8.コス準備!(1)

 放課後になって私は明霞めいかちゃんと一緒に買い物に来た。


「ちょっと……」


「およ?」


「別に抱きつく必要ないじゃない。あたし逃げるとかしないんだし」


「え〜、だめ〜?」


「…………はぁ」


 大きなため息吐かれた。ほんとに嫌だったかな……。私はしゅんとして離れようとした。


「分かったわ。あたしから離れるの許さないから」


「…………っ!?」


 ぱしっと私の手を取って、私に向かって目を細める顔を私は凝視する。そしてほっぺがかなり熱くなるのが分かった。


「は、ひゃぃ……」


 そう言うのが精一杯だった。


「ねぇ。あんた、寄せようとかは思わないの?」


「へっ? あ、あー……無理、かなぁ……? だってア○ナの胸ってとんでもないじゃん?」


「あー、そういえばそうね」


 私の胸は良くてそのゲームに出てくる○モリ程度。そしてア○ナはそれよりもかなり大きいから寄せようたってそんなの無理な大きさだ。それと髪色とその長さも。


 ア○ナは地面につくくらい髪が長くて、髪色はカフェモカ色で、私の髪色は明るめの茶髪。


「だから素直にシリコンバスト買おっかなーって。あっ。あとついでにウィッグも!」


 だから私はウィッグのコーナーを指差す。


「あんたの髪色ならエクステで……いえ、長さと色違うから無理ね」


「そーなんだよねー。あのゲームの子ってさ、えげつないくらい髪長くない?」


「あたしはやろうと思えばどんなキャラ出来るか聞いても良いかしら?」


「リ○だね」


「そ、即答ね」


 性格とスタイル、髪の長さ、顔の造形踏まえてリ○が似合うと思うなぁって思ってたからねと伝えると、右手人差し指で髪の毛をくるくるしながら「そう」と呟く明霞ちゃん。うそ、今ので照れる要素あった? え、かわいい。人前じゃなかったら私食いついてたよ? は、尊すぎなんだけど?


「んんっ! それよりもっ」


「あ、話題変えた」


「それは心の中で留めなさい」


「ありっ? 口に出てた?」


「それより話題変えさせても良いかしら?」


「どうぞどうぞ」


 明霞ちゃんは再度軽く咳払いした後に続けた。


「なんであんたもコスしようと思ったの?」


 真剣な目だった。私はその目を見つめたままなんでもないように言った。


「だって明霞ちゃんだけコスして私がしないのはふこうへーってやつだし。あと私もやってみたかったから」


 私は笑って左手をピースしながらチョキチョキと動かす。明霞ちゃんはそんな私の言動に驚いたようで数秒固まった。


「およ? 明霞ちゃーん?」


「……ハッ!? んんっ! な、なんでもないわ。けど、そう。あんたはしてみたいっていう行為に躊躇いが無いのね」


「んー……躊躇い無いというか、みんななら受け止めてくれそうだなって、かな」


「しん、じてる……?」


「うん。あっ! アレじゃない? シリコンバストって」


「えぇ、そうね」


 色々なサイズのシリコンバストが陳列されていて、私は無意識に「おぉ……」と声を洩らす。


「ア○ナのバストサイズならこれじゃないかしら」


「おぉ……改めて見るとでっかいねぇ」


「やっぱりシリコンなのもあって重みもあるわね」


「明霞ちゃんもこれくらいあるよね」


「セクハラかしら?」


「えぇ、ち、違うよぉ〜」


「ふふっ。冗談よ。でもそうね。重くて邪魔になること多いわね」


 ふむふむとシリコンバストと明霞ちゃんの胸を見比べる。そしてその視線に明霞ちゃんが気付いたようで、冷たい目を向けられた。


「見過ぎよ変態」


「えへへ。そ、それほどでも……」


「褒めてないわよ」


「ぁだっ」


 おでこを明霞ちゃんに手刀される。といっても小突く程度だから痛くないけど。


「それじゃああとはウィッグね」


「あ、ねぇ明霞ちゃんはどうするの? 地毛そのまま使う感じ?」


「そうね。色はスプレーでも使って染めるわ」


「えっ……染めちゃうの?」


「当たり前でしょう? ロ○ル○は真っ黒なのよ?」


 そういえばそうだった。○ベ○タは真っ黒の髪色なのに対して、明霞ちゃんの髪色は確かに黒なんだけど、少し鮮やかさのある黒……というより藍色かな?


「じゃあじゃあ終わったら戻してくれる?」


「えぇ、そのつもりよ。それに洗えば落ちるもの」


「やったー! 私、明霞ちゃんの髪色大好きなんだ〜」


「……あっそ」


 そっぽを向いた明霞ちゃんの耳はほのかに赤くなっていて可愛かった。

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