3話 『落とし前』
「え、と……」
「とっとと立てよ。いつまで薄汚ぇ地面に這いつくばってやがる」
「口悪いなあんた!」
「お兄ちゃん、大丈夫?立てる?」
「え……!ヤダこの子めっちゃいい子……。天使?」
「何俺の妹舐め回すように見てんだテメェ。ぶっ殺すぞ」
「あんたマジでなんなの!?」
ようやっと這いつくばった体勢から片膝を立てる程度には腰の耐久が復活した俺は赤髪の美丈夫に見下しながら罵倒されてるという誰得展開を半強制的に受けさせられていた
一方黒髪の美幼女が心配そうにこちらを眺めていて手を差し伸べてくれる
片方のイケメンからは罵倒され、片方の美幼女からよしよしされる俺の情緒はめちゃくちゃだ
それ以前にただでさえ今混乱してるのに更に情報量を多くしてくるのは本気で勘弁して欲しい……
「う、ん……?」
「!起きたか」
「おきたー!」
「?」
俺が帰りたいと思った時、赤髪のイケメンの後ろからモゾモゾと何かが動く気配がする
細かい瓦礫を振り払うように狐のような宝石獣は体を揺らす
そして獣の姿から段々と人の姿へ変化した
薄い緑の長い髪を風に靡かせ、まるで吸い込まそうなほどの綺麗な琥珀色の瞳
まるで天界から降りてきたのではないかと思うほどの超絶美人がそこにいた
「あれ、わたしは……何を?」
「……覚えてねぇのか。お前、名前言えるか?」
「私の名前……?私の名前は翠玉 緑-すいぎょく みどり-です……」
「翠玉か。お前今まで何してたか本当に覚えてないのか?」
「ええ……。どこか暗くて寂しい、寒いところにいたことは覚えてるんですが、それ以外は何も……」
「お姉ちゃん。もう寒くない?」
「……ええ、ありがとう。あなたが手を握ってくれたおかげで寒くないわ。ありがとう」
「えへへ!」
「それと後ろのあなた。多分あなたにもご迷惑をお掛けしてしまったようですね……。謝って済む話ではないと思いますが、謝らせてください。すみませんでした」
「え!?あ、いえ!!!俺は気にしてないので大丈夫ですよ!それより頭をあげてください!」
翠玉さんは何も覚えていないようで、けれど周りの状況を見てどうやら自分が暴れてたことは分かったようだった
埃まみれの俺を見て翠玉さんは本当に申し訳なさそうに頭を下げてくる
超絶美人さんに頭を下げられるとか男として居た堪れないため頭を上げてもらう
「あなた達2人は私と同じ宝石獣なのね?」
「ああ。俺と妹はそうだ。この汚ぇ野郎は違うがな」
「お前一々悪態つかないと死ぬ病にでもかかってるの!?」
「そうなのね。兄弟でも必ず同じ宝石獣になるとは限らないから、あなたたちはすごく珍しいわね。私にも弟がいるんだけど、あの子は普通の人間だから……」
「それに、その子力が"普通"よりも強い」
「……まぁな」
「え?それって……」
翠玉さんはそう言って少し悲しそうに微笑んだ
俺は宝石獣はてっきり血筋によって産まれるものとばかり思っていたため、衝撃の真実に目を見開く
宝石獣に関する情報は俺たち一般人には必要最低限のことしか知らされていないのだと、この時の俺はようやく理解した
だが俺が何か言う前にサイレンの音が聞こえてきて強制的に会話が切られる
「……!この音!」
「ちっ、来やがったか。捕まると面倒なことになるな……」
「3人とも、ここは私に任せて行ってください」
「でもそうしたらお姉ちゃんが……」
「心配してくれるのね……とても優しい子。でも大丈夫よ。警察も私が操られていたと知ったら酷いことはしないと思うわ。それに……」
「操られてたと言ってもこの惨状は私がやったものよ。自分がしでかした落とし前はきっちりつけなきゃ」
そう言って真っ直ぐこちらを見つめてくる翠玉さんの瞳は、覚悟が決まっている人のそれだった
「……。早まるんじゃねぇよ。行くぞ、翡翠、ボロ雑巾」
「はーい」
「もしかして俺今ボロ雑巾って呼ばれました!?」
───────────
「あの〜……行くって言っても何処に行くんですか……?」
どんどん前に進んでいくイケメンと美幼女のコンビに拒否権もなく連れ出された俺はひたすらにこの2人の後ろについて行くしかない
美幼女はともかくイケメンは口が悪くて正直苦手だ
この俺はボロ雑巾って言いやがって……!
……って言っても俺今ボロボロだし埃まみれだから一概にも違うとは言いきれねぇじゃねぇか……!
まるで顔がしわくちゃになったどこぞの電気ネズミみたいになる
そんな俺を首だけ振り向き呆れたようにイケメンはこう言った
「あ?何言ってんだテメェの家に決まってんだろ」
「……はぁ!?」
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