第六話 失せモノ探し(四)
数分程そうした後、ヤマダさんは涙を流しつつ「見つけた」と呟いた。
「えっ! ど、どこにあるんすか!? あ、やば!」
興奮した様子の周が立ち上がった拍子にお茶をこぼした。するとヤマダさんはノールックで側にあった箱ティッシュをスッと差し出す。僕はそれを受け取り、テーブルの上のお茶を拭いた。ほとんど飲んでいたようで床にまでは零れていないのが幸いだった。
「あぁ、動いてるね。これは……誰かが持ち歩いてるみたいっぽい。誰かはわからないけど。もや? モザイク?が掛かってるみたいで不鮮明なんだなー。こんなこと今までになかったよ。何かに妨害されてるみたい。やだなー」
「場所はわかりますか?」
「これは山だね。いや、ギャグじゃないよ。あと、あー、倉庫かな、小屋が見えるね」
山、と言われてもどこを探せばいいのかとんと検討がつかない。もう少し情報が欲しいところだ。
「うんと、ちょっと移動してみよう。……ダムだ。これ、隣の県のダムだね。地方情報誌で見たことある」
ダム?
つまりその近くの倉庫の辺りに指輪はあるということか。しかし、気になるのは誰かが持ち歩いているという点だ。例えばそこを管理している人が偶然拾ってそのままになっているというのならすんなり返してもらえるだろうけど……。
なんにせよ直接行って確かめるしかないか。
「はい、おしまい」
そう言ってヤマダさんはようやく目を閉じて涙をぬぐった。
「これでおしまい?」
「うん。言ったでしょ。何か妨害されてるって。本当ならもっと鮮明に詳細な場所がわかるんだけどなー」
口をへの字に曲げて、明らかにご機嫌斜めの様子だ。
「でも、だいぶ絞り込めたじゃないすか! 隣の県のダムって荒叉ダムのことすよね? 近くはないけど、今から行って夜には帰って来られるくらいの距離すよ! さっそく行きましょう!」
周は今にも飛び出していきそうな勢いだった。
「すみません、ヤマダさん。そういうことなのでこれで失礼します。急に来てしまって申し訳なかったです」
僕がそう言うと、彼女はかぶりを振って「謝ることじゃないよ」と優しい声色で答えてくれる。
「ありがとうございました。本当に。貴重な体験をさせてもらいました」
そう言う橘さんの声は小さく震えていた。恐らくだが痛く感動しているのだろう。それには共感できた。
都市伝説だと思っていた人物が実在して、僕たちの前で力を見せてくれた。なんだか感動的だ。まだ担がれている可能性もあるにはあるのだが、僕は彼女のことを信じてみたい。そう思わせる魅力がヤマダさんにはあった。そう、どこか人間離れした……。
「ほら、和泉君、橘さん! 行きましょう! ヤマダさん、お邪魔しましたー!」
周は橘さんの腕を掴むと玄関へ小走りで向かった。
「あ、じゃあ行きますね。長居してすみませんでした」
僕がそう言うとヤマダさんは「ひとつだけいい?」と切り出した。
「今日来られなかった彼。体調不良だって? 彼に伝えておいてよ。
「彼って、間宮のことですか?」
そう、間宮は突然の発熱でこの場に来ることができなかったのだ。しかし間宮が来る予定だったのも体調不良だというのもヤマダさんには知りえない情報だ。
この人はやはり本物なのだろう。
それにしても……。
「
僕には心当たりがない。間宮はいつも飄々としていて、およそ『執着』というものとは縁遠いと思っていた。もちろん彼のすべてを知っているわけではないけど。
「いつかわかるよ。案外すぐかもしれないね。まぁ、困ったことがあればいつでも訪ねて来てよね」
ヤマダさんは爽やかに笑った。裏の意図も邪気も感じられない良い笑顔だった。
「僕からもひとつだけいいですか? お金の為じゃないなら、どうしてヤマダさんはこんなことをしてるんですか」
「人の役に立ちたいからだよ。それ以外にない。私の力が誰かの幸せを作る、こんなにも喜ばしいことが他にある?」
僕は答えられなかった。そこまで割り切った考えができるほど、僕は成熟していなかったし人間ができていなかった。何も言えなくなった僕を見てヤマダさんはまたさっきみたいな笑顔を見せて「大丈夫だよ」とだけ言った。何が、とかそんな簡単に、とか思ったけど彼女はただ笑っていた。考えずに行動しろ、ということだろうか。
僕は軽く頭を下げて靴を履き、外へ出た。部屋の中に入った時よりも夏の気配を感じる。先に外に出ていたふたりが外階段の前で手招きをしている。行かなければ。
ふと振り返ると玄関先でヤマダさんは静かに手を振っていた。そして彼女の口元は『またね』の言葉を形作っている。どうやらこれから長い付き合いになりそうだ、と率直に思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます