。

「穂風、悪い…」

「しょうがないよ…」

夏葉が玄関へ行く。

ドアを開けた瞬間、夏葉が「は!? お前なにしにきたんだよ!」と大きな声を出した。

と同時に「入るぞ~」と若い男の人が夏葉を押しのけて家の中に入ってくる。


誰!? 何!?

驚いて、横にしていた体が跳ね起きた。

一方の男の人も驚いた顔をしてる。

そしてあたしを指さして夏葉を見て、「夏葉の女!?」と大声を出した。

「お前声でけえよ…。何しに来やがった…」

そう言う夏葉を無視する男の人。

あたしの方は軽くパニック。


「いやまじか~。はじめまして~。俺、夏葉の親友のいくって言います!」

そう言ったその人。

なんか軽いし…。

でもよく見たら顔立ちが綺麗。

茶色の短髪もよく似合ってる。

「穂風、まじ悪い。コイツ、高校時代の友達…」

「あ、ううん。初めまして、夏葉の彼女の穂風です」

あたしはそう言って郁に挨拶。

郁の方はあたしに興味津々って感じだ。


「若いね~、ハタチくらい? 大学生?」

「ううん、高3」

「は!? 高校生!? 夏葉お前JKに手出したのか!?」

郁がそう言ったら夏葉が黙って郁の背中を蹴った。

「いってぇ~…」

「うるせえわお前…」

「すごい日焼けしてるから夏葉の海仲間?」

なんかこの2人面白いかも。

漫才してるみたい。

「そうだよ」

あたしが代わりに答えた。

「へ~、海の人と付き合うの初めてだな」

「そうだな…」

「雰囲気も今までの彼女と全然ちげえし。趣味変わった?」

郁が言うと、夏葉はもう一発蹴った。

面白い…。


ていうか、夏葉の元カノのこととか全然知らない。

あたしと雰囲気違うんだ…。

知りたいような、知りたくないような…。

夏葉の元カノ、全員抹殺したい。

あたしはどうやら嫉妬深いらしい。


「で、お前は何しに来たんだよ」

「ああそうそう。今日この辺で合コンあって1人来れなくなったから夏葉誘おうと思ったんだけど彼女いるならいいわ」

「ただ邪魔しに来ただけじゃねえか…」

「悪いね」

夏葉はイライラした顔。

あたし達、今からって時に邪魔されたからね。

話を聞くと、郁はどうやら一年浪人して今大学四年生らしく。

この辺にキャンパスがある大学に通ってるらしい。

私立上位の良いとこ。


「穂風ちゃんは大学は?」

「指定校推薦で西陸大学行く予定~。受験勉強する時間ないので」

「えっ、西陸って私立トップの!? すげえな…」

受験勉強しない代わりに学校の定期試験頑張ってきたもん。

いつだって誇れるあたしでいたい。

「それより、高校のときの夏葉どんなだったか教えてよ」

あたしがやや身を乗り出し気味に郁に聞いた。

あたしの知らない若いときの夏葉ってどんなだったんだろ。

夏葉は普段自分の話をしないから未知だ。


「あー、夏葉とは1年ときから同じクラスだけど昔から女子からも男子からも人気だったな~」

「そんな感じするね」

「バスケ部入ってたけど球技大会のときめちゃくちゃ女子からチヤホヤされてたよな~」

「へー…」

「体育祭のときは後輩の女子からもモテまくって夏葉と写真撮るために後夜祭のとき軽く列とか出来てたな」

「…」

なんか女子の話ばっかり…。

あたしの知らない夏葉と一緒に写真に映った女がわんさかいるってこと!?

むぅ~…。

「夏葉は人に惚れさせるのが上手いんだよな。男も女も。まず器用じゃんこいつ」

「そうだね」

「運動もできるし勉強もできるしセンスもあるし。しかも顔までいいの。でもそれ鼻にかけないから誰も嫌わないんだよな。逆に腹立つわ」

夏葉って好かれてたんだね…。

なんかすごい想像できた。

クラスの中心って感じだ。

夏葉の方を見るとうっせえなという顔をしてる。

でももっと知りたいからあえて無視。


「なんか写真とかないの?」

「あるよ。見る?」

郁がノリノリでスマホの写真フォルダを見せてくれる。

高校時代のたくさんの写真。

それだけでどれだけの青春を楽しんできたかがわかる。

「この辺とか夏葉映ってる」

文化祭で看板作ってる写真、男子同士でなんかふざけてる写真。

ふとしたときの振り向いた顔と、そのあと写真を撮られたことに気がついてあきれながら楽しそうにしてる写真。

教室で紙パックの紅茶飲みながら勉強してる写真とか…。

夏葉が若くてめちゃくちゃ可愛いんですけど…。

今はパーマの髪の毛も、高校生らしいスポーツ刈りで。

制服も新鮮ですごいかっこいいいし…。

この写真全部ほしい…。

あとで郁にもらう約束をしておいた。

見てるだけで視力上がりそう。


「ん、これは?」

次にめくった写真は夏葉と郁の真ん中に遠慮がちな女の子が写ってる写真。

そんな写真が女の子違いで何枚か。

体育祭っぽい。

「後輩の子だな~。話したことほとんど無いけど俺と夏葉と一緒に撮りたいって」

「モテ男じゃん…」

「だからそうなんだって」

彼氏がモテてて嬉しいような嬉しくないような…。

この気持ちはなんだ…。

「これは? あっ、これも…」

夏葉がクラスの女子っぽい子いっぱいと映ってる写真がたくさん出てきた。

女の子5人と郁と夏葉と知らない男子でピースしてるやつとか。

クラスの女子が夏葉にメイクしようとして夏葉が嫌そうにしてる写真とか。

うわっ、なんかこれすごい嫌…。

言語化できないけどなんかめちゃくちゃ嫌!!

見なかったことにしよ…。


と思ったらまた出てきた。

窓際に夏服の夏葉が暑そうに内輪持ってそっぽ向きながら立ってて(めっちゃかっこいい)、その横にスカート短くてワイシャツのボタンがめっちゃ空いた可愛い女の子…。

「あっこれ夏葉の元カノじゃん。懐かし~」

郁が言った。

元カノ!?

これがもとかの……。

しばらく呆然と写真を見てた。

なんか得体の知れない怖い物を見た感…。


「は、お前こんなん穂風に見せんなよ!」

ずっと無反応だった夏葉が少し慌てた。

もう見ちゃったもん…。

郁は夏葉なんか気にも留めてない。

「でもすぐ別れたよな。付き合って3ヶ月くらい?」

「んな写真消せ…」

「向こうから告られてなんとなく付き合ったけど性格合わなすぎて速攻別れてたな」

「いいから写真消せよ…」

「わかったようっせえな-」

「うっせえのはお前だ!」

なんか予想外のダメージを受けたけど2人の漫才が面白いから忘れることにした。

うん…。なんかとにかく夏葉の高校時代はイメージできたよ…。

夏葉の制服姿とあどけない姿だけ覚えておこう。

あたしの高校の誰よりもかっこよかったもんね。

郁にお礼を言ってスマホを返した。

なんかこの短時間で感情がジェットコースター並みに忙しくて疲れた…。


結局郁は二時間くらい居座ってから夏葉の家を出て行った。

急にあたしと夏葉の2人になり、シーンとする室内。

さっきの続き、したい気もするけどそんな雰囲気でもなくなっちゃった。

「はー…。郁っておもしろいね」

とりあえず口を開いた。

「まじ急にわりいな」

「夏葉の高校時代の話聞けて楽しかったよ」

「そりゃよかった」

「なんかちょいちょい嫌な写真も見ちゃったけど…」

「忘れろ」

「忘れまーす」

でもやっぱ今こうして夏葉の隣にいられて幸せ。

夏葉との高校生活とかすごい憧れるけど。

文化祭とか一緒に出てみたかったな。

あっ、文化祭といえば…。


「そういえばね、再来週あたしの高校で文化祭あるんだけど来れる?」

「あーそっか、現役女子高生、文化祭とかやんのか…。うわ今なんかすげえ年齢差感じた…」

「そんなこと言わないでよ。あたし達のクラス、お姫様カフェやるから来てね」

「あいよ」

あたしはほとんど準備参加してないけど。

夏休みの間にクラスの係の子中心に色々準備してくれてる。

大会とか練習があるから行けなくて申し訳ない…。

練習終わりにたまに行ってるけど、みんな優しくてあたしが行けないことを理解してくれるのがありがたい。

「夏葉は高校のとき文化祭なにやった?」

「何やったっけな…。えーと…クレープ屋とたこやき屋と、あと最後の年はMV作ったり?」

「何それ!?」

「今考えたらしょうもない企画だけど、校歌とかオリジナル曲とか色んな曲でミュージックビデオ作ろうみたいになって、それで俺がカメラ回してた」

なんか素敵。

良い高校生活送ってたんだろうなって感じするよ。


それから2時間くらい夏葉の部屋で映画を見た。

夏葉と一緒にこうやって部屋でのんびり映画を見てる時間が一番平和で幸せだな。

夜はちょっと良いお寿司の出前を夏葉が頼んでくれた。

あと、ホールケーキをフォークでつついて食べたいというあたしのワガママに、2人じゃ食べきれないと文句を言いながら付き合ってくれたり。

幸福でお腹がいっぱいになりそうな誕生日だ。

時間になって、夏葉がいつも通り車で送ってくれた。

もう18歳なんだから門限もう少し遅くしてくれてもいいのに…。

家の前に着いて、少し不満げなあたし。

そんなあたしに構わず、夏葉はあたしのピアスを開けた耳たぶに優しく触れた。


「今度また、な?」

それって今日の続きってこと…?

夏葉に急にそんなこと言われるもんだから、ちょっと顔が赤くなった。

なんか負けた気分…。

好き…。

それから一瞬あたしの唇にキスをして、頭にぽんと手を乗せた。

「ん、龍臣さん心配すっから家入れよ?」

かっこよすぎるよ…。

次会うときまでもう既に待ちきれない…。

夏葉にあたしもぶちゅーっとキスしてから、逃げるように車を降りて家に入った。

世に言う「欲求不満」って感情、初めて知ったのは18歳の誕生日…。

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