5.傷付けたかしらside.明霞
『私は明霞ちゃんのコスだから好きなんだもん』
あたしは人に対しての好きってなんだろうと思う。きっとこの子は作品が好きだからそれをあたしに投影してるだけ。そう思うけど……。
「……傷付けちゃったかしら」
撮ってもらった写真を保存したあと、
あたしがコスプレを始めたのは、ひとえに自分じゃないものになりたかったから。最初にやろうと決めたのは、中学3年の頃だった。
その頃から背の高かったあたしは一目置かれた。あたしは人と仲良く出来るほどコミュ力高いわけでもなかったし必然的にぼっちになった。学校でもひとりなあたしはCostterを見ていたら流れてきたコスプレに夢中になった。そしていつしか、
────あたしもコスプレしてみたい。
その時の衣装は今もクローゼットの中に眠ってる。
「たいして上手く出来なかったけど」
クローゼットの戸に手を当てながらその衣装に目を落とす。初めてやったコスはS○Oのユー○オ。彼の朗らかさ、優しさ、気高さに惹かれた。あたしもこんな人になりたい。そう思ってコスプレを始めた。
「あした……謝っておこうかしらね」
きっと悪いことをした。それなら謝ったほうがいい。コス衣装を見ながらあたしは頷いてクローゼットの戸を閉める。好きなキャラの彼に勇気をもらった気がした。
「おやすみなさい」
ベッドに横になり目を閉じる。その時浮かんだのは朗らかに笑う篠宮さんの姿だった。
翌朝、あたしは早々に支度を整えたあと登校する。教室に入って探してみるとすぐに見当たった。篠宮さんはとても明るい茶髪をボブカットにしてて毛先をふわりと外ハネしてるから。
「篠宮さん。少し、良いかしら」
「へっ? あ、う、うんっ! 大丈夫だよ」
篠宮さんを人目が少ない場所に連れていく。
「……えっとそれでなしたの?」
「昨日は……ごめんなさい。言い過ぎてしまったわ」
「あー……あれかぁ。全然気にしてないよ私」
「嘘よ。だって……とても怒ってる感じがしたもの」
「あはは、感受性高いんだねぇ明霞ちゃんって」
「そ、う……なのかしら。ごめんなさい。あたし、自分のことはよく分からないのよ。それにほら、あまり他人とも話したことがないでしょう?」
あたしは頭を下げたあと、篠宮さんを見て自虐的に笑う。
「私からすると明霞ちゃんって美人すぎて近寄りがた〜いって思うから仕方ないかも……?」
「そ、そう……。じゃあ、傷付いてはない、のよね……?」
「うん、ぜーんぜん。でも明霞ちゃんはちゃ〜んと自覚しなよ〜? 私は明霞ちゃんのコスが大・大・大…………っ好きなんだから! 明霞ちゃんのコスはとっても楽しいって感じるし、愛してるんだって思うもん」
顔の前に人差し指を向けられる。あたしはそれに驚きつつ頷く。
「わ、分かったわ。……こんなあたしにもファンはいるのね」
「こんなじゃないよ」
篠宮さんはあたしの手を両手で握った。そして俯き気味のあたしの目をじっと見つめてきた。
「明霞ちゃんはとってもかっこよくて可愛くて美しくて私の大好きな大好きなレイヤーさんで大切で大事なお友達だもん。だからもう『こんな』なんて言わないで」
今まで見たことがなかった。篠宮さんがこんなにも真剣な顔で話してきたのを。
「……分かったわ。気を付ける」
「今度言ったらパフェ奢ってね☆」
「え、えぇ。そうね分かったわ」
キンコーンとチャイムが鳴った。
「おっともうそろHRだね。戻ろ、明霞ちゃんっ」
「えぇ」
不思議な人だと思う。篠宮さんは。まるで向日葵のような感じ。篠宮さんといると心が温かくなる。じんわりと広がる感覚にあたしは胸元に手を当てながら篠宮さんに手を引かれて教室に戻る。
あたしはこの子を、篠宮さんを大切にしたい。
そう強く思いながら。でもそんなこと彼女には言わないけれど。
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