03-03:真っ黒なカーテン
「到着~。第1チェックポイントのぉ、立山公園です~」
バス停から徒歩5分ほどで、山裾の公園へ。
斜面地に造られたそこには、葉桜のソメイヨシノがたくさん並ぶ。
児童向けの遊具ゾーン、土剥き出しのグラウンド、そして……展望台。
階層構造の公園を上った先にある展望台が、第1チェックポイント。
階段を上って、正円状の展望台から街並みを見下ろす。
バスの車窓からとは違う角度の、この土地の顔。
言わば街の横顔……かな。
引っ越してきてからまだ歩いたことない通りが、何本も向かいの山へと繋がってく──。
「……灯さんは、ここへ来たことあります?」
物珍しそうに眼下を眺めてるあたしへ、蔭山さんからの素朴な質問。
その素朴さが、ちょっとだけ胸に痛い。
この2カ月間、家と学校をただ往復してただけのあたし──。
お父さんの転勤に振り回されてる自分の運命を呪い、中学時代築いた交友関係のフェードアウトばかり気にして、新しい街のことを知ろうとしなかった視野の狭さを痛感。
前髪が眉上パッツンでも、顔の前に真っ黒なカーテンを垂らして過ごしてたようなもの……。
「……ううん、ない。初めて」
「わあ、よかった! この街のこと、トレッキング部でたくさん知ってもらえるとうれしいですっ!」
「はは……」
蔭山さん……。
あたしはたぶん……ううん、あたしは。
人恋しさから、見た目陰キャっぽいあなたへ興味を持った。
同じ、孤立仲間だと思った。
顔の前にカーテン着けてる者同士だと思った。
けれど蔭山さんは、あたしと違って周りに好かれるタイプで……。
それでいて、あたしと友達になりたいと言ってくれた。
この状況にピッタリな言葉、いまは見つからないけれど……。
あたし、あなたに興味を持ててよかった──。
「んん~……いい景色ですね~。それではここでぇ、飲み物を配ります~」
あたしたちの会話が終わるのを待ってた部長さん。
リュックからペットボトル2本取り出して、あたしたちへ。
あたしにアクエリ、蔭山さんに綾鷹。
んー……ぬるい、常温。
「ここからは上りですからぁ、ペース配分を考えて飲んでくださいよ~。特に初トレッキングの灯さんはぁ、気をつけてくださいね~」
「えっ? あ……はい」
「この先自販機ありませんからぁ、飲料水の補充はできませんよ~? 山登りの際はぁ、事前に下見やストリートビューでぇ、最後の自販機の場所をチェックしておいてくださ~い」
「な、なるほど……」
あ、でもそれって。
言い換えれば……。
「言い換えればきょうは、ペットボトル一本で済む移動距離ってことです……よね?」
「鋭いですね~。とはいえ個人差ありますからぁ、しょっぱなからゴクゴク飲まないでくださいよ~?」
「はい、わかりました」
「ペットボトルはぁ、飲んだあとに潰せて、場所を取らないのがいいんです~。本格的な水筒提げてくるとぉ、重さで疲れることもありますからぁ、目的や移動距離を考えた荷物選びが大事ですよ~。あははぁ」
た……確かに!
実際あたしきのう、ディスカウントショップでカッコごつい水筒物色しちゃった!
部長さん、一見ほわほわ癒し系だけれど、計画性があって、後輩思いで、それでいて厳しいところは厳しい!
理想の先輩!
ああもう、そのふくよかボディーへ抱き着かせてくださいっ!
……って。
あたしの狙いは部長さんじゃなくって、あくまで蔭山さん。
あの線の細い体を正面から抱き締めて、至近距離で前髪の奥の瞳を……。
……いやいやいやいや。
抱き着くのは目的じゃないっ!
仲良くなりたいだけっ!
ああああ……あたしトレッキング部入ってから、性格じわじわ変わっていってる気がするぅ!
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