第6話
~穂風~
夏葉と海で遊んだ日の夜、あたしの部屋に泊まったリア。
寝る直前、月明かりの入る部屋で、リアがあたしに話しかけた。
「夏葉、いい奴じゃん」
「でしょ?」
「穂風はさぁ~、付き合いたいとか思わないわけ?」
付き合う…。
初めての恋に精一杯で、考えたことなかった…。
恋人への憧れもあったのに、いざ恋をすると目の前のことでいっぱいいっぱいでそんなこと忘れてしまってた。
それに…。
「多分あたしのことガキだって相手にしてないよ」
イラっとくるくらいガキって言われるし。
そういう風には、あたしのこと、見てないと思う…。
好きでいて、一緒にいられたら、それで十分幸せだ。
リアは何か言いたげな顔だったけど、あたしにあえて何も言わずに話をそらした。
「てか来月大会だったっけ?」
「うん、大きな大会ではないけどね。一応順位はつくけどお祭り的な意味合いの方が強い」
まあ、力を抜くつもりは一切ないけど。
特に、パパが審査員で入るなら、外野に舐められないように最大限のパフォーマンスしなきゃ。
「あたしバイトで行けないけど超応援してるかんね!?」
「あんたは本当~に最高の親友!」
隣で眠るリアに抱き着いた。
「うっとおし~」
キャーキャー言いながら、あたし達の夜は更けていく。
それから約一か月、あたしは大会の練習に励んでた。
休みの日はママの車で千葉や静岡の波が良いスポットに行ったり…。
前よりも夏葉に会える頻度が減ってて、会いたい気持ちばっかりが募る。
付き合ってたら、気軽に会えたりするんだろうか…。
それに、「好き」とか「会いたい」って簡単に言える関係ってすごく理想だ。
うーん、やっぱり付き合いたいかも…。
なんてモヤモヤと考えながら、MSC当日になった。
大会はすごい人。
MAKANAは世界的に有名なブランドだからね。
メディアも多いし、観客も多い。
メディアも…ってことは、夏葉もいるはず…。
この前ちらっとMSC行くって言ってたし。
でも、とにかく今は海入って最後の練習しないと!
海でしばらく練習をしていたら、本番前最後の波に乗っているときに海岸に夏葉をいるのを見つけた。
大きなカメラを三脚にセットしてる。
久しぶりの夏葉に心が弾む。
時間なので海から上がった。
夏葉に声かけ行こ~。
そう思って夏葉の方に向かって歩いてたら、「ミカゼ?」と、近くから女の子の声がした。
ん?
この声…。
ぱっと声の方を見ると、童顔で背の低い女の子があたしに大きく手を振ってた。
「
あたしは満面の笑顔でその子の方に走っていって全力でハグした。
「ミカゼ~! 久しぶり!」
この子は、
あたしと同い年のプロサーファーだ。
両親は日本人だけどカリフォルニアに住んでいて、アメリカ代表の選手。
国籍は、今の時点では日本とアメリカの両方を持ってるみたい。
日本に住んでる愛姫のおばあちゃんは有名なプロサーファーの島田
あたしと同じロングボーダーで、境遇も成績も似てるのでがっつりライバル。
愛姫とは小さい頃からの知り合いで、昔から競い合ってきた。
愛姫のことは友達としては大好きだけど、同じサーファーとしては完全にライバル…というか、絶対に勝ちたい存在だ。
「穂風、ドコ行く?」
愛姫は生まれたときから向こうに住んでるから、日本語はカタコト。
文法はそんなに問題はないけど、単語をたくさん知らないのと、発音がちょっと苦手みたい。
だから、あたしと会話するときは英語と日本語半々で話すんだ。
「カメラマンの友達のところ! Will you come along?(一緒に来る?)」
「うん!」
というわけで、愛姫を連れて夏葉のところに行った。
愛姫紹介しよ~。
「夏葉~」
夏葉に近づいて声をかけた。
こっちを見る夏葉。
今日もかっこいい。
「おー、穂風。…って、愛姫?」
ん!?
今、「愛姫」って言った…?
え、知り合い?
「ナツハ! Oh my god!! Long time no see!!(びっくりした! 久しぶり!)」
えっ…。
大きい声ではしゃいだ声を出す愛姫。
しかもハグした…。
いやいやいや…。
愛姫にとって完全に挨拶のハグなのもわかるしあたしもさっきしたけど…。
えっ!? 無理!!
心の中が猛烈にモヤモヤする。
「(穂風のカメラマンの友達って夏葉だったんだね!)」
「(お前らも知り合いだったんだな)」
「(そうなの、小さい時から! 世間って狭いんだね)」
英語で会話してるし…。
なんか仲良さそう…。
「(2人は何で知り合いなの?)」
むかつくので割り込んだ。
夏葉取られたくない!
「俺が向こうで仕事してたとき何回か仕事で一緒だったんだよ」
夏葉が日本語で答えてくれた。
そっか、仕事で…。
「あたしももっと早くに夏葉と知り合いたかったな…」
「んなこと…」
あたしも台湾に仕事で行くことはあったのにな。
なんて昔のこと考えても仕方ない。
あたしはこうして今夏葉と一緒にいるんだから!
「2人、仲良し! But Mikaze, we’d better get going…(でも穂風、そろそろ行かなきゃ…)」
「あっ、そうだね。行かなきゃ」
「マタあとで話そーネ! See you later(またね)」
夏葉に手を振って別れた。
受付しなきゃ…。
でも、2人の仲が気になる…。
「(愛姫、夏葉といつから知り合いなの?)」
受付に向かって歩きながら、さりげなく愛姫に聞いた。
「(夏葉? うーん…1,2年前かな)」
結構長いんだ…。
なんかショックというか、モヤモヤする~…。
「(結構仲良い?)」
「(連絡取ったりはしないけど、仲良いとは思うよ)」
そうなんだ…。
でも、連絡取ったりしてないのか。
その点で言えば、あたしの方が仲良いって言える?
無理やり自分を安心させようとしているのが自分でもわかる。
う~…。
受付に行ったら悠星くんも受付中だった。
「おー穂風」
「悠星くん」
悠星くんが、あたしの隣の愛姫を見た。
「この中学生、誰?」
悠星くん…。
愛姫はあたしと同い年なんだけど…。
確かに童顔で背も低いけど…。
ていうか愛姫、そこそこ有名なはずなのにな。
「(穂風、こいつ今あたしのこと中学生って言った?)」
愛姫が怒った顔であたしに英語で言った。
こいつって言ってるし。
「うお、英語喋った」
「悠星くん、この子、愛姫。あたしと同い年だよ」
「は? 同い年? 5歳くらい年の差あるように見える」
「…」
「あー、もしかして島田花枝の孫? 確かそんな感じの変な名前だったよな」
悠星くんってなんでこうなのかな…。
悪気がないのがまたタチが悪い。
愛姫がますます怒った顔をしてる。
そして悠星くんに英語で吠えた。
翻訳できないような悪口…。
「俺、英語分かんねえ。この子なんて言ってんの?」
「知らない方がいいよ…」
これ以上この2人を一緒にするのは危険だと判断して、早々に受付を済ませて2人を引き離した。
そしてはじまった大会。
サーフィンの大会では普通、2~4人で組を作られる。
その組はヒートっていうんだけど、ヒートごとに順番で制限時間以内に波に乗る。
あたしのヒートは一番最後。
サーフィン大会には共通ルールがあるけど、MSCは特別ルールが敷かれてる。
詳しい説明は省くけど、とにかく自分の好きなように乗れるのがMSCの好きなところ。
まず最初のヒートはセミプロの人たち。
そのヒートが終わったら愛姫たちの組だ。
愛姫のサーフは躍動感がある。
いつも何かと闘ってるみたいな感じ。
なんていうか、鬼気迫るものがある。
本人のキャラはのほほんとした感じなのに…。
ていうかむしろ、サーフィンがああだから自分のキャラクターはあんな感じでいられるのかも。
ロングボードは基本、のんびりとした波乗りだ。
でも、愛姫のロングは、まるでショートボードみたいに素早く動く。
うまい。
けど正直あたしもあのくらいはできる。
普通の大会で求められるのは、愛姫みたいな波乗り。
でも今日はMSC。
あたしの好きなロングの乗り方は、ロングらしいのんびりとした乗り方だ。
あたしは自分のやり方で勝ち取りに行く。
あたしのヒートになった。
慎重に波を見定める。
今日は、夏葉も見てるし、愛姫にも絶対に勝ちたい。
パパもいるから外野に舐められないようなパフォーマンスしないといけないし。
それに、これは言わばMAKANAのサーファーで誰が一番強いのかを競う大会だ。
負けられない。
めちゃくちゃ良い波が来た。
肩(※波のサイズのことで、身長の肩くらい。だいたい1.2メートルくらい)はある。
パドルをしてスッと波に乗る。
板の端から端を歩いて板の上を移動。
波と会話するみたいに、丁寧に、丁寧に。
乗っていたら、絶対に勝つとか、そんなことも全部忘れた。
ただ楽しいだけだ。
あたしも海の一部みたいな、そんな感覚。
あっという間に時間が終わった。
かなり良い出来…。
海から上がったら、一度休憩タイム。
夏葉のところに視線をやったら、愛姫と話してるのが視界に飛び込んできた。
まじでほんっとにモヤッモヤする!
無理!
小走りで2人に近づいた。
「(うわ、これもう手に入らねえやつじゃん、すげえ)」
「(同じシリーズで別のフィン、たくさんおばあちゃんの家にあるよ)」
サーフボードのフィンを見ながらなんか会話してるのが聞こえる。
「(まじ? すげえな)」
「(見に来る?)」
「(いいの? 行きてえ)」
はあ!?
家…?
2人でそんな約束してほしくない…。
さっきまでのモヤモヤがマックスになった。
心が落ち着かない。
夏葉がこっちに気がついた。
「穂風」
「2人ともお疲れ~」
「さっきの波乗り、すげえ良かったな」
愛姫はニコニコした顔。
愛姫も夏葉のこと好きだったりしないよね…?
「穂風もあたしのグランマの家、行く?」
愛姫がニコニコした顔のままあたしに聞いた。
あたしも誘うってことは、夏葉のこと別に好きなわけじゃない…?
でもどっちにしろ、愛姫と夏葉が2人で約束するとか想像しただけで無理だ。
ん~、恋って苦しい!
「行く!」
勢いよくそう返事した。
それから休憩時間が終わって、結果発表の時間が来た。
ドキドキする…。
下の順位から順番に発表される。
そして5位まで来た。
あたしの去年の成績は、調子もあまり良くなくて3位。
愛姫は去年2位で、めちゃくちゃ悔しかった。
去年よりずっとコンディションも良いし、今年は期待できるはず。
「3位はこの方です」
司会者の人が間を開ける。
多分3位ではないと思う。
と思いながらも思わず祈ってしまう。
「エヒメ・シマダ!」
3位は愛姫だった。
これで、去年よりあたしの順位が上回ったことは確定したわけだ。
ということは、愛姫よりあたしの成績の方が良い事も確定。
とりあえずの目標は達成した。
でも問題はこれからだ…。
狙いは優勝。
「それでは、2位を発表します!」
手を合わせて祈った。
優勝優勝優勝…。
「2位は…ミカゼ・イワサキ!」
2位…。
悔しい…。
愛姫にも勝てたし、順位も上がったけど…。
だけど優勝できなかった…。
「ミカゼ、オメデト!」
「愛姫…」
「デモ悔しい! Next time is my turn to beat you!(来年はあたしが絶対勝つよ!)」
愛姫は本当に良いライバルだ。
あたしも絶対来年こそは優勝する。
それからエキシビジョンマッチ。
普段ロングボーダーとして活動してるけど、エキシビジョンではショートボードで乗る。
ショートボードもあたしはプロレベルだ。
ショートとロングのどちらかでプロになるか決めるとき、本当に悩んだ。
親はロングボーダーだから、比べられたくないって思いでショートにしようと初めは思った。
だけど、やっぱりロングのゆったり感が好きで。
それに、ロングを極めることで、プライドに懸けて父親をロングで越そうと思ったんだ。
自前のショートボードに乗って海に出た。
ショートはショートで、そのスピード感がすごく好きだ。
さらっと数分間乗ってから海から上がり、無事にMSCが終了した。
楽しかった。
そのまま、愛姫と夏葉と一緒に愛姫のおばあちゃん・花枝さんの家に行った。
小さいときに数回行ったきりで、久しぶりだ。
「花枝さん久しぶり!」
「穂風、めちゃくちゃ久しぶりじゃん」
花枝さんはかっこいいおばあちゃんだ。
銀色の髪とよく焼けた肌。
バッチリメイクとピアス。
スカイブルーのタンクトップがすごくよく似合っている。
花枝さんがあたしの後ろにいる夏葉を見上げた。
「初めまして、サーフフォトグラファーの桐本夏葉と言います。お会いできて光栄です…」
夏葉はちょっと緊張気味みたいだ。
そんな夏葉がなんか可愛い。
愛姫に案内されて庭に面したテラスのある部屋に通された。
サーフボードとフィンが無数に置かれてる部屋。
夏葉を見ると目が輝いてる。
ガキだガキだってあたしに言うけど、夏葉が子供みたい。
ママのブランドの板もたくさん置いてある。
こんな古い型のも…。
「(あ、ほら夏葉、これがさっきの…)」
「(あっまじだ。すげ~!)」
ちょっとちょっと…。
距離近くない?
「愛姫の板どれ?」
愛姫の腕を引っ張って2人を引き離した。
夏葉はフィンを見るのに夢中だ。
「あたしのフィンは~、ココからココ!」
愛姫は多分なんの気もないしあたしの気持ちにも気づいてないんだろうな…。
それから一通り見て、花枝さんに出してもらったお茶とお菓子をいただいてからお暇した。
花枝さんと愛姫に手を振って家をあとにする。
「ついでに送ってく」
夏葉が言った。
「そのつもりに決まってるじゃん~」
「当たり前ってか…」
花枝さんとあたしの家は歩いて20分くらいのところにある。
夏葉とゆっくり歩き出した。
なんか…手繋ぎたいかも…。
こんなに近くの距離にいて。
少し伸ばせば触れられる距離。
他愛もない会話をして夜の道を海の匂いに吹かれながら歩いてる。
なんか好きすぎて胸が苦しい…。
触れればこの苦しさを少しでも溶かすことができるのかな。
夏葉に手を繋ぎたいと言おうかどうか迷っているうちに家に着いてしまった。
「じゃあな」
夏葉がそう言って背を向けて引き返した。
行かないで…。
咄嗟に夏葉のシャツの裾を軽く引いた。
夏葉がぴたっと止まってゆっくりとあたしに振り返る。
月明かりに照らされる夏葉の顔。
ああ…好き。
上目遣い気味に夏葉を見る。
手を繋ぐどころか、キスがしたい。
あたし達の時間が静かに止まった気がした。
間に流れる潮風。
夏葉の顔が少し近づく。
鼓動の音がバクバクとうるさい。
もう少し…。
背伸びしようとしたそのとき、夏葉の手があたしの顔に伸びて、あたしにデコピンした。
「…」
「ガキは早く帰って寝ろ」
夏葉はそれだけ言って、くるっと向きを変えて歩いて行ってしまった。
月明かりに照らされた夏葉がどんな表情だったのかはわからなかった。
だけど、あたし、はっきりわかった。
その日あたしは、『夏葉と付き合いたい』ってメールをリアに送った。
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