第9話 春キャベツと新玉ねぎの巣篭もりトースト

 昨日の夕方から降っていた雨は夜中に上がり轟音とともに雷へと変わった。寒かった冬がようやく終わり春へと季節が進む知らせだとは分かっていても夜中から早朝まで鳴り続けられるのは、睡眠妨害だと思うのは俺だけじゃないはずだ。

陽が登る時間が早くなって来ているとはいえまだ窓の外は、暗い。まだ布団の温かさに包まれ寝ていたい気持ちと格闘しつつ雷のせいで少し寝不足で重たい瞼を擦り、ベッドサイドに置いているエアコンのリモコンを手探りで探し当て、設定温度がそこまで高くない事を確認してから運転ボタンを入れてから身体を起こして、ぼんやりと今日の予定を思い出してみる。

(今日、早朝訓練はなかったし。俺から隊員達に直接伝えなきゃいけない任務もなかったから部屋で朝飯食って、洗濯回す時間はあるか)

 パジャマ代わりに使っているスエットを脱いでクローゼットから適当に見繕った服に着替えてから、昨日洗濯カゴに放り込んで置いた昨日着ていた服や洗面台や台所に引っ掛けているタオルといった最低限洗いたいもの達とジェルボールタイプの洗剤と一緒に洗濯機へ入れて運転開始ボタンを押す。

洗濯をしている間に朝食を済ませるため、冷蔵庫と食材保管棚から材料を取り出す。

 春キャベツに新玉ねぎ。そして、卵と食パン。

 春先に店に並ぶ春キャベツは、葉が柔らかで甘みが冬キャベツより多いので生やシンプルな味付けで食べても美味しいのだが、今日は敢えて新玉ねぎと一緒に合わせて巣篭もりトーストにすることにした。

(新玉も生で美味しし食えるけど、火が通った玉ねぎが好きなんだよな。俺が)

と考えつつ、春キャベツの葉を数枚手で千切り水でサッと洗ってから、包丁で千切りにしていく。新玉ねぎは、皮を剥いて適当なサイズに切ってからみじん切り機に入れ、取っ手を引っ張ってみじん切りにする。

キャベツと玉ねぎを同じボウルへ入れて、マヨネーズを自分の好きな量を入れて和えておく。食パンにキャベツと玉ねぎのマヨ和えをのせ、中央を窪ませる。窪ませたところに卵を割り入れてオーブントースターで卵が固まるまで焼く。

メインをトースターに任せて間に冷凍ストックして置いた野菜スープを小鍋に凍ったまま入れ、トマトジュースを追加して塩胡椒で味を整えて簡単ミネストローネ風野菜スープとフライパンでソーセージを蒸し焼きして準備し、それぞれ器に盛り付けておく。

タイミングよくトースターの調理終了の音が鳴り、出来上がった巣篭もりトーストを皿に盛り付ける。

トーストとマヨネーズの焼けた香ばしい匂いが鼻をくすぐり、立ったまま食べてしまいたい気持ちを抑えつつ、カウンターに出来上がった朝食を並べた。

「コーヒーも豆から挽いて入れたいとこだけど、それは休みの楽しみって事で」

マグカップにインスタントのドリップコーヒーを淹れて、朝食の横に並べる。

あまり時間をかけてはいないが、上出来すぎる朝食に「いただきます」と合掌して、出来立てのトーストに齧り付く。

焼いたことによって甘味が増したキャベツと玉ねぎにマヨネーズの酸味。そして、最後にトロッと口に広がる濃厚な黄身の旨み。

ミネストローネ風野菜スープもトマトの酸味に野菜の旨みが感じられて美味しいし、蒸し焼きしたソーセージもパリッとした皮の香ばしさと溢れる肉汁。一口一口食べ進めるごとに幸せな気持ちになり自然と顔が綻んでいくのが分かる。

 最後にコーヒーを飲めば、まだ霞がかかっていた思考がクリアになった。徐々に明るくなる窓の外を眺めながら、洗濯機の運転音に耳を傾け、鼻腔に残るのはコーヒーの香り。一般家庭ならなんてない日常なのに俺のような職業にとっては、この上なく贅沢な時間に思えてふっと笑みが溢れた。


「はぁ〜。最高だな」

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