Magic7 魔法が使えても嬉しくない

 殿下の危機を救い、私はどうにか家まで帰ってきた。

 ただ、ここで問題になったのは、どうやって家の自分の部屋に戻るかである。時間的に私は今自室にいるはずだ。

 魔導書ベルフェルが私がいるように装っているのなら、いつもの私の行動パターンを遂行しているはずだからだ。


(はあ、ここで問題が起きるとは思ってもみなかったわね……)


 自分の家なのに、中に入れないとか誰が想像しただろうか。

 殿下の危機だと聞いて急いでいたがために、さすがの私にそこまで頭が回らなかったのである。やらかしてしまったわ。

 屋敷の敷地の外まで戻ってきたのに、そこでうろちょろしてしまう。まったくどうしたものか……。


『はははっ、困ってるようだねぇ。早速楽しませてくれて嬉しいよ』


「ベルフェル?!」


 私は驚きのあまり、周囲を見回す。当然ながら、その姿はどこにも見当たらなかった。


『あんたの頭の中に直接話しかけてる。おっと、これはおいらの方からしか一方的に話せないから、口答えしても無駄だよ。今からおいらのいうことをよく聞くんだね』


 うぎぎぎぎ……。

 まったく、腹の立つ魔導書だわ。人のことをおちょくって楽しんでいるんだわ。

 しかしだ。私が家の中に戻る手段は、ベルフェルから聞き出すしかないので、ここはおとなしく従うしかなかった。


『家の中に入るのは簡単さ。なんのためにおいらが魔力を与えたと思ってるんだ。あんたが事件を解決したら、おいらはすぐ分かる。人払いをしておくから、おいらのことを思い浮かべるんだよ。そしたら、おいらのところまで瞬間移動で戻ってこれる』


 ベルフェルが言うには、どうやら事件の現場に飛ぶ時と同じ要領のようだった。


『部屋に戻ってこれたら、元の姿に戻る方法も教えてやるよ。早く戻ってくるんだね、けひひひ』


 腹の立つ笑い方をする魔導書だわね。

 正直こうなると、私の代わりに令嬢教育を受けやがれって感じだわ。

 っと、この言い方は令嬢らしくなかったわね。いけないいけない……。

 この力を使えばこのまま自由に生きられそうだけれど、これまで何のために勉強してきたのかと思うと、やっぱり家に戻らなきゃいけない。

 それに、あの魔導書がその気になれば私から魔力を取り上げるのも簡単だろう。

 特大のため息をついた私は、仕方なく家へと戻ったのだった。


 ベルフェルが言ったとおり、ベルフェルのことを思い浮かべて強く願うと自分の部屋に戻ることができた。

 ただ、まだ慣れないために、思わずこけてしまったけれど。

 私の姿を見てベルフェルが盛大に笑っていた。なんか殴りたい。


「やあ、お帰り。大活躍だったねぇ、アンジェ。いや、ティアローズ」


 私の顔でにやつきながら出迎えるベルフェル。私の顔でそんな淑女のかけらもない態度を取るものだから、本当にイラッとくる。

 即興で考えた名前を言いながら迫ってくるベルフェルに、私はこの上ない不快感を示している。


「そんなことより、私はどうやったら元に戻れるのよ。さっさと教えてちょうだい」


「もったいないなぁ、その姿も似合っているのに」


「あんたになんか、私を譲るわけにはいかないわ。さっさと教えなさい」


 睨みつけながら要求すると、ベルフェルはにこりと満面の笑みを浮かべていた。その笑顔のせいで、私が逆に困惑させられる。


「いいよ、教えてやるよ。……言えるもんならな」


「元に戻るためだもの。言ってやるわよ」


「よーし、いったな。言質は取ったぜ」


 私が覚悟を決めた発言をすると、ベルフェルのにやつきがさらに酷くなる。やめて、私の顔でそんな表情しないでよ。


「今からおいらがいう言葉を言うんだ。そうすれば変身は解ける」


 ベルフェルの言葉に、私はごくりと息を飲む。


「『魔導書ベルフェル様、ありがとうございます』。こういえば変身は解けるぜ」


「うげぇ……」


 あまりにも言いたくない言葉がゆえに、私は令嬢にあるまじき顔と言葉を出してしまう。

 だって、あまりにも屈辱的なんですからね。殿下を助けられたのは確かにベルフェルのおかげだけど、素直にお礼が言えるかというと無理でしょ。

 しかし、私はつらつらと言いたいことをぐっとこらえて、ここは屈辱に耐えていうしかなかった。


「魔導書ベルフェル様、ありがとうございます」


 私が頭を下げていうと、ベルフェルがふっと笑ったような気がした。

 それと同時に、私の体を光が包み込み始める。よく見ると私に化けたベルフェルの体もだった。


「これは……?!」


「安心しな、おいらたちが元の姿に戻るだけだ。だが、変身を解く前にカーテンは閉めておくべきだったな。くっくっくっ」


「そういうことは先に言いなさいよ!」


 私が文句を言うと同時に、部屋の中は光に満たされていった。

 まばゆい光が消えると、目の前にいた私に化けたベルフェルは姿を消していた。

 慌てて私は部屋にある姿見へと向かう。


「私に、戻ってる!」


 姿見の中の自分を見て、私は歓喜の声を上げていた。

 それと同時に、ベルフェルが私として過ごした記憶が流れ込んできて、いろんな意味で頭が痛かった。


「一応私らしく振る舞ってくれたみたいだけど、なんだろうなぁ、この不安感……」


 元に戻れた安心感と同時に、言い知れぬ不安感に襲われる私なのだった。

 ああ、これから私はどうなってしまうのだろうか……。

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