05-07:二人の出会いは必然で

 蔭山さんちから徒歩数分の公園。

 遊具コーナー半分、芝生広場半分の、海が見える小ぎれいな公園。

 きっとこの住宅地に入居する、ファミリー向け憩いの場。

 あたしたちは芝生広場で、海を見渡せるベンチに腰を下ろす。

 梅雨の晴れ間の太陽が、水面をイルミネーションのようにキラキラと輝かせてる。

 しばしの沈黙タイム。

 やがて蔭山さんが、喉のさらに奥から搾り出すように、言葉──。


「……うちのお父さん、ご存じのとおり市議会議員なんですけど。保守的な市政を改革する派閥のお神輿みこし……リーダーにされてる格好なんです」

「へ、へえ~」


 なにやら難しそうな話。

 思わず生返事しちゃったけれど、蔭山さんは意を決して打ち明けてる。

 きちんと理解できるよう、一言一句聞き逃さないように──。


「一方の保守派は、古株の地元企業が後ろ盾の2世や3世。若年層の流出が続くこの土地では、昔なじみの企業をひいきしてる高齢者層の支持が強くて……。お父さん、とっても大変そうなんです」

「そうなんだ……。そういうお父さん見るの、辛いよね」

「はい……。ですから、この土地へ引っ越してきてくれた灯さんが、一際まぶしく見えたんです。アハハハ……」

「あ……あたしは、親の転勤につきあわされただけだし……。あははっ」


 蔭山さんのぎこちない笑いに、思わずつられちゃった。

 そっか。

 そういう事情あって、この土地に染まってないクラスメート……あたしと、仲良くなりたいって思ってくれたんだ。

 打算……と言えなくもないけれど、あたしも「陰キャっぽい蔭山さんなら友達にしやすそう」って打算あったから、ここはお互い様ってことで!

 あっ……じゃあ、そういう境遇なら……。


「……もしかして親のしがらみが、蔭山さんにも影響あったり?」

「ありますね……はい。あの子とは遊ぶな……って言う親がいたり、あたしにだけ厳しい先生もいたりで……」

「先生もっ!?」

「あ、先生は中学の話ですっ。いまの野木並高校のきこうには、そういう先生いませんよ? 受験前にお母さんが、しっかりリサーチしてくれましたからっ」


 パーにした手を、ぶんぶんと左右へ振って否定する蔭山さん。

 でも「先生」ってことは、生徒にはいるんじゃん。

 蔭山さんにキツく当たってる、けしからん奴が。

 そう言えば美樹下の奴が蔭山さん気にしてるの、それが理由かも。

 そんで利賀先生が「蔭山へはいままでどおりに接しろ」って言ったのも、それが理由……。

 ……はっ!?


「ま、まさか利賀先生が、ポケットマネーであたしを部に勧誘したのって……。あたしのためだけじゃなくって、土地に染まってないあたしを、蔭山さんのそばへ置くためにもっ!?」

「そこはなにも言ってませんでしたけど……きっとそうでしょうね。わたしも、トレッキング部へ誘われた一人ですし」

「蔭山さんを、できるだけ手元に置いておくために?」

「いえ。この土地の過去を知り、未来への判断材料にできれば、少しは過ごしやすくなるだろう……って。遠回しに、そう励ましてくれました」

「はあああ~。あのドライ眼鏡教師、意外と人情派だぁ」

「はい。とってもいい担任に当たりました。ウフフッ♪」


 確かに、もしそうなら尊敬に値する人物。

 掌の上で転がされてる気が、しないでもないけれど……。

 そこはまあ、あたしたちを引き合わせてくれた仲人ってことに、しておいてあげるかな!

 よし、今度プリッツ差し入れしよう。

 あっ……と、その前に。

 いまここで、プレゼントを渡すべき人が──。


「……話変わっちゃうけれど、あたし蔭山さんに、プレゼントあるんだ」

「プレゼント……ですか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る