16.ふたりで遊ぶはデートだよね!?

 ふたりで甘埼かんざきクルルっていうVtuberのアーカイブを観終わった。


「このひと、ホラー苦手すぎだよね」


「おかげで怖くなかったわね」


 配信のチャット欄やコメント欄でも『可愛い悲鳴助かる』とか『落ち着けw』とか『絶叫集』とかあった。人当たりも良さそう。


「あぁ、そうだ」


 時計を見て何か思い出したのか、明霞めいかちゃんは立ち上がってクローゼットに向かった。


「どうしたの?」


「あんたも行く?」


「ほぇ?」




 そうして訪れたのは、結構大きめな本屋。私も結構来るとこだった。


「何か買いたいのあったり?」


「そうね。この先生の画集よ」


「わぁ〜……! とっても綺麗な絵だね」


 そうして見せられたのはその先生の○ixivでとっても繊細な絵タッチでまるで水彩画みたいだった。


「あたしね、この先生のイラストが大好きなのよ。初めて見た時はなんて綺麗で儚い絵なんだろうって」


 画集のコーナーに向かいながら明霞ちゃんは言った。その目はきっと私も明霞ちゃんに向けているのと同じでその先生のファンなんだろう。


「あ、あったわ。これよ」


「表紙もすごく綺麗だね」


「そうよね。とっても分かるわ」


 明霞ちゃんは深く頷きながら画集を手に取った。画集にはなにかおまけみたいなのがついてて、ポップを見たらこの画集は特装版らしかった。


「何がついてるの?」


「直筆サイン色紙ね。特装版でしかも初回限定版でもあるのよ」


「それはすぐ買わなきゃだね」


篠宮しのみやさんは何か買いたい本があるなら持ってきなさい。コス手伝ってくれたお礼に一冊買ってあげるわ」


「えっ、いいの?」


 明霞ちゃんは頷いた。実は欲しかった小説があったのだ。ただ今はアス○のコスプレを買ったから結構お財布がスカスカで我慢してたのだ。

 私は明霞ちゃんの厚意に甘えて、ラノベコーナーに駆け足で向かい、持ってくる。


「あら、それって」


「そう! 私大好きなんだ〜!」


「ふふっ。あんたらしいわね」


 そうして買ってくれた明霞ちゃんに盛大に感謝した。それはもうぎゅーってして喜びを表すくらい。


「そうだ! ねね、明霞ちゃん。コスバ行かない?」


「こ、コスバ? あ、あんな陽キャがいそうなとこを? ……あぁ、でもあんたは確かに似合いそうよね」


 む。私をなんだと思ってるんだろう。


「あたしは行ったことないわ。なんというか……場違いな感じがして」


「えー、そうかなぁ? 全然変わらないけどなぁ。行ってみよ?」


「分かったわ。あたしのわがまま聞いてもらったんだもの。行きましょう」


「やたー!」


「だっ、だから……はぁー。まぁ良いわ」


 ありゃ? いつもみたいに引き剥がしてこない? 珍しい……。

 あ、そういえばこれって。


「なんだかデートみたい、だねっ」


「な、…………そうね」


 め、明霞ちゃんが否定しない……!?

 い、一体どういう心境の変化なんだろ。少し冗談っぽく言っただけなのにな。


「篠宮さんは何飲むか決めているの?」


「限定のフラペチーノだよ〜。そうこれ」


「ふぅん……ふたつあるのね」


「明霞ちゃんはこっちにしてみる?」


「そうするわ」


 久しぶりに来たコスバ。やっぱり休日だからかとても人が多い。


「いらっしゃいませ〜。店内でお召し上がりですか?」


「お願いします」


 明霞ちゃんがこちらをチラッと見た。どうやら私に任せるらしい。


「ご注文をお願いします」


「おさつキャラメルフラペチーノとスイートメープルパンプキンラテのアイスでトールお願いします」


「かしこまりました。お会計は以上でよろしいでしょうか?」


「はい、大丈夫です」


 スラスラと注文する私が予想外なんだろう。なんとなく隣からの雰囲気が分かるような気がする。


 私、明霞ちゃんから感心されてる〜! ちょっとは見直してくれたかな?


「お会計は?」


「あ、コスバカードで」


「かしこまりました。では、1270円になります」


「はーい」


 スマホケースに挟んでたコスバカードを出して、お会計を済ませる。


「こちらレシートです。隣の手渡しコーナーでお待ちください」


 店員さんに案内されてそっちに向かう。


「驚いたわ。まさかあんなにスラスラ言ってるなんて……」


「ふふーん。すごいでしょ」


 胸を張ってドヤると明霞ちゃんはクスクス笑って「そうね。さすがよ」と褒めてくれた。その言葉が嬉しくて私ははにかむ。


「お待たせしました〜。こちらおさつキャラメルフラペチーノとスイートメープルパンプキンラテのアイスです」


「あっ。ありがとうございます♪」


「ありがとうございます」


 その時に店員さんから渡されて、私たちはお礼を言ってちょうど空いた席に座る。


「んっ! これ美味し〜!」


「こっちはカボチャの味がまろやかでメープルの甘さとラテのほろ苦さが合ってて美味しいわね」


 チューっと吸うと、さつまいもの甘さとキャラメルの甘さがマッチしてて私好みの甘さだった。


「明霞ちゃんの方飲んでみてもいー?」


「えぇ、良いわよ。ほら」


「ありがとっ」


 ぱくっとストローを咥えて、スイートメープルパンプキンラテを口に流す。明霞ちゃんが言うような味が広がった。


「美味しいね〜」


「……そう」


 明霞ちゃんの顔が少し赤かった。どうしてだろう?


「顔赤いよ〜?」


「う、うっさい……」


 あんまり分からないけど照れたのは分かった。なんというか私にだけ見せてくれてるなってのが分かってとっても嬉しい。


「私のも飲んでみる?」


 視線がチラッと私の飲み物にというかストローを見てた。あ、もしかして。


「間接キス気になってた?」


「……!?」


 あ、猫みたいにびっくりしてる。かーわいいっ。


「な、なに笑ってるのよ」


「えー? かわいーなーいでっ! も、もー。スネ蹴らないでよ〜」


「あんたが悪いわよ」


 そんなジト目にならなくても良いのに〜。でもそんな顔も可愛い!


「…………はぁ。なんであたし」


「ほよ? 何か言った?」


「別に何もないわよ。ばかっ」


「理不尽だよぅ!?」


 またスネを蹴られた。かなり良いとこに入ってとっても痛い。でもこんなアグレッシブな明霞ちゃんも大好き!


「あ〜もう。そんな顔もむかつくわ」


「あっ、ちょっと待ってよ〜!」

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