Magic4 初陣

「ちょっと待ちな」


 私に化けたベルフェルが腕をつかむ。


「ちょっと放してよ」


「説明を聞け。何も聞かずに行くつもりか」


「だって、王子様の、殿下の危機なんでしょ?」


「力の使い方も分からないのに行くつもりか。それとそのままだと正体がバレる。バレたらどうなるか言っただろう?」


 ベルフェルが強く言う忠告に、ぞっとする私だった。

 私が死ぬだけでも怖いのに、家族や使用人たちまでを巻き込むわけにはいかない。その恐怖に私は体を固まらせる。


「王子の危機だが、まだ余裕がある。とにかく最低限の話は聞いていけ」


 ベルフェルは魔法の使い方についていろいろと教えてくれた。

 腕に装着されたバングルに触れながら魔法を使いたいと願えば、十六歳ぐらいの女性に変身して魔法を使えるようになるそうだ。額に当てる必要はないらしく、私をからかったのだそうだ。

 魔法自体は使いたい魔法を思い描いて手先に集中すれば使えるらしい。面倒な詠唱も、魔法の道具だっていらない。

 そして、髪色は魔力のせいで変化するものの、顔立ちは私そのものなので、仮面で隠すように言われた。髪色や背丈が違うだけでは、私に親しい人物には勘付かれる可能性があるのだという。


「しょ、しょうがないですね。死にたくないですし、死なせたくないですから」


 私は自分の顔に手を当てて、顔を隠すものをイメージする。直接的なイメージは、仮面舞踏会で使うお面といったところかな。お父様やお母様に見せて頂いたことがあるので、それをベースにする。同じものを作ればそこから勘付かれるからというベルフェルのアドバイスを取り入れた形だ。


「同じようにイメージすれば、服装だって変えたい放題だ。どうだ、魔法って便利だろう? おいらと契約していれば、いくらでも使えるからな」


 私の顔で意地悪く笑うベルフェル。さすがにイラッとしてくる。だけど、自分の顔だけに殴れない。


「さて、その姿で活動している間の埋め合わせはおいらに任せておきな。変身を解けば、おいらの得た記憶がお前さんに流れこむ。つじつまは合わせられるってもんだぜ」


 あまりにもとんでもないことに私は言葉を失ってしまう。

 そうしたら、ベルフェルは私の顔でにやけながら覗き込んでくる。


「今までの契約者の中では、一番若い子でおいらは嬉しいなぁ。心配すんな、おいらは人真似もうまいんだ。ちゃんとあんたの代わりを務めあげてやるからよ」


 身を引いたベルフェルは、頭の後ろで手を組みながら満面の笑みを浮かべている。


「さて、そろそろ王子様もピンチになるぜ。乗った馬車が暗殺者に狙われるんだ。あんたが望めば、あんたは何者にでもなれる。おいらの力で助けてやりな」


 ベルフェルの言葉に、私はぐっと手を握りしめる。


「おいらの魔力で王子の居場所は分かる。念じれば瞬時に移動できるはずだ。だが、目の前には行けないから気をつけろ。状況を見極めて、適切なものに変身するんだ」


「……分かったわ。行ってくるわ」


 ベルフェルのアドバイス通りに、私は目を閉じて殿下のいる場所へ移動するように念じる。

 次の瞬間、気持ち悪い感覚が私に襲い掛かってきた。

 あまりの気持ち悪さに思わず顔をしかめてしまう。

 感覚が元に戻ると、私はおそるおそる目を開ける。


「ここは、どこ?」


 さっきまでドロップ男爵邸の書庫にいたはずなのに、今いるのは王都の中ですらなさそうだった。


「ここは、王都の外の街道?」


 街道の両脇には森が広がっている。昼間であるというのに、辺りには人通りがまったく見られなかった。


「これは、おそらく王家の馬車が通りために人払いがされているのね。って、殿下の馬車はどちらに?!」


 私はベルフェルの話を思い出して、辺りの様子を確認する。

 殿下のことを思い浮かべていたので、そう離れた場所にはいないはずだ。

 やがて、私の耳に馬のひづめの音が聞こえてくる。どうやら、王都の方向に向かって戻る真っ最中のようだった。

 私は状況を探るために神経を集中させる。


(すごい、体の中で何か力を感じる。これが魔力っていうものなのかしら)


 ざあっと、自分を中心に魔力の波が駆け抜けていく。


(二頭の並んだ馬と、それを囲む馬。これが殿下と護衛たちといったところかしら。周りには……四十くらいの人影があるわね。これが刺客ってわけかしら)


 殿下たちの護衛は十名ほど。対処できなくはないでしょうけれど、敵は挟み込むようにして森に潜んでいる。護衛は馬に乗っているので、最悪の事態をも考えられた。

 いろいろと昔の兵法も勉強してきたので、不意を衝く側からすれば馬を確実に狙ってくるだろう。


(そうとなれば、私が取るスタイルはこうかしらね)


 私はこの状況で最適と思われる姿を思い浮かべる。すると、私の体が光り出して、姿が変わっていく。


「よし、加勢に行くわよ」


 私は、殿下の乗る馬車に向けて走り出す。

 あと少しで到着するその時だった。

 馬たちのいななきが響き渡る。

 賊による襲撃が始まったのだ。

 馬が暴れ出して、護衛の騎士たちが混乱をしている。そこへ襲い掛かる賊たち。


「そうは参りませんわ」


 混乱の中、馬車に襲い掛かる刺客。馬車の扉に手をかけたその時、私は刺客目がけて体当たりを繰り出したのだった。

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