第12話 パンプキンプディング

 宿屋に宿泊代金1万ガルドを支払ったのち、俺たちは防具屋に向かった。


 ゼリーを売ったお金で、まずは俺の服を買うことにしたのだ。


 これまでの生活の中では、ボロ布みたいな服を着ていたからだ。


「いらっしゃい。何をお探しで?」


「この方用の服を1着、お願いします」


「あいよっ。こいつはどうだ?」


 防具屋の主人は、ごく普通の服を取り出した。


 マント付きの旅人用の服だ。


「上下セットで2万5千ガルドだ。【裁縫師さいほうし】の妻が仕立てたばかりの新品だぞ」


「いかがですか、ご主人様?」


「そうだな……」


 少し割高わりだかには感じるが、工業の発展していないこの世界、まあ、手作りならしょうがない値段なのかもな。


 見た目も悪くない。


「実際に着てみて、問題なさそうなら買わせてもらおう」


「おし。じゃあ、裏に来てくれ。すそとかはサービスで調整してやるよ」


 そうして。


「きゃーっ! ご主人様、素敵ですっ!」


「うむ……」


 さっきまで着ていたボロ服から比べて、だいぶ上等な見た目になった。


 着心地きごこちも悪くない。


「ありがとう。2万5千ガルドだ」


「まいどありっ!」


「ご主人様、最高です!」


 防具屋の外に出ると、今度は旅の物資を購入していく。


 携帯用の保存食、毛布、火うち石などなど。


 ふたりとも、ほぼ着の身着のまま王都から追放されてしまったため、必要なものはたくさんあった。


 おかげで、買い物にだいぶ時間がかかってしまった。


「ご主人様、そろそろ宿にむかいましょうか?」


「そうだな」


 日も暮れ始め、あたりは人が少なくなってきている。


 オレンジ色に輝く麦畑をながめながら、俺たちは宿への道を歩いていった。


 旅の準備も整った。


 明日からは本格的な旅生活か。


 けして楽しいばかりではないだろうが、なんだかわくわくしてきた。


 この世界には、どんな風景が待っているのだろうか。


 見たことがないような自然や建物、街並みなど。


 気に入った場所が見つかれば定住するのもいいかもしれない。


「まずは海辺の街、か……」


 まだ見ぬ景色に思いをせながら、ミントと並んで歩いていく。



 ☆★☆



 夕食は、昼食とまったく同じメニューだった。


「おいしかったですね、ご主人様」


「まあな……」


 うまかったのはうまかったが、若干物足りない。


 田舎の宿屋だ、あまり多くを求めるのもこくなのかもしれない。


 ゆえに。


「作るか」


「え……?」


「もう1品ほしい」


「え! え!」


 ミントは期待を込めた目で俺を見ている。


 俺は昼間に購入した食材を取り出す。


 そして、スキルの発動を念じた。


「何か作れるものを提案してくれ!」




 =======


 ジョブスキル「スイーツ創造」を使用して調理しますか?


【メニュー名】

 ○パンプキンプディング


【材料】

 かぼちゃ(小) …… 1個

 たまご …… 8個

 牛乳 …… 所持なし→MP20

 砂糖、バニラエッセンス …… 所持なし→MP5

 水(調理用) …… 200cc程度


【調理条件】

 調理技術(焼き)


【効果】

 通常効果:優しい気分になれる

 適合効果:1グラム摂取につき経験値+1(回数制限なし)


 =======



 おお、けっこうMPを使うようだが、問題なく作製できるな。


 ならば。


「スキル発動!! スイーツ創造っ!」


「わくわくっ」


 かぼちゃ、たまごが宙に浮き、光の帯がぐるぐると巻き付いていく。


 続いて、カップに入れた水が浮かび上がり、合流する。


 最後に炎が巻き起こり、水が蒸気になるジュウッ!という音が聞こえた。


 そして……。


「――完成だ」


 部屋のテーブルの上、からっぽの木皿に光の玉が降りていく。


 バニラの甘い香りが部屋に充満する。


「ご主人様、これは……?」


 光が消えると、直径30センチメートルほどの、ホール状になったプディングが現れた。


 カラメルソースがひとすじ垂れ、側面に茶色い線を描く。


「――かぼちゃを使ったプディングだ。これは聞いたことあるか?」


「プディング!!」


 ミントは驚きの表情を見せた。


「これがあのプディングですかっ!? 王家が国賓こくひんをもてなすときに提供するという!」


「おお、やはり知ってるんだな」


 ヨーロッパっぽいものは、この世界にもあるようだ。


「見たことはありませんが、憧れだけは人一倍ありました!! これがプディングなんですね!!」


「そうだ。まあ、俺がいた国で食べられていたやつを再現したものだから、このあたりのレシピとは違うかもしれないけどな」


「はぁ、はぁ……。おいしそう……。じゅるり……」


 ミントは物欲しそうな顔でこちらを見ている。


 ううむ、だが、これだけは伝えねばなるまい。


「ミント、お前には俺のジョブについて伝えなくてはならない」


「ジョブ、ですか……? はぁ、はぁ……」


「ああ。どうやら俺は、甘いものを食べるほど強くなる体質らしい。俺のジョブの特性として、お菓子への適合というのがあってな。自分で作成したお菓子を食べると、なんらかの形で成長できるんだ」


「すごいスキルですね……。はぁ、はぁ……、くん、くん……。いい匂い……」


「とりあえず、俺は強くならなくちゃいけない。自分の身を守れる強さは、旅には必要だからな」


「ご主人様のお話、ごもっともです……! でも、それより……。すぅ、はぁ……」


「だからな……」


 俺は、ミントに断言した。


「俺が甘いものを食べるのは、修行の一環いっかんだ。けしてただ楽しんでるわけじゃない。わかったか?」


「は、はい……!」


「ならば、見守っていてくれ。俺の修行を応援してほしい。食えるだけ食うことが、俺が強くなる道なんだ」


「ふぇ? ええと、それって……」


「さあ、いくぞ」


 ドカ食いだ。


 俺はホールのプディングを、スプーンで直接すくった。


「え、あ、あれ!? ご主人様、切分けカットは……?」


「必要ない」


 俺はスプーンを口に含む。


「うまっ!!!」


 かぼちゃと卵の優しい甘みが、口の中に広がる。


 ほろ苦いカラメルソースもアクセントになっており、味に変化がある。


「あ、ああああああああ!!」


「よし、俺は成長している!! もう一口だ!!」


 スプーンで、プディングを山のようにすくいとる。


「ふぇ、え……」


「ばくっ!! うまいっ!! カラメルソースのおかげで後味に苦みがあるから、どんどん次の甘さを求めちゃうんだよな」


「あああああああああん!!」


「さあて、次だ。ミント!! 俺が強くなるよう応援してくれ!! がんばって食べるぞ!!!」


「う、うううううう〜。が、がんばれ……、ふぇ……、がんばれぇ、ご主人様……! ふぇぇぇぇええええん!!! プディン……!!! わたしのプディィィィィン……!!!」


 ミントは号泣しながら、俺を応援してくれる。


 食べすぎで気持ち悪くなってきたが、ここまで応援されちゃあな、負けるわけにはいかないわな。


 俺はホールのプディングをだいたいまるごと食べた。


 どうしても食べられなかった分はミントが食べてくれた。


「ふえぇぇぇぇぇぇん!!! おいしい!! おいしいですぅ!! わたしは貴族ですぅ!!! ご主人様、大好きですぅ!!」


 間接キスだから止めたほうがいい、とそれとなく伝えたのだが……。


「キス大歓迎ですっ!! ご主人様のお口のまわりもお掃除してあげたいくらいですっ!!」


「それはやめてくれ……」


 もう少し俺の最大MPが上がれば、ふたつプディングを作れるようになるかもしれない。


 そのときには、ミント専用の分も用意してあげよう。


「はふぅ……。ごちそう様でした……。幸せの余韻よいん……」


 ミントはにやけながら、目を閉じて天井を見上げている。


 まったく、のんきなやつだ。


「よし、寝る前に……」


 俺は今日の成果を確認してから、就寝の準備をすることにした。


「ステータス・オープン」



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 ノエル・シュガー

 ジョブ:お菓子マスター(Lv2)


 性別:男性

 年齢:16歳

 状態:食べすぎ


 レベル:14

 経験値:41/631


 HP:98

 MP:46

 力:49

 体力:60

 速さ:41

 器用さ:72

 魔力:32


 甘味スキル:軟体化なんたいかLv10


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【現在のジョブスキル】


 お菓子鑑定、スイーツ創造、追加効果(スイーツ)、調理技術(焼き)


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