鳳凰の止まり木に茜さす頃~育てた雛鳥があやかしで溺愛されるなんて聞いてません!~(第21回書き出し祭り参加作)

鳳凰の止まり木に茜さす頃

~育てた雛鳥があやかしで溺愛されるなんて聞いてません!~


※連載予定なし※


ジャンル:和風恋愛ファンタジー


~メモ~

・「第21回書き出し祭り」参加作

会場順位:12位(同率2作)

全体順位:52位(同率7作)


本文は参加時のものです。


============


 とある日の放課後。

 高校二年生を迎えた私はいま、儚げな顔立ちの美少年によって、学校の校舎の隅っこに追い詰められている。

 いわゆる、壁ドンと言うやつです。


「ねえ、瑞希みずきちゃん。昔みたいに、もっと僕に触れて良いんだよ?」


 甘えるような声からは、どっちかと言うと彼の方が私に触れたそうにしているのが分かる。


「ぴぇぇ……!?」


 慣れない……いや、実は最近慣れつつあるのだけど、そんなドキドキする状況に思わず小鳥のような声が出てしまう。

 両手を振って遠慮します、と答えようとした瞬間、彼が私の右手を手に取った。


「ほら」


 少しかがんだ体勢の彼のふわふわな髪に誘われてしまえば……もう抵抗できるはずなどない!

 彼の燃えるような朱色の……だけど毛先に近づくほどに金色に輝く髪を、不本意ながらも堪能するわけです。

 特に尾羽の長い鳥のような襟足が可愛くて魅力的ですね、うん。


「わぁ……やっぱりあかねの毛は、ふわっふわぁ……」


 優しく髪を撫でてあげると、彼は優し気な瞳をうっとりさせる。

 その様子は、他の女子が見たら絶叫することが間違いないくらいに可愛くて、思わずドキッとしてしまう。

 なでなでしているうちに、彼の耳の近くから隠れていた羽がぴょっこりと飛び出してきた。

 あんまりにも可愛いので思わずその羽に触れると、羽がくすぐったそうにぴこぴこと動いている。


「ふぁー……かわいいよー……」


 私の口から間の抜けた声が出るくらい、とんでもなく可愛いし、手触り抜群……!

 この感触、懐かしい……! 昔育てていたひな鳥の茜が戻ってきたみたいで、思わず嬉しくなってもっと構ってあげたくなってしまう。


「ん……」


 私のなでなでが気持ち良いのか、彼は紫色の眼を細めてリラックスしている様子を見せている。


「瑞希ちゃん……」


 まつ毛長いなぁ、顔綺麗だなぁ、なんて思いながらなでなでを堪能していたけれども、気づけば彼の口から色気のある声が漏れてきて……。

 おや? なんだか顔の距離感が近くなって……って、いやいやいや近すぎる!!


「ダ、ダメー!!」


 思わずなでなでしまくりの可愛がりモードに入りかけてしまったけれども、ハッと正気に返った。

 私はしゅばっと手を引いて、追い詰められた壁から抜け出し、距離を取る。

 すると、さっきまでの幸せそうな表情から一転して、とてつもなくショッキングそうな瞳で彼に見つめられてしまった。

 うぐ! その潤んだ瞳は罪悪感を感じる……!


「え……どうして?」


「良い雰囲気だったのに」みたいな呟きが聞こえた気もするけど、気のせいだと思いたい。


「だ、だって! あか……じゃなくて、鳳凰寺君くん、後輩でしょ! 後輩にベタベタするなんて……」

「後輩じゃなければよかったの?」

「そう言う問題じゃなーい! というか、本当はもっと歳下でしょ!? なんでここにいるの!?」

「瑞希ちゃんと同じ学校に通いたくて、色々手を回したんだよ」

「権力の活用方法がおかしいよ!?」

「僕が同じ学校に通うのいやだった?」

「いやじゃないんだけど……」

「昔は僕のことを可愛がってくれたのに……」


 儚げで美しい顔立ちにしょんぼりした表情を浮かべて見つめられると、言葉にグッと詰まりそうになるけれども……。

 これだけは言わせて欲しい!


「その言い方、私が変人みたいだからやめてー!!」


 可愛がってあげていたのは、彼がひな鳥だった頃の話!


 彼は私の後輩、鳳凰寺ほうおうじ茜くん。

 なんと、幼少期に私が育てていた元ひな鳥で、その正体は大富豪のあやかし一族の御子息だったのです! 知らなかった!


「じゃあ瑞希ちゃん。せめて、僕のこと茜って呼んでくれる?」

「うっ……。あ、あ……あか……ね……」

「っ!」


 イケメンを真正面に捉えながら名前呼びするなんて恥ずかしすぎるので、ふいっと横を向いて小声でぼそぼそと応えた。……はずなのに、バッチリと聞こえてしまったらしい。


「照れる瑞希ちゃん、可愛い……!」


 突然ぎゅっと抱きしめられたかと思うと、頬に顔を摺り寄せられてしまった。


「びええ! 離してー!!」

「こんなに可愛い反応してくれるなら、もっと早くこの姿になっておけばよかった!」

「ちちち近い近い!! 距離感近すぎるぅぅ!!」

「そんなことないよ? 前と同じ距離感だからね」

「そんなまさか! そんなことは……」


 そこまで言って、私は脳内でかつての茜との触れ合いを思い起こした。


 ええと? 両手の手のひらの上に座ってもらって、もふもふふわふわしたり? その状態で茜に頬ずりしたり?

 あの頃の茜は小さくて可愛かったな~! 思い出すだけでもほっこり幸せになれる!

 あと頬っぺたににキスしてくれたりもしてね、すっごく可愛かったね~~!

 ……って、違う違う! 脱線してしまったけどそうじゃなくて!

 今の状況は、その頃と同じ距離感と言うわけだけど……。

 確かに、距離感は同じ……。おなじ??


「……あ、れ?」


 ……普通のひな鳥だと思っていた目の前の男の子に対して……私は一体なにをして、いた……!?


 ギギギと音がしそうなくらいに鈍い動作で鳳凰寺君こと茜に顔を向けると、彼は私が思い出したことを察したのか、とんでもない破壊力の笑顔を私に向けて言った。


「ね? そんなことあったでしょう?」

「びええぇぇ……」

「覚えていてくれて嬉しいな」


 封じておくべき記憶を、掘り起こしてしまったことに気付いた!

 相手があやかしとは知らなかったとは言え、私の幼少期ってば、何という恐ろしい子……!

 無知って怖いぃ!!


 顔を真っ赤にして口をパクパクさせていると、私の口先に鳳凰寺君の人差し指が押し当てられる。


「でもね。僕はもう、か弱いひな鳥じゃないよ」

「……あかね」


 そう言われると、可愛かったひな鳥の茜がどこかに消えて居なくなってしまった気がして、寂しく感じてしまう。


「ひな鳥の僕は好きでも……人の姿をしたあやかしの僕は嫌い?」

「ち、違う! そう言うわけじゃなくて! ただ慣れなくて……」

「僕のこと、変わらずに好きでいてくれる?」

「う、うん!」

「ちゃんと言葉にして欲しいな?」

「す……って、わああ!!」


 危うく乗せられるところだったー!


「これからは瑞希ちゃんを守れるくらいに強いあやかしの男として、ずっと一緒にいさせて?」


 有無を言わさぬ勢いでぎゅうぎゅう抱きしめられて、私は彼の腕の中でプルプル震えるしかない。


「どうしてこうなったー!?」


■-■-■-■


 私こと杉山瑞希と茜との出会いは、私が小学一年生の頃にまで遡ることになる。

 学校帰り、空き地の土の上に転がっている金の卵を発見した。


「わあ、きれいな卵。なんのだろう?」


 にわとりの卵と同じくらいのサイズだった。もしかしたら鳥の卵で、近くの巣から落ちたのかもしれない。それなら戻してあげないと! と思って前後左右と上下も見回したけど、巣も親鳥も見当たらなかった。


「鳥の卵かな? どっから来たんだろうね?」


 しゃがみこんで首を傾げていると、卵の向こう側に赤と黄色と黒のしましま柄のヘビがいるのが見える。

 空き地の隣は藪だから、そこからやってきたのかもしれないけど……。


「シャーッ!」

「もしかして、卵を狙ってる!?」


 ちょろちょろと舌を伸ばしている様子を見た瞬間、卵が丸呑みされる光景がよぎった。

 その瞬間、私は迷うことなく卵を両手で掬いあげて、へびから逃げ出す。

 卵はほんのりと温かくて、中には生まれる瞬間を待ち構えている生き物がいるんだ……そう思うと、不思議と守ってあげなくちゃいけない気持ちになる。


 空き地を飛び出して、アスファルトを駆け出す。

 数分も走っていれば、さすがにもう追って来ないよね。と思って振り返ると……。


「ギャー!! なんでまだ追っかけて来るのー!?」


 へびがアスファルトを物凄い勢いでにょろにょろと疾走! どんどん迫ってきていた!


「もももももしかして、卵じゃなくて私が食べられちゃう!? と言うか毒へびだったらどうしよう!?」


 追いつかれたらどうしよう!? と思いながら必死に逃げている最中に、とあることを思い出した。


「そ、そうだ! 確かおかーさんがこのランドセルは傷がつきにくくて最強って言っていた!」


 それならランドセルでガードすればいいんだー!!

 と思って背負っていたランドセルを道にドン! と置く。


「これでへびも追って来れないはず!」


 当時の私は本気でそう思っていたので、ものすごく単純だと思う。

 当然へびの進行を防げるわけがなく、へびは器用にランドセルを避けてにょろにょろと迫ってくる。


「にぎゃー!! さいきょーじゃないじゃん! あ! そうだ!」


 ランドセルを見捨てて走っている最中に、今度はお父さんからもらった防犯ブザーの存在を思い出した。


「防犯ブザーを鳴らせば良いんだ! ……って、ランドセルにぶら下がってるううう!!」


 肝心の防犯ブザーは、へびの向こう側のランドセルにあった!

 こうなると、私に残されたことは、助けを呼びながら逃げることだけ。


「誰か! 助けてー!!」


 半泣き状態でわめきながら卵を抱えながら走っていると、卵が急に熱を持った。


「え? なになに? 今度はなんなの!?」


 持てなくはないけど、最初に手にしたときよりも熱くて、そして――。


「わっ!? ま、まぶしい!?」


 卵が突然光を放ち始めた!

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