第7話 任されるもの
「攻撃って」
「クローバーはシロツメグサではなく武器を表す」
説明を求める稔にミカは淡々と答えた。必要無い部分をカットした最短距離で話しているつもりであった。しかし、それにはやや語弊が出ていることに本人は気付いていなかった。
それから、稔はミカの指示通りに自身から見て右にあるカードから開いていく。ミカも同じようにカードを開いていった。
「6,7,8,9,10の順。ストレートフラッシュか」
「いや、ポーカーの役じゃないんだから」
咄嗟に稔がツッコミを入れる。
「この結果は、これから有利ね」
ニヒルな笑みを見せるミカのことを不気味に思う稔は表情がダダ漏れであった。ミカの後ろに立っている二人にはミカの顔は見えないが、表情の豊かな稔を見て、何となくわかっていた。
ミカの真意がももと稔に理解出来たのは、約一時間後であった。
ミカはその後もも、瞳の順でトランプを使用したタロット占いのようなことを行った。結果はそれぞれ違っていた。稔は細工を疑っていたようだが、痕跡は全くない。
ちょうど瞳が終わったタイミングで室内に唯が入ってきた。急ぎではあるが冷静さは変わらない。放課後に行われた予算委員会が終わったのであろう。唯は三人がいることを確認すると持っていた紙に書かれていることを見ながら話し始めた。
「予算委員会が終わった。結果は思った通りだった」
予算の削減理由は単なる嫌がらせだけではなかった。
「やっぱり、負債があるみたい。繰り越しの負債がね」
「その理由は分かったのですか」
唯は「いや」と首を横に振った。問い詰めたが口を割らなかった。ただ、あおからすれば予算削減の理由を突き止めたことが収穫であると考えているようだった。
「あと瞳」
「はい」
「明日の昼休み、部室に来て。あお先輩から頼みがあるって」
「わかりました」
頼みの内容について、唯は知っているような口ぶりであった。ミカは横目で瞳の顔色を伺っていたが、瞳は特に何も感じていなかった。
翌日、ミカは教室の自分が使う座席に座ってイヤホンをしていた。スマホは通話している状態であるがミュートになっている。ミカのスマホは瞳のスマホと通話している状態であった。瞳は今部室にいる。イヤホンからは物音が聞こえる。パイプ椅子を引く音である。その次に座席に座る音がした。次に聞こえる音はあおの声である。
「ミカは?」
「教室です」
「そう。まあ、来るかなと思っていたけど。まあいいや」
あおは一息ついて、目線を一度下に逸らしてから再び瞳へ向けた。そこには覚悟を決める時間を稼いだかのような間であった。
「あお、来年の黄輪祭の実行委員長を務めてくれない?」
「はい?」
おとぼけたような声がイヤホンからミカの耳へ届いた。ミカも一度おでこに手を当ててから頬杖をつくように右頬に手をずらした。
黄輪祭とは毎年五月中頃に行われる多井平市にある六つの高校が合同で開催する体育祭であった。各校が持ち回りで主催となり、今年は織姫高校が主催となっていた。
「来年のですよね?」
「来年。来年は
て」
「唯先輩とか二年生ではダメなんですか」
「二年生は来年三年生。今から準備を行う都合上、
長くなるでしょう。だから、今はまだ手の空いている一年生を中心にしたほうがいいかなって」
あお先輩が言いたいことは二年生への負担を減らしたいということであろう。二年生は十二月に控える修学旅行の為に夏休み前あたりから準備を始める。また来年には大学受験を控えている。それに対して、まだ時間に余裕のある一年生を中心に実行委員を動かしていった方がいいという考えである。
(本当の狙いはもしかして)
ミカはある仮説を持ちながらあおの話をイヤホン越しで聞いていた。少しの間で無音が続く。瞳は悩んでいるのか考えているのか。見えない以上ミカにはわからない。
「実行委員のメンバーはどう決めるのですか?」
「多分、公平性を求められると思うよ。本来、実行委員長になるのは生徒会か風紀委員だから。幾つか条件を飲まされることは覚悟して」
「はい」
結局、それは主導権の奪い合いかなのか派閥の争いなのかはわからない。そこには決まった答えはないのだから。
瞳は難しい顔をして教室へ戻ってきた。内心はどう思っているのかうかがわせることが出来ないよう表情を変えなかった。
意図して声をかけず、放課後までそのままでいた。その話題に触れることを避けて、放課後二人は部室を訪れた。
「誰もいないか」
「そうね」
長机を挟んでお互い向かい合わせに座り込んだ。言葉を交わすことはない。
鞄に入れてある雑誌を広げるミカとスマホを指でなぞるようにスワイプしていく瞳。お互いにグリーンを探り合っている形になっていた。
静寂な時間は、ミカのスマホから鳴り響く着信音で切り裂かれた。ミカは雑誌を閉じて膝の上に乗せつつ、長机に置いてあったスマホを手に取った。電話の相手はももであった。画面は瞳からも見えた。
「もしもし」
そう口にしてミカは廊下へ出て行こうとしたが、立ち上がった瞬間に膝の上に置いてあった雑誌が落下した。ミカは通話に集中しながら目で床に落ちた雑誌を探して拾い上げる。雑誌を長机に置いてあることを確認して廊下へ出ていった。
なんだったのか。瞳は二人の会話がどういったものか、考えられる限り可能性を巡らした。
その反面、ミカと距離を置ける時間が出来たことで頭の中にある情報の整理が始まった。
「生徒会から一人。風紀委員から一人。その他は関係なく多様な人材か」
左手の親指で人差し指をなぞりながら、この先に起こり得る出来事を想像する。
「ミカは入れられないわね」
現実に発生する出来事は都合良く動かない。また、一つ先へ進めば起こる出来事に怯えそうになる自分に気づいた。
切り換わった自分の中では、迷いは許されなかった。現在は周りに誰もいないが、誰か一人でもいる状況では迷っている姿を人に悟られてはならない。
特にミカが近くにいればすぐに気づかれてしまう。迷いは相手に大きな隙を見せることになるからだ。
荒環史高校が主催の黄輪祭は来年である。今年は織姫高校が既に準備を始めている。瞳は考えがまとまり始めていた。
スマホの時刻はミカが部室を出て六分経っていた。いつの間にか声は聞こえなくなっていた。そろそろ電話も終わっただろう。タイミングを見計らって瞳は立ち上がり、部屋の外を向かって歩いていた。
「あれ、いない」
廊下にはミカの姿は無かった。始めから何も無かったかのように廊下は閑散としていた。
違和感はある。どこかへ行くのであれば、ミカは鞄を持っていくであろう。しかし、鞄は部室に残されたままであった。さっきまで座っていたパイプ椅子の隣、底が地べたに付いた状態で置かれている。
(何かあった)
瞳が出した可能性であった。自分を巻き込まない為に、あえてこのように行動した。
(こういうときは)
ミカは次どう動いたか。瞳は閑散とした廊下を見つめていた。
可能性はここから一番奥にある階段を降りた。荒部連の部室がある三階からは直接校舎には繋がっていない。また、外階段等の出入りが可能な場所もない。
階段を降りれば部室棟と校舎を繋ぐ渡り廊下に向かうことが出来る。そこからは二手に分かれるが可能性を絞ることは現時点では難しい。
(行ってみるしかないか)
瞳は部室のドアを閉めて、廊下を歩いて行く。足音は立てずも足並みは少し速めであった。
階段は左側からゆっくり降りて、下の階へ辿り着いた。
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