第43話 Tier1⑪

 美玖は、五軒家に尋ねた。

「外の営業って具体的にどうするの?ていうか、あんた、台湾語一言でも話せるの?」

「無理だ。ニーハオくらいしか知らない。」

「それ中国語だし...」

 岡島が呟く

「あながち間違ってはないけど。」

 美玖も呟く。

 五軒家は話をつづけた。

「外では、女優に相手にされていない男たちは、2階にあるレストランで、女優を追いかけたりするだろうが、単純にご飯もあるんだから、それ目当てで、店に入ったとしても、何ら不思議ではない。朝から何も食べていない者もいるだろうからな。」

「たしかに..」

「だが、店の数も席も限られている。全員が全員店に入っているということは、たぶんないだろう。その間携帯を見たり、女優のサンプル動画を見て時間を潰すはずだ...レストランの外で」

「そうだね...」

「そして、俺は、スマホで、その映像を見せる。相手に、スマホの翻訳で話しかけ、どうせ、まだ、席が空くまで時間はあるから、これでも見ていかないかってな。すると、そこには、野球拳リングにいる権藤さんがいるはずだ...そして、後ろにいる日本人女性を目の当たりにする。察しのいい奴なら気づくだろう。後ろの女の人の裸をめぐって、野球拳をしていることに。そして、男は走り出す。勝負が終わる前に。急げばものの数秒で、生の勝負が見られるんだから、この手間を惜しむ者はいないだろう...」

「でも、スマホで見れるんだから、そのままでいいという人もいるんじゃない?」

「たしかに、レストランがまた、満席になるのは嫌だからな。だから、俺は、席は取っといてやるから、行ってこい。というんだ。」

「なるほど...」

「そして、いきなり走り出した男を見て周りも、気づくものが出てくる。そして、俺は、こう言う。彼はこれを見に行ったってな。そうすれば、あとは、流れるように人はそっちに集まる。行くか行かないか迷ってる間に勝負が終わる可能性があるからだ。」

「そういうことか...」

「それを勝負が始まる前にすべて済ます。なので、権藤さんには、あることをしてもらいます。」

「あること...?」

「簡単に言えば、時間稼ぎです。条件の方は相手はあっさり飲むと思います。問題は...その先です...」

「その先...」

「権藤さんは、野球拳については、もう日本と台湾の両方のやり方を知ってると思います。」

「まあ、宴会とかでよくやるからな。」

「ですが、台湾式の方はあえて知らないふりをしてください。」

「何でだ?そりゃあ?」

「仕切り直しが効かないからです。」

「仕切り直し...」

「ローカルルールと言えば多少は誤魔化しは効きますが、それだと客は納得しないでしょう...なので、日本のルールを覚えろ!これを、相手に強要します。その時の言葉選びは、権藤さんに任せます。そして、実際にやらせて、客にもそれを納得させてください。」

「あんまり、いい方法が思いつかねえな。」

「そうですか...例えば、みんなで、歌わせるというのはどうでしょう...」

「歌わせる?」

「俺の言うとおりに歌ってくれ!と権藤さんが言い、客に復唱させます。やーきゅうーすーるならーこーゆーぐあいにしーんしゃーんせーです。そのとき、ゆっくりうたってあげると、時間稼ぎもできて、なおかつ、客も歌いやすくなります。」

「なるほどな...でも、仕切り直しっていうのはなんだ?」

「通常の野球拳では、相子が出て場合、アウトーセーフよよいのよいといった後、連続して、よよいのよい、と言って出しますよね?」

「そうだな...」

「それを、アウトセーフからやり直してください。少し手間ですが....」

「そりゃあ、またなんで?」

「これも今言う訳にはいきません...」

「70%勝つ方法に関係してんのか?」

「はい...」

「分かった。聞かねえでやるよ。山本さんもそれでいいか?」

「はい。もう、五軒家さんを信じるって決めましたから。」

「いい度胸してんだな。」

「度胸だなんてそんな....私は...臆病だし...わがままだし...そんな立派なモノなんて...」

「臆病でも、わがままでもいいじゃねえか。大事なのは、心から信用できる人を大切にするってことだぜ。」

「はい...」

「もちろん。私は全力で勝ちに行きます。勝負が盛り上がらないから、わざとあいこにしたり、負けたりするなんてこともありません。」

 続けて五軒家は言った。

「外にいる客たちは、全員、メインフロアに行くはずです。そうすれば、レストランに入ることができますので、電話をするふりでもしながら、指示を出します。」

 そして、五軒家は岡島に言った。

「バッテリーは最大でどのくらい持ちそうだ?」

「16時までは、余裕で持つよ。」

「そうか...なら、勝負が終わっても電源を切る必要はない。」

「え?」

 メインフロアでも、レストランでも何もすることがない男たちがやることと言えば、3階にある、アミューズメントエリア、つまり、ギャンブルである。

 ギャンブルには順番待ちがなかった。

 本当に何しにやってきているのであろうか...

 

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