31.運動の後の初詣
あの後結局私は
「気付いたらとっくに年越してたね〜」
「そうみたいね。さっきからあんたのスマホうるさかったわよ」
「わ、ほんとだ。みんなからあけおめのメッセージ来てる〜。あ、明霞ちゃん。あけましておめでとう。これからも末永くよろしくね」
「こっちこそよろしく頼むわね
髪を拭いていたタオルごと私の両頬を挟んで年を越したから初ちゅーした。
「それじゃ、初詣……行く?」
「行くっ!!」
「ほわぁ〜、人いっぱ〜い」
「さすが年越ししたばかりだから人が多いわね」
そうだねぇと返しながら鳥居前まで並ぶ人だかりに寄っていく。するとくいっと明霞ちゃんに引き寄せられていつもみたいに密着した。
「人が多いからあたしのそばにいなさい。良いわね?」
「う、うんっ!」
こういうことをスッと出来る明霞ちゃんにもう何度目ともしれないときめきを抱いた。
「〜〜〜〜〜! いまねとってもきゅんってしてる」
「そう……」
あ、耳赤くなってるー。やっぱり自分でやったのに恥ずかしいんだ。そういうところほーんと大好きっ!
「あ、あんまりこっち見ないでちょうだい……」
「えぇー? だめぇ?」
ほんの少し前のめりで見つめていたのが恥ずかしかったのか明霞ちゃんは左手で口を隠してそっぽを向いた。
「だ、だめよ」
「ふぅん……そっか」
ここで少しイタズラしてみよっかな。
私は少しだけ顔を上げて、明霞ちゃんの耳許に顔を寄せる。
「ベッドだと見せ合ってるのに」
「……っ!? も、もう! ばかっ!」
「いだっ!?」
思いっきりデコピンされた。とっても痛い。
「ほ、ほら、行くわよ」
「は〜い」
イタズラは成功しなかったみたい。
ちぇ〜。でも耳まっかっかだからいっか。
「〜〜♪」
「まったくもう……調子いいんだから」
腕を組んでるだけだったのを私が恋人繋ぎをすると、明霞ちゃんは自分のコートのポケットに手を入れてくれた。
列が進み、境内の中がしっかり見えると賑やかだった。
「ねね。一緒に巫女さんとかしてみたいね」
「えぇ……? あんたなら似合うかもしれないけどあたしは似合わないわよ」
「そうかなぁ? 明霞ちゃんも似合うと思うんだけどなぁ」
「……でも考えておくわ」
「えへへ。ありがと」
御守り売り場にいる巫女さんを見ながら言うと、最初は困惑気味の明霞ちゃんだったけど、結局肯定的に考えてくれる。
「ほよ? なんか音楽? 聞こえるね」
「よく聴く曲ね。元旦だと広告で流れたりするやつに近いわね」
「あーあれかぁ。雅楽……だっけ」
「よく覚えているわね」
「えっへへ〜。記憶力は割と良いのです私」
えっへんと自慢げに胸を張ると「偉いわ」と褒めてくれて頭を撫でてくれた。
「ほら、お祈りしましょ」
「は〜い」
私たちの番が来て、明霞ちゃんから離れると少し寒く感じたけど参拝をする。
「明霞ちゃんは何をお願いしたの〜?」
「教えないわよ」
「え〜? なーんでー?」
「教えたら叶わないって言うじゃない?」
「そんなのあったような……? じゃあ言わない方がいいね〜」
私はもうこれ以上のこと願っては……いや、あるけどないから言わないでおこっと。
「あ、お蕎麦あるよ! 食べよ食べよ!」
「ちょっと! 蕎麦ならもう冷蔵庫にあるじゃないのよ」
「あっ」
「その顔は忘れてたわねぇ?」
私はごまかすように笑う。
「まったくもう……帰ったら用意してくれるかしら?」
「うんっ! まっかせて〜!」
帰る前におみくじを引いたら、明霞ちゃんは大吉で私は小吉だった。
「……『今の関係続けるべし』かぁ」
「あたしのは『今の関係に感謝をすべし』だそうよ」
お互いのくじの恋愛運のとこを言い合って笑い合う。
「それじゃあ帰りましょうか」
「あ、おみくじ結んでかないの?」
「それって確か凶のおみくじでやる……とかだったはずよ」
「あっ、そうなんだ。じゃあ持っとこ〜」
綺麗に畳んでお財布に入れる。
「あんたって思ったより保管癖あるわよね」
「まぁねぇ。こういうのってなんていうかもっといたらお得ってわけじゃないんだけど、ついつい残しちゃうんだ〜」
「だからコミケのパンフとかも残っていたのね」
「そゆこと〜」
それに記念だしね。初めて行ったコミケだったし。
「ほらほら、帰ろ〜」
ぎゅっと明霞ちゃんの左腕に抱きついて歩き出す。私のそんな行動にも明霞ちゃんはちゃんと付き合ってくれる。
「ちょ、ちょっと危ないじゃない。気をつけなさいよ」
「えへへ。は〜いっ」
注意してくれるけどその声も顔つきも優しくて、なんだかんだで甘々な明霞ちゃんが私は大好きだ。
明霞ちゃんの部屋に帰った時に明霞ちゃんのお母さんとお父さんに会って、なぜかお年玉をいただいてしまった。
困惑しかなかったけど、一応受け取っておくことにした。明霞ちゃんがふたりに怒ってたけど。
「し、栞里さんに何渡してるのよ!」
「え、いやぁ……ぼくたちからこの子にお礼って何がいいかなってママと話してやっぱりこれしかないよねぇって」
「だ、だからってあげすぎよ!? あたしも栞里さんも高校生よ……ほんとよくわからなすぎて頭が痛くなってくるわ」
お父さんの声が思ったより高くてびっくりした。あとこの光景が明霞ちゃんの家族の当たり前の日常なんだろうなぁ。
「ごめんなさいね栞里ちゃん」
「え? あ、いえいえ! その……使い道はちゃんと考えます!」
「きゃー! もうちゃんとしてて偉すぎ〜! ねぇ、栞里ちゃんいい子すぎてこのまま住まわせない?」
お母さんに抱きしめられて頭をもみくちゃにするくらい撫で回される。というか明霞ちゃんよりは控えめだと思うけど顔に当たって少し苦しいよ!?
「こ、こらお母さん! 栞里さんに何するのよ! 離れなさい!」
「あっ、ごめんごめん。かわいすぎちゃってついつい」
「ま、まったくもう……ごめんなさい栞里さん」
「なはは。だいじょーびっ。あっ、そうだ! お母さんからお蕎麦もらってて冷蔵庫に入れてあるからみんなで食べよ! いま準備するね」
乱れた髪を手櫛でなおしつつ、キッチンに向かう。すごい元気な明霞ちゃんのご両親だった。
「家事も出来るなんて偉いなぁ」
「ちょっと。それってあたしのこと馬鹿にしてるでしょお父さん」
「し、してないよぉ! ママぁ、娘が反抗期だよ〜!」
「ちょ、ちょっと! 変な言いがかりはやめてちょうだい!」
もう深夜なんだけど元気だなぁ。
「ごめんねぇ。賑やかすぎてうるさいでしょ」
「へ? いえいえ! 私の方も似たようなものなので全然! あ、私がやろうとしてましたけど……手伝ってくれるんですか?」
「そりゃあもちろんよ。何をすればいいの?」
「じゃあ……お出汁手伝ってください!」
「ふふっ。お母さんに任せなさい!」
準備するのも一緒に食べるのもとっても楽しかった。食べる前に写真を撮って、お母さんに送ったら、楽しそうで良かったって言ってくれて私はとっても嬉しかった。
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