第3話 実力の差は歴然
俺は、こんな理不尽を黙って見過ごすなんてできない!!
「謝るな、ガウスのおっさん!!」
「ア、アルムス?」
「おっさんたちは謝罪した。相手に怪我はない。だからこの件は終わりだ! これ以上を望むなら、相手が間違っている!!」
俺は三人組、そのリーダー格を睨みつけて、こう言葉で斬り捨てる。
「
「ぼろ服で何をかっこつけてんだ、てめぇ!」
「うるせい、服はボロボロでも心はあんたよりも真っ当だし、見た目も上だっての!」
「ああん……クソガキ、俺はランクが――」
「二つ上? だからなんだ? ギルドに上下関係はない。あるのは互いに尊敬し合う心だ。だけど、あんたらにそんな価値はねぇ。あんたら――いや、てめぇらに、尊敬の価値なんてこれぽっちもねぇよ!」
「こ、このクソガキがぁあああ!」
「くそはてめえらだ!! ギルドってのは弱い者の味方、庶民の味方! だってのに、ギルドの肩書きをかさに着て、
俺はびしりと人差し指を三人組へ突き立てた。
その姿を見ていたノヴァが黄色い声を飛ばす。
「きゃー、お兄ちゃんカッコいい。がんばれ~!!」
この声に誘われてか、周りで野次馬してた人々の声が俺の声援と変わっていく。
「おお~、言ってやれ言ってやれ! そいつらは最近悪い意味で名が通った連中なんだ」
「ああ、ギルドのメンバーだからって無茶を言いやがる」
「なんか、歓楽街でも評判悪いらしいな」
「ギルドの連中はこういう連中ばかりかと思ってが、あの子みたいな子もいるんだね」
「応援してるぞ~!!」
ギルドの一員になってこれほど大きな声援を受けるのは初めて。
町行く見知らぬ人々の声援を受けて……正直、とっても気持ちいい。
それとは別に、今、ちらりと耳にした歓楽街で評判が悪いって……。
(歓楽街のキャリンさんが言ってた
「おい、てめえら、評判悪すぎだろ。このことはギルドの一員である俺の名付きで、ギルドへ報告するからな。きっちり罰を受けたら、改心して真面目に――」
「やっかましいわぁぁぁぁぁぁ!!」
リーダー格の男の声が広場に轟く!
「グダグダ抜かしやがって! 罰を受ける? あり得ねぇよ! 万年人手不足のギルドがこの程度でハウメア級の俺を切れるかよ。履いて捨てるほどいるクソガキのようなセドナ級と違ってな!」
たしかに、ハウメア級とその上のマケマケ級は、公的機関だけでは間に合わない村や町の魔物退治や盗賊退治などを行うことが多く、人手が全く足りていない。
だから、なかなか処分しにくいのも事実。
討伐担当がこいつみたいなくそ野郎であっても、夜盗に襲われるよりかはマシと
それでも…………。
「筋は曲げられない。それによ……ここまで騒ぎが大きくなったら、もう誰も黙っちゃいないぜ」
「て、てめぇ――だったら、無理やりでも黙らせてやる。てめぇを血祭りにあげちまえば、他の連中もビビッて何も言えなくなるだろうよ」
「みんながみんな、報復にビビると思ってんのかぁ!」
「ああ、思ってるね! それにここまできたら、それしかないだろうがああぁ!」
リーダー格の男が石畳を蹴って、俺へ突進してきた。
その動きは、俺の目でぎりぎり追えるもの。
ひとまず、後ろに
しかし――!
「甘いぜ!!」
俺は左手で男の拳を受け流し、反撃とばかりに腹部に掌底を当てた。
「だぁ!」
「ぎっ、くそがき!」
男は後ろへ大きく飛び、俺が打った腹部を
「チッ、セドナの分際で少しは動けるようだな」
「あんたもな」
と、強がってみたものの、男の動きには余裕があり、俺にはない。
(次、もっと素早く来られたら防げないな。どうする?)
頭を悩ますが、打開策はない。
(防戦に徹して、隙を窺うか)
そう思い、身構え、相手の動きを待つ。
すると、リーダー格の男は残りの二人に顔を振った。
三人がかりか? そうなるとますます打つ手は――。
「お前ら、離れてろ」
「おう」
「わかったぜ」
どういうわけか、仲間の二人を遠ざけた。
さらに、野次馬たちにも離れろと言う。
「おい、ガキの近くにいる連中も巻き添えを食らいたくないならどけ……
男の周りに小指の先ほどの大きさをした石が浮かび上がる。
あれは――魔法の一種!
魔力と言う力を用いて、不可思議な現象を起こせる奇跡。
男はご丁寧にも自分の手品を明かしてくる。
「風の魔法を石に纏わせて、対象を穿つ俺の必殺技だ。こいつを食らったら痛いじゃ済まねぇぞ! クソガキぃぃぃい!」
「いけない!」
俺は他の人を巻き添えにしないように、人のいない場所へと急いで体を動かす。
「逃がすかよ!
数十を超える
「ぐあぁぁぁぁああ!!」
「あははは、どうだクソガキ。思い知ったか!」
「く、こんなもんで……」
左肩に食い込んだ石の欠片を抜いて、地面へ落とす。
一瞬、血がブシュリと噴き出し、二の腕を這うように血が流れて、ひじからぽたりぽたりと零れ落ち、地面を赤く染める。
痛みに顔を歪めながらも、何とか立っている俺に対して男は嘲りをぶつけてきた。
「ぎゃはははは! 元々物乞いみたいな姿だったが、より一層らしくなったじゃねぇか! さて、もう一度、
再び、
だけど、痛みが邪魔をしてそれらをよけるほど素早く動けない。
「うわぁぁぁあぁあ!!」
「ひひひひ、良い的だぜ。ガキ!」
体がふらつく、痛みで意識が飛びそうになる。
それでも倒れることを拒否して、俺は両足に力を送り、今もなお立っている。
「チッ、しぶてぇガキだな。それじゃあ、次はもっと強力なやつを」
「もう、やめてくれねぇか……」
この声を出したのは――ガウスのおっさん。
「あんたが強いのはわかった。悪いのも俺たちだ。頭だって下げるし、ギルドに告げ口したりもしねぇ。だから――」
「邪魔するなよ、おっさん」
「え?」
「邪魔するなって言ってんだよ! このガキは俺を舐めやがった、だから仕置きが必要だ! それを邪魔するってんなら、てめぇらも同じ目に遭わせっぞ!」
「クッ!」
「わかったら、引っ込んでろ。おい、他にも、俺に文句のある奴はいるか! おらおら、どうした!? 文句があるなら名乗り出てみろよぉぉぉぉ!!」
周囲の人々に浴びせられた嘲笑交じりの恫喝。
男は嘲笑の色を濃くして、俺に語り掛けてくる。
「へへへへ、見たかクソガキ。な、みんなビビッて何も言えなくなっただろ」
俺はこの下卑た声を前にして…………その声を聞き流していた。
そして、体の具合を確かめる。
(痛い。よけられない。くそ野郎でもやっぱハウメア級だな。身体能力は俺より上……でも……)
「勝てる」
――――広場
ガウスはアルムスの血まみれの姿を見て、勇気を振り絞り、再度声を上げようとした。
それを酒場のマスタールドルフが止めに入る。
「やめろ、もうっ、やめてく――」
「それ以上はよせ。せっかくのアルムスの勝利が無駄になる」
「へ? ルドルフ、いったい何を言って……」
「あの、飛燕なにがしと言う技。あれは見た目ほど、大した技ではない」
彼は、隣にちょこんと立っているノヴァへ視線を下ろす。
「わざと盛り立てただろ?」
ノヴァは小さく真っ白な手で自分の口を隠して微笑む。
「えへへ、だってお兄ちゃんの凄さをみんなに知ってほしかったから」
「まったく……救急箱の用意を。勝てはしても、大怪我は止められないからな」
「は~い、ルドルフさん」
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