交錯する嘘と欲望

第17章: 彩香の最終決断

第18話

彩香は、浩一との関係に限界を感じ始めていた。彼との結婚生活が長引く中で、何度もやり直すチャンスがあったが、その度に修復できなかった現実が彼女を追い詰めていた。そして、健太との関係が心の支えとなっていたものの、それが本当に自分にとっての幸せな道かどうか、彩香はまだ迷っていた。

健太は彩香に対して深い愛情を抱いていたし、彼との時間は彩香にとって甘美な逃避だった。それでも、結婚という重荷が彼女の背中にのしかかっていた。浩一との関係を完全に終わらせることができれば、健太との未来を真剣に考えることができるかもしれない。しかし、それを決断することは簡単ではなかった。

ある日、彩香は仕事を早めに終えて、家で一人考える時間を取った。彼女の心の中には、今までとは違う感覚が広がっていた。これ以上、このまま曖昧な関係を続けていては、自分も健太も、そして浩一も傷ついてしまう。決断を先送りにすることは、もはや誰にとっても良い結果をもたらさない。

「私はどうするべきなの？」彩香は声に出して自問した。

スマートフォンを手に取ると、彼女は健太にメッセージを送ることにした。「今夜、会って話したいことがあるの。大事な話だから時間を作ってくれる？」短い文章だったが、彩香にとっては大きな一歩だった。彼女は自分の中で結論を出すために、もう一度健太と真剣に話し合いたいと考えていた。

しばらくして、健太からすぐに返事が来た。「もちろんだよ、彩香。どこで待ち合わせしようか？」健太の返事はいつも通り優しく、彩香は少しだけ心が安らぐのを感じた。

その夜、彩香は健太といつものホテルで待ち合わせをした。ホテルのロビーで待っていると、健太が少し早めに到着し、彼女の姿を見つけて微笑んだ。

「待たせてごめんね。」彩香は健太にそう言って、彼の隣に座った。

「全然待ってないよ、彩香。君が話したいことがあるって言ったから、ずっと気になっていたんだ。」健太は優しく微笑みながら彼女を見つめた。

彩香は少し緊張しながらも、意を決して話し始めた。「健太、今日は本当に大事な話をしに来たの。私たちの関係、これからどうすべきか、もう一度しっかり考えたいと思ってる。」

健太は彼女の言葉を静かに受け止めながら、少しだけ眉をひそめた。「うん、僕もずっとそれを考えてたよ。彩香がどう思っているのか、聞かせてほしい。」

彩香は深呼吸をし、ゆっくりと言葉を紡いだ。「私は健太と一緒にいる時間が本当に幸せだった。あなたがいなかったら、私はもっと孤独だったと思う。でも…私はまだ浩一との結婚生活を完全に終わらせる覚悟ができていないの。」

その言葉を聞いた瞬間、健太の表情が一瞬硬くなったが、すぐに冷静さを取り戻した。「そうか…彩香、君が迷っていることは分かってた。でも、俺は君と一緒に未来を築きたいと思っている。もし君が浩一さんとやり直すつもりなら、俺はそれを尊重するけど、本当にそれでいいのか？」

彩香は少し考え込んだ。健太の言葉は彼女の心に響いていたが、決断を急ぐことはできなかった。「健太、私もあなたとの未来を考えたい気持ちはあるわ。でも、結婚というものが持つ重さを感じると、やっぱり簡単には終わらせられないの。」

健太はしばらく黙り込み、彼女の言葉を噛み締めていた。「彩香、俺も待ってばかりじゃいけないと思ってるんだ。君がどんな結論を出しても、俺は受け入れるよ。でも、これ以上長く待たされるのは、正直辛い。」

彩香はその言葉に心が痛んだ。健太を待たせることで彼を傷つけていることは、彼女自身がよく分かっていた。彼のことを大切に思っているからこそ、決断を先延ばしにすることが彼に対する不誠実さであると感じていた。

「そうね…あなたを待たせ続けるのはよくないわ。」彩香は静かに答えた。「だから、今日決断を下すわ。浩一との関係を終わらせる。私はあなたとの未来を考えたい。」

その言葉を聞いた瞬間、健太の目に光が戻った。「本当に…それでいいんだね？」

「ええ、本気よ。私はずっと迷ってきたけど、やっぱりあなたとの時間が本当に私にとって大切だって分かったの。」彩香ははっきりと答えた。彼女の中で、ついに決断が下された瞬間だった。

健太は感謝の気持ちを込めて、彼女の手をしっかりと握りしめた。「ありがとう、彩香。これからは二人で新しい未来を歩んでいこう。」

その瞬間、彩香の胸に広がったのは、決断を下したことによる解放感だった。これまでずっと抱えていた迷いが消え去り、彼女は新たな道を進む覚悟を持つことができた。

翌日、彩香は浩一に話をするために、自宅で彼の帰りを待っていた。彼に対してどう話すべきかを頭の中で何度もシミュレーションしながら、彼女は決断の時が来たことを感じていた。

夜遅く、浩一が帰宅し、彩香の顔を見て少し驚いた様子を見せた。「彩香、今日はどうしたんだ？何かあったのか？」

彩香は静かに頷き、彼に向き合った。「浩一、話があるの。私たち、このままではもうお互いにとって良くないと思うの。だから…離婚したいの。」

その言葉を聞いた瞬間、浩一は驚いた表情を浮かべたが、やがて静かに息を吐き出し、彼女に頷いた。「そうか…君がそう決めたなら、俺もそれを尊重するよ。もうこの関係を続けることは難しいんだろうな。」

「ありがとう、浩一。」彩香は涙をこらえながらも、彼の理解に感謝した。「私もあなたと過ごした時間を無駄にしたくはない。でも、これからはお互いに新しい道を進むべきだと思う。」

二人はその夜、静かに話し合い、穏やかな形で離婚に向けた決断を下した。彩香は新しい人生を歩むための一歩をついに踏み出したのだ。