第48話 Tier1⑯

亀井は去る前に、五軒家に忠告した。


「一つ言っておく。ANPAだけは、敵に回さない方がいい……それでは、健闘を祈る。」


そして会場は、山本の話題で持ちきりだった。


権藤が五軒家に言った。


「もう、ビンタはないな。」


「ええ。その必要はありません。彼女の営業は、もう粗方終わりました。」


「まさか、ここまでの展開も読んでたのか?」


「いや、さすがにそれは。偶然が重なっただけですよ……」


山本は、室戸や如月たちと記念撮影をしていた。プロダクションのスタッフも満面の笑みでシャッターを切っている。


一つの時代が終わり、そしてまた、新しい時代が始まろうとしていた。


話は再び、作戦会議に戻る。


「まあ、電源は持つし、切らなくてもいいんだけど……もったいなくないか?勝負が終わったら切ってもいいんじゃないか?」


岡島が尋ねた。


「しばらくは、隠れていたいんです。さっきも言ったとおり、じゃんけんの手を誰かが指示していると知られたら、袋叩きにあう。偶然を装うことはできますが、勝負が終わった直後に戻ってきたら、“何であいつはあのタイミングで?”と、5,000人中数人は気づくかもしれません。」


そこで美玖が突っ込む。


「でも、健吾が映像を見せたんでしょ?じゃあ、そこに行くのは自然じゃない?レストランに残る方が逆に怪しくない?」


「外の客がいなくなっても、中にはまだ順番待ちがいる。その順番が、自分まであと3人とかなら、急いで戻ると考える。でもそうじゃない場合、“注目を集めすぎたな”って思って戻らない人も出てくる。その判断を、様子を見ながら決めたいんだ。」


「なるほど……ほとぼりが冷めたところで戻る、ってことね。」


「その通り。」


「じゃあ、野球拳が終わったあとは?」


「しばらくは、山本さんにオファーが殺到するはず。もしそうならなかったら――営業してくれ。頼めるか?」


「もちろん!任せて!私のメイク、舐めないで頂戴よ!」


「それは頼もしい。」


五軒家の思惑どおりにはいかなかったが、機転によって予定の数倍の注目を集めることに成功していた。


その後、さっきレストランで席を取った観客が話しかけてきたが、台湾語が分からず、そばにいた権藤が代わって返事をした。


「今、レストランは空いてる。急げ!!」


男は一目散に走っていった。


公開収録まで、残り数時間となっていた。


権藤は尋ねた。


「なあ、なんで佐々木を“ビンタ”で済ませたんだ?あいつ、俺の直感だと相当ヤバいことしてただろ。」


権藤は、佐々木がAV新法を悪用し、小さな業者を潰していたことなど知らなかったが、それでも何か“悪いにおい”だけは感じ取っていたらしい。


「そうですね……彼女は、ひどいことをしました。とても許されることじゃない。

今まで朽ちていった人たちの“金”、“命”、“魂”、“希望”、“絶望”、“涙”……それを全部合わせても、ビンタでは到底足りません。


でも、彼女には才能がある。

ヒット作を何本も出してきたのは事実です。

だから、一からやり直して、もう一度這い上がってきてほしい。」


「で、もし這い上がってきたら?」


「もちろん――その時は、全力で叩き潰します。」


一方、日本国内――


ANVIAグループから通達を受けたHOPEは、わずか数時間で佐々木智子を人事会にかけ、正式に「2週間の謹慎」と「降格処分」を決定した。


そして堺正明が、グループ総括長に抜擢され、ただちにグループ刷新に乗り出した。


佐々木派の監督たちは、メインメーカーから外され、マニア向けのインディーズメーカーへと“左遷”された。


なかでも、佐々木の寵愛を受けていた大松貞輔。

彼もそのインディーズメーカーからオファーを受け、事実上メインシーンから退くことになった。


堺は新たなスローガンを掲げた。


「女優第一。それ以外は、女優の魅力を引き出すために動け!」


これは、堺が男優時代から抱き続けてきた信条であり、師・高城 鷲(たかしろ わし)の


「男優はあくまで黒子」


という言葉に通じるものだった。


佐々木の周囲にいた男優や監督は、“自分が目立つ”ことを目的に立場を利用していた。


たとえば「むべなる」はその典型で、作品の最後に自分を絡ませたり、撮影後のインタビューを最初に持ってきたりしていた。


堺の作品はワンパターンだと批判されることもあるが、佐々木の奇をてらった演出も、いずれ飽きられるのは時間の問題だった。


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