マイ・フェアリ・ドラゴン ~辺境の田舎娘ですが、世界で一番小さな竜騎士になってしまいました~

クキナ

第1話 私の小さなドラゴン(1)

とても小さなドラゴンがいた。


手のひらよりも小さなドラゴンが薄い卵から目覚め、伸びをする瞬間。

うっすらと浮かび上がった瞳と出会った。

緑に満ちた瞳と対面して感じた感情は、まさに—

喜びだった。


◇◆◇


「うっ!」


冷や汗をかきながらベッドから飛び起きた。


「なんだろう……変な夢を見たみたい」


眠りから覚めたばかりの少女は、ふわふわとした髪を抱えながら気を取り直した。


(ハァム、でも嫌な夢じゃなかったよ)


なんだかすっきりしない眠りをしたような気がした。

その時、ドアを叩く音が聞こえてきた。


「メリー! 早く起きなさい。このままでは電車に乗り遅れるぞ」


-どんどん


ドアを叩く母親の声に、私はすぐに席を立った。


「今起きたわよ!」


答えは大声で、しかし行動は一歩遅れて、そそくさと出かける準備を始めた。

クローゼットの中から取り出すのは、初めて着る、かなり清楚な感じの地味な緑色のドレス。

そうだ。

今日はまさにビビアンと一緒に初めて首都に行く日だった。

取り出したばかりの地味なドレスを着て、鏡の前に立った。


「髪が乱れてるわね」


部屋に掛けられた小さな鏡を見ながら、あちこちを見渡し、ごちゃごちゃと散らばった麦わらのような束を整頓し始めた。


「よし!」


櫛は一束の髪を左右に分けて整然と編みこんだ後、カバンを持って階段を下りた。


-ギィィィ


時の流れに満ちた木製の階段が異様に大きな音を立てた。

階段を下りると、家族が朝食を食べていた。

大きな音を立てて降りてきたせいか、家族は降りてきたメリーをじっと見つめていた。


「おはようございます」


真っ先に新聞を見ながら食事中のお父さんがメリーに朝の挨拶をした。


「おはようございます、お父さん」


挨拶と一緒に双子の間に座った。

しかし、いつもと違って定位置の席が空いていた。


「お母さんは?」


出来立ての目玉焼きとベーコン2枚をフォークでつまみながら尋ねた。


「翻訳の締め切りが近いから、部屋で食べているんだって」


メリーの母、エリオットは帝国古語を専攻し、現在翻訳者として働いている最中だった。


「あはは、今回の作品は恐らくドラゴンにまつわる伝説だったのでしょうか」

「そうそう、数年前に北部スターク侯爵領の学者が発見した古書を東方語に翻訳するらしいわ」


大陸に国はただ一つ。

それが帝国だった。

帝国はその広大な領土ほど、帝国内でも地域によって言語が異なっていた。

そして私が住んでいるのは、まさに首都近郊の東部。


アリスタ伯爵領だった。

首都に近い領地であり、東部の物流の中心地として機能している領地だった。

首都を思い浮かべると、自然と聞いた噂が思い出された。


「そういえば聞きましたか? 首都では、猫くらいの小さなドラゴンをペットとして飼っているんですよ!」


メリーの問いに答えたのは、奇しくも双子だった。


「パット、お姉ちゃんは本当にその話を信じるの?」

「そうそう、ドラゴンは家財道具くらいしかないわよ?」


お互いに殺気立った双子の弟たちが、メリーを嘲笑うように薬を上げた。


「ウーシー! ビビアンが言ったんだよ!」


近所に住むビビアンは、親戚が首都で綿織物を扱う商いを営んでいた。

メリーはビビアンから聞いた通り、手のひらで大きさを測ってみた。


「でも、魔力も少ないし、とても弱いって言ってたわよ」


ドラゴン。

帝国を守る剣であり盾。

人間と違い、龍は膨大な魔力とマナ親和性を持っていた。

そして、龍と契約して龍言魔法を使う者を竜騎士-ドラゴン・ナイト-と呼んだ。

しかし、竜騎士は誰でもなれるわけではなかった。あくまで「貴族」でなければならなかった。

さらに、ドラゴンを飼うという行為も貴族の専売特許。つまり、平民はドラゴンを飼うことなど夢にも思わなかった。

もちろん、たまにドラゴンを見かけることはあったが。


「え、そんな弱いドラゴンがどこにいるんだ?」

「そうだね、ドラゴンはブレスも吐き出すんだろ?」


双子の質問はもっともだった。


「うん、私が知っているドラゴンのイメージも、強力なブレスを吐き出し、地面もひっくり返すような存在なのにね」


双子とメリーが言う基準は、まさに領地の竜騎士、ハーマン卿を意味していた。

歩竜騎士-歩竜は歩く竜で、翼のない竜を意味する-で、たまに村をパトロールしたり、農作業を手伝うときに近くで見る機会が何度かあった。

彼はこの地域の担当竜騎士として、行政業務を総括する領主代理でもあった。


「騎士のドラゴンは大きいじゃないですか」

「ドラゴンが小さいわけないだろ?」


野生のドラゴンの種類もあるため、普段からドラゴンに接する機会は少なくないが、とても小さなドラゴンとは想像しにくかった。

ドラゴンは大体人が乗れる大きさだとばかり思っていたからだ。


そうしてしばらく龍の話をするのも束の間。

長女と二人の双子の弟たちのおしゃべりを楽しそうに見ていたお父さんが、メリーに問いかけました。


「メリー、電車の時間にまだ間に合うか?」


すると同時に、メリーの顔が真っ青になった。


「はっ、そうだ!」


首都に行かなければならない大事な日であることを忘れていたのだ。

席を急いで立ち上がったメリーは、あらかじめ脇に置いておいたカバンを持って玄関を出た。


「行ってきます!」


その後ろから家族からの温かい挨拶が聞こえてきた。


「行ってらっしゃいませ〜」

「首都でお土産買ってきてね、お姉ちゃん!」

「気をつけて帰ってきてね」


家族に見送られながら、メリーは駅に向かって全速力で走り出した。


◇◆◇


「はっ……はっ…はっ、間に合った」


電車が出発するちょうど10分前に到着した。

電車が少し遅れたようで5分ほど遅れるというので、実質的には出発の15分前だった。


ビビアンと会う約束の場所はどこだろう。

駅のホームをうろうろしながら場所を探していると、駅の一角にある行商人の姿が見えた。

その行商人が置いているものは一様に丸い形をしていて、まるで卵を置いているように見えた。


「……卵屋さんかな?」


駅では食べ物も売っているとのことで、不思議でした。

実は駅は家からそれほど遠くはありませんでした。

ただ、今日初めて駅に来たので、不思議で仕方なかったのです。

とにかく好奇心旺盛な私は、たまご商人のいるところへ向かった。


「えっ……?ドラゴンの卵...?」


商人に近づくと、その時ちょうど隠れていたパネルが見えました。


『ドラゴンの卵5クーパー!』と書かれていました。


卵ではなく、本当にドラゴンの卵と書かれていた。

本物かどうかはわかりませんが。


「ところで、もともとこんなに小さいのか?」


ドラゴンの卵と書いてあるものの、目の前にある卵は、ほとんどが卵の大きさほどのとても小さなサイズの卵だった。

小さくささやいたメリーの言葉を聞いたのか、顔を隠して顔を出さない商人が口を開いた。


「フェアリー・ドラゴンの卵だそうだな」

「…………フェアリー・ドラゴン?」


フェアリーといえば、あの森を飛び回るというおとぎ話に出てくる妖精ではないか。


「とても小さなドラゴンだよ」


その言葉を最後に、商人がこれ以上説明することはなかった。

ただ黙って座っているだけ。


(うーん、お土産兼模造品だろう)


そもそも、駅のホームに本物のドラゴンの卵があるというのは意味がない。

噂によると、ドラゴンの卵は貴族の家で厳重に品種管理されていると聞いていたからだ。

事実上、偽物の可能性が濃厚だった。

それでも。

少女の好奇心はどんどん卵を買う方に傾いていった。

おやつを3回我慢すればいいくらいの値段だったからだ。


「うーん……どの卵がいいかなー」


半ひざまずきながら座り、屋台の上を見渡した。どれもこれも形がバラバラだった。

なめらかな卵もあれば、水色を帯びた卵もありました。まさに野生の卵を見るような感覚だ。


その中でもひときわ目立たない卵があった。

一番隅っこに置かれている卵で、表面はゴツゴツとした苔で覆われていました。

一番地味に見える卵になぜか目が行ってしまうのはなぜだろう。

よく言われる醜い野菜のように見えた。


(そう、あの卵だ!)


ポケットから小銭入れを取り出し、5クーパーを取り出した。


「あの……あそこにある卵でお願いできますか?」


商人が顔を上げ、メリーが指差した方向を見た。

すると、メリーはうなずきながら、隅にあった小さな卵を慎重に持ち上げた。

商人が卵を渡すと同時に、メリーもすでに取り出した5クーパーを商人に渡した。


「ありがとうございます」


挨拶を済ませると、商人の祝福の挨拶が聞こえてきた。


「……龍神のご加護がありますように」


-ドド!


その瞬間、列車がもうすぐ出発することを告げる鐘が鳴り響いた。


「あっ、遅れそうだ!さようなら!」


商人に何のことか尋ねる間もなく、私は急いで電車に向かって全速力で走り出した。

小さな卵を大事に抱きしめながらー。

そんなメリーの後ろ姿をじっと見つめる商人の曲がった背筋がピンと伸びた。

そして最後に発した言葉は、もはや年配の商人ではなく、とても滑らかな若い男性の声で聞こえた。


これは本当に「本物」を選ぶとは、 いつかまた見よう。

言い終わると同時に、遠くで駅員と思われる者たちが商人に向かって駆け寄ってきた。


-ピーピー!


「無許可の露店は違法です!」


違法な露店を取り締まるためだった。

しかし。


「うーん、ここじゃなかったっけ?」

「そりゃそうだな、勘違いだったのか?」


すでに商人は姿を消していた。

数多くのドラゴンの卵とともに。


◇◆◇


「あーあ、ギリギリ乗った」


本当にギリギリのタイミングだった。


「とりあえず卵はカバンの中に入れておいたし、あとは席を探すだけだ……」


手にぎゅっと握りしめていた電車の切符を見ました。

よく見ると、C列12番目に記載されていました。


「どれどれ、ここがA列2番目だから……もっと後ろに行けばいいんだろうか?」


すでに列車が出発したためか、列車内の廊下はかなり閑散としていました。

ドアの上に付いている座席を一つ一つ数えて歩いていると、突然横からドアが開いた。


-ドカン!


「あっ!」


開いたドアに額を軽くぶつけてしまった。


「うーん……?」


ドアの中から出てきた人も、ぶつかった音が聞こえた方に顔を向けた。

お互いの視線が交錯した。


「失礼、頭をぶつけちゃったのか?」


礼儀正しく見えるが、一見傲慢な口調。


「あ、はい……前を見落としてたんですね」


慎重に一歩か二歩退いた。

一目見ただけで「貴族」だった。もちろん言葉遣いだけでは貴族とは思えないが。態度や姿勢はもちろん、その目つきも無視できない。


それにあの真っ赤な髪と金色の瞳まで。

よく見ると、まだ若々しく見える部分が残っている、とても若い男だった。外見からして、「俺貴族なんだよー」って感じだった。


(でも、なぜ貴族が平民席に……?)


列車は基本的に平民と貴族の乗降口が分かれていました。

その時、貴族らしき男性がポケットから何かを取り出した。

一瞬怯えて身構えたが、男が取り出したものに安心し、緊張を解いた。


(……あれは?)


男が取り出したのは、紫色の液体が入ったガラス瓶だった。


「このポーションを使うように、腫れを治してくれるよ。じゃあな」


そう言って男はメリーの手に軟膏を渡し、通り過ぎた。


-ぐだぐだ


緊張がほぐれたのか、彼女はぐずぐずと腰を下ろした。


「うわ……助かった」


バタバタする足を抱え、再びカーンに向かった。

それを見守る視線があったという事実を背負ったまま。

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