【CoCシナリオ】魂たゆたう脳髄槽

氷見錦りいち

事前情報

【はじめに】

 このシナリオは探索者の途中での選択によって異なる物語が展開されるマルチエンディングを採用している。

 また、展開によっては探索者が一度死亡しその後復活を果たすイベントもあるが、物語が扱う概念の都合上、探索者をNPCとするかPCとして継続して扱うかはその場でプレイヤーに一任した方が後腐れが無いため望ましい。


 「この技能が無ければクリアは到底望めない」様な技能は特に無いが、現代舞台が日本でありながら銃火器の入手機会があり、戦闘があることは伝えた方がフェアだろう。

 探索者の状態によっては失われた四肢が再生するなど能力値の大幅な変更が発生する場合がある。スムーズに進行するためにセッション開始前にキャラクターシートをチェックし、変更後の能力値を事前にまとめておくと良い。



【物語の背景】

 楡木にれぎナレは若くして医学界において多大な功績を積み上げてきたが、その功績は生命の尊厳を蔑ろにした、口外する事すら憚られる人体実験の末の産物であった。その事実を知った学会は表沙汰になる前に楡木の処分を決定。程なくして楡木は学会から排除され、そのまま表舞台からも姿を消した。


 しかし、楡木は研究を辞めたわけではなかった。彼にとって研究とは、ただ己が知的欲求を満たすための手段でしかなく、功績はその副産物に過ぎなかったのだ。それでも学会追放と共にパトロンの殆どを失った影響は致命的で、これまで湯水の如く使えていた研究資金もあっという間に底を尽いた。パトロンを募ろうにも学会の徹底的な根回しによってそれも叶わなかった。

 そんな折である、ベクターが現れたのは。


 彼は自身の人間のクローンに関する研究に協力することを条件に援助することを提案。幸いにも楡木の研究と合致する部分が多かったため、楡木はこれを了承し、二人は手を組んだ。


 数年後、肉体面の不老不死を研究する過程で人造人間の生成に成功する。それは従来の物とは異なり、外部からの電気信号に頼らずとも人並みに脳が作動し思考し自立して動けるため、楡木はメアリーと言う名前を与え、試験も兼ねて助手として徴用することにした。ベクターにとって研究の集大成とも言えるメアリーは、楡木にとって運命を変えるターニングポイントとなった。


 これまで「不死」をテーマとしてきた楡木はそこから踏み込んだ「意識の在処」に変更。単一の意識を維持し、かつ複数の肉体で共有できれば不死と同等できると考え、その意識は脳のどこに宿るのか、メアリーに意識は宿っているのか、彼女とAIに違いはあるのか研究は底無しの沼へと嵌っていく。


 一見両者の研究は順調に進んでいるように思われたが、楡木の欲求は決して満たされることはなく、ある時ベクターと袂を分かつことを決意する。

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