第7話 多分それツンデレってやつだ
──
数日後……そういうことで、僕はなでなで屋を始めた。もちろん表立って「なでなで屋やってます」なんて言うのは恥ずかしいので……紹介制というか、困ってる人や落ち込んでる人がいたらこのことを教えてあげる、みたいな形にしていた。
でもまぁ、なでなで屋にやって来るのはアメばかりで……。
「ナオキさーん! 今日も撫でられに来ました!」
「アメ……そんな毎日来ても困るんだが」
僕の部屋の扉の先には、いつもの格好をしたアメの姿が。そんな呆れ顔の僕なんかはお構いなしに、彼女は「えへへ」と笑ってみせて。
「だってウチに泊まってくれてるんですから! だったら毎日通わなきゃ損じゃないですかー!」
「あのなぁ……もうアメに対しては、お金取っても良い気がしてきたよ」
「ええー、そんなー! 今日の夕食にフルーツ付けますから!」
「……それ出されると弱いんだよなぁ」
宿では毎日夕食も用意してもらっている。これが非常にありがたい存在で、僕が宿から離れられない理由の一つでもある。なでなで屋っぽいことも始めたし、いつかは宿から出ていかないとなとは思っているんだけど……もう少し先になりそうだ。
「……で。まぁなでなで屋を開いたはいいけど、みんな落ち込んでたり、病んでる様子もないし……やっぱりなでなで屋なんて必要なかったんじゃないか?」
その言葉にアメは首を横に振って。
「そんなことないですよー! 私もう、なでなで無しじゃ生きてけませんし……それにですね、ナオキさんに撫でられてから私、魔法の調子もとってもいいんですよ! 今なら冒険者ランクD……くらいはありそうです!」
「リアルだなぁ」
前の世界とランク制度がそんなに変わっていないとしたら、確かにそのくらいがアメの適正ランクだとは思うが……というかなでなでにバフみたいな効果があるのだろうか? プラシーボの可能性も否めないけど……。
思いつつ、いつものように撫でてやろうと、近づいてきたアメの頭に手を伸ばそうとした時……何やら窓の方から物音が聞こえてきた。
「ん……? 何か聞こえないか?」
「なにかぶつかるような音がしますね?」
そのまま二人で窓を見ると、窓の縁に黒猫が立っているのを発見した。それを見たアメは大声を上げながら、僕を手招きして。
「あー! 黒フェリスじゃないですか! この子、村で見かけるんですけど、唯一私が撫でられるフェリスなんですよ! 逃げなくて人懐っこいんですよ!」
「へぇー。ってかここ二階なのに、よく登ってきたな」
「フェリスのジャンプ力は凄いですからね! 入れてあげましょう!」
そのままアメが窓を開けると、黒猫は軽い足取りで部屋に入り、僕を一瞥した。そして……「フシャー!」と声を上げながら、いきなり僕に飛びかかってきた。もちろん甘えるためではなく、僕に攻撃するために。
「うおっ……!?」
反射的に僕は避ける。避けるのは容易かったけど……まさかそんなことをされると思わなかった僕は、戸惑いを隠せなかった。僕はそいつを指差しながら、アメに向かって呆れた口調で言う。
「おいおい……どこが人懐っこいんだよ?」
「お、おかしいですね……? ナオキさん、何かしたんですか?」
「いや、知らないし……ってか、お前から入れてくれって言ってきたんだろ?」
攻撃を避けられた黒猫はツーンとそっぽを向く。途端に憎たらしく見えてきたなコイツ……ってか嫌われることは何もしてないと思うんだけど……この前撫でた猫の彼氏とかか? そもそも僕を特定してここまで来るのは無理な気がするけど……。
…………ん? ああ、もしかして……追ってきたのは僕じゃなくて……。
「……ひょっとしてコイツ、アメを尾行してついてきたんじゃないか?」
「ええっ、そうなの?」
黒猫はクシクシと頬を掻いて、同意とも取れるような行動を取る。というか僕らの言葉を理解してそうなのも気になるところだけど……聞いてみるか。
「なぁ黒猫、ひょっとしてアメのこと好きなのか?」
「…………!!??」
言うと黒猫は特大のジャンプをして、ウロウロと飛び回り挙動不審になる。前の世界で見た、きゅうりに気づいた猫が飛び跳ねる映像を思い出したよ……まぁそんなことより、これで確信した……コイツ、人間だ。
「お前、言葉理解できるだろ? ひょっとして化け猫なのか?」
「……!!」
僕に化けていることを見抜かれた猫は、更に挙動不審になり、逃げるように窓に向かって飛び出した。もちろん追いかける暇もなく……。
「あっ! 逃げちゃいましたね……」
「まぁ……アメのことが好きな誰かが猫に化けてストーカーして、部屋を見たところ怪しい僕がいたから、守ろうとした……ってところか?」
「ああ……なるほど。いい子ですね!」
「前向きに捉えたらな……というか心辺りないのか?」
僕が聞くと、アメは考える素振りを見せる。まぁアメは好かれ体質だから、誰からも愛されてそうではあるが……そして数秒後、口を開いて。
「うーん……思いつきませんね。私のこと嫌ってる子ならいるんですが」
「ええ、アメをか?」
それは意外だ。でもまぁ距離感近いし、確かに苦手だと思う子がいてもおかしくはないか……とか思ってると、アメはその詳細を教えてくれて。
「そうなんですよ! その子、この村で飲食店の手伝いしてる子なんですけど……「また来たの?」とか「よく飽きないわねぇ」とか言って、私が食べ切れないくらいの量のご飯出してきたり。毎回帰る時、「もう来るんじゃないわよ」とか言ってきたり……まぁ、私は仲良くなりたいからずっと通うんですけどね!」
「…………」
……えっと、アメ。多分それツンデレってやつだ。
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