第8話
「学院にいくまではこの地のために時間を使うと決めたし…何をしようかな」
「あら、キャロル。何だか暇そうじゃないかしら?」
領主館のリビングでくつろいでいるとシンディが部屋へ入ってきた。
「シンディ、そんなことはないというか、あるというか…」
「嘘が下手ね。ハロルド様にも時間ができるといいのだけど…」
領主館に一緒に過ごしていて思ったのだが、やっぱりシンディは。
「ねぇ、シンディってハロルド兄様のことが好きなの?」
「えっ、えっ。そうね…って違うわ、兄様としてというか、家族としてね?」
そんなに顔を赤くしたらバレバレだ。というかそれ以前に、ハロルド兄様と話している時のシンディの顔は、完全に目がハートになり恋する乙女といった感じなのだ。
「私に隠し事をするの?シンディ」
「……うぅ。そうね。キャロルに隠し事はなしね」
「シンディはすごいね。もちろん家族だからっていうのはあるだろうけど、ハロルド兄様のために魔法を勉強して、ここまで来てくれたんでしょ?危険かもしれないのにさ。それで本当にみんなの役に立ってる」
「えっ!本当?ハロルド様のお役に立ててるかしら」
「そんなの聞かなくたって分かるじゃない。こないだの砦のことだって、兄様ひとりだったら万が一があったかもしれないし。シンディがいてくれたから、私が他のことができるでしょ?何よりさ、シンディがここにいてくれることが私は嬉しい。きっとハロルド兄様も同じ気持ちだと思うよ」
「キャロル…ありがとう」
「さて、だから私はわたしに出来ることをしなくちゃね。砦の先にあった森にちょっと行ってくる!」
私は領主館をでて、馬に乗り南砦の方角へ向かう。
(「どこ行くんだよ?」)
(「うーんとね、ほらこないだ行った砦の向こうに森があったでしょう?実践経験も積めるし、何か作物があれば持ち帰ろうと思って」)
エイミーに剣の指導を受けて、兵の訓練にもたまに参加させてもらっているが、やはり私は魔法で戦いが向いている。先日の砦でのこともある。いざという時のために実践経験を積んでおきたい。
(「作物なんかとってどうすんだ?」)
(「ん?ハロルド兄様が前に、何か特産品になるものを育てて…って言ってたことがあるんだ。それを探しに行く」)
「エイミー、南砦の向こうの森に行ってみようと思うの」
承知しました。と相変わらず冷たい返事が返ってくる。エイミーはいつまで監視を続けなければならないのだろうか。ちょっとかわいそうになってきた。
「エイミーはいつまで私の監視をしなきゃいけないの?」
「それはお答えできません」
「逃げるとかじゃなくてさ、エイミーはこの仕事つまらないでしょう?他の人に変わってもらうとかできないのかなって」
「ご心配なく」
「そう?ならいいけど。森について知ってることがあれば教えて。どんな魔物がいるとか」
「そうですね、小さめの魔物だと
「毒だったら神聖魔法でどうにかなりそうですが、注意して進んだ方がよさそうですね」
馬を走らせ森へ向かう。途中にある村で1泊し、日の出と共にまた馬を走らせ森に着く。
「ここに馬をおいて行きましょう」
森の入り口に馬をつなぎ、
「霧が出てきましたね」
入り口からだいぶ奥へ入ってきたのだが、魔物の反応が感じられない。
(「コウルス、この森なんか変じゃない?」)
(「この霧のせいだ。普通の霧じゃねぇ」)
(「普通の霧じゃない?」)
一度立ち止まり、
「もしかして、これって魔法?」
霧の一粒一粒から魔力を感じる。魔法で作られた霧なのかもしれない。だとすれば少し危ないかもしれない。
「一度帰ります…エイミー?」
エイミーの姿がない。
(「どうしようコウルス。一度森を出るべきだよね?」)
(「そうだな」)
念の為、コウルスに取り憑いてもらい、来た道を戻る。
(「霧が濃くなってくね」)
(「森から出さねぇってか」)
(「そんなあ。エイミーは大丈夫かな?」)
コウルスがいるおかげで私はパニックにならずにいられているが、エイミーは1人だ。
(「あの女は大丈夫だろ。それに案外、アイツが仕組んだかもしれねぇぞ」)
(「うーん、どうだろう。私が森に行こうと言ったわけだし」)
実はエイミーには気をつけるようにとローレン様から言われている。詳しいことは教えてもらえなかったが、貴族に良い印象をもっていないそうだ。
それからどれだけ歩いただろう。霧が濃すぎて時間の経過が分からないが、おそらく数時間は経っていると思う。
「もうやめた!」
歩いても歩いても出れないのであれば、動かないほうがいい。無駄に体力を消耗するだけだ。
(「だな」)
「
とりあえず待機小屋をつくり、落ち着いて考えることにする。
「さてどうしようかな」
(「もっと広範囲に
コウルスから提案される。たしかに今ここでなら安心して魔法に集中することが出来るし、良いアイディアだ。
(「そうだね、ありかも」)
もっと広範囲に探って、この霧の原因を探した方が早いかもしれない。迷っているのは絶対にこの霧のせいなのだし。
「よし!じゃあさっそく、
早速、
(「ん?あっちだ。魔力が濃い方向を探ってみろ」)
(「うん」)
コウルスのアドバイス通り、霧の魔力が濃い方向を探っていく。
(「道になってる?」)
出口…ではないだろうな。
(「誘ってるってか」)
(「どうしようか?」)
(「行くしかねぇだろうな」)
ま、そうなるよね。
(「よし、行ってみよう」)
焦りもあるが、この魔法の霧の正体も正直気になる。惑わす効果もあるようだが、一体どんな魔法陣を組んでいるんだろう。
さっそく霧の道を進んでいく。相変わらず周りは何も見えないが、この霧の道は一本道なので迷うことはなさそうだ。幸い、魔物の気配もない。
(「あっ、もうすぐ行き止まりだ」)
「何だろうあれ…」
慎重に歩みを進めながら、ようやく道の終わりたどり着く。そこには、球体状の霧が渦巻いているのが見えた。
(「なんで
(「道に迷ったのと同じじゃねぇのか?よく分からねぇが、隠蔽する魔法でもかかってんだろ」)
(「隠蔽の魔法か…魔法陣は周りに見当たらないし、あの中に隠されてるのかな?」)
(「どうだろな。とりあえずもっと近づいてみたらどうだ」)
近づくのは危険な気がするが、今できるのはそれくらいかと納得する。
球体状の霧に近づき観察する。
「これってまさかっ!!!うわ……すごいや」
(「あ?魔法陣になってんのか」)
そう、霧の粒で魔法陣が球体状に描かれているのだ。いろんな方向から観察するも、ぐるぐると渦を巻いているせいで文字が読めない。
(「これを壊せば霧が消えるんじゃねぇの?」)
(「えっ!そんなのもったいなくて出来ないよ。持ち帰れないかな」)
(「は?何言ってんだ?それじゃこっから出れねぇじゃねぇか」)
(「それはそうなんだけど…じゃあもう少しだけ観察してもいいかな」)
この魔法陣の文字を解明するまでは、消すなんてこと私には出来ない。
(「は、勝手にしろ。オレ様は脱けるからな」)
コウルスが私の身体から出て行く。それから私は球体を見つめつづけ、魔法陣の解読に夢中になったのであった。
「何だって!!!!キャロルが南の森に!!?」
ハロルドは立ち上がり大きな声を出す。
「え…?あのハロルド様…」
ハロルドのあまりの驚きようにシンシアは動揺する。
「すまない。驚かせてしまった。キャロルは砦の先の森に行くと確かに言ったのですね」
椅子に座りなおしたハロルドはもう一度シンシアに確認をする。
「え…ええ。何か問題があるのですね?」
「シンディも知らないのなら、キャロルが知らなくてもおかしくないか。しかしだとすれば、知らないで行ってしまったということ…」
ハロルドは考え込んでいる様子だ。
「あの…ハロルド様。キャロルは何か危ないところへ?南の森はそんなに危険なのですか?」
「ええ、砦のさらに南にある森。あの森は、
「そんな……ですがキャロルならきっと大丈夫ですよね?」
「霧に飲まれる前に引き返していれば大丈夫だろうが。ただ森のことを知らなかったとなると、危ないかも知れないな」
「なんてこと…」
シンシアが両手で顔を覆う。
「キャロルは、今朝出発したのですね?」
「ええ、朝食を終え私がリビングへ行くとキャロルがおりましたので」
「だったら今から馬を走らせれば間に合うかもしれない。それに、エイミーはさすがに森のことを知っているはずだ。霧が出れば引き返すはず」
すでに日は落ちている。距離的に砦の森に行くつもりならどこかで1泊してから森に入るはずだ。
「とりあえず、今から砦にいってきます。シンディはローレン様にこのことを伝えてください」
「はい…承知しました」
ハロルドは馬を走らせ日が昇りきった頃にようやく砦に着く。すぐに門番をしている兵士に聞く。
「キャロライン・スミスは来ましたか?」
「これは領主様!キャロライン様ですか?私はお見かけしておりませんが」
「そうか、防壁を守る兵に森に入る者を見たものがいるかすぐに確認してくれ。馬に乗った2人組の女性だ」
ハロルドはすぐに森に探しに行きたかったが、まずはキャロルが森に入ったのかを確認することにした。
入り口程度なら霧に飲まれることはまずない。兵も浅いところまでは巡回をしているし、住民が森へ採集に出掛けることもある。
「ハロルド様!」
オーガストの息子のバーナードだ。ハロルドが砦の長として任命をした。
「突然すまない。キャロルが森へ入ってしまったようなんだ」
「森へですか?何か採集したいものでも?」
「おそらく霧のことを知らないで、ただ探索するつもりで入った」
「えっ!霧のことを知らない?それは、霧に飲まれることを知らないということですか!?」
ハロルドはキャロラインがこれまでレスター領にいたこと、そして魔法以外のことは興味がないことを説明する。
「ただ侍女のエイミーは知っているはずだから、深入りはしないと思う。でも正直分からない」
ハロルドもエイミーのことを危惧していた。先日の砦の一件も、オーガストは「後先考えずに開発を進めている無能な領主」と聞いていたそうだ。情報の出所を調査したが、結局わからなかった。
「失礼します!騎乗した2人の女性の目撃情報ですが、明朝に森に入ったのを見た者がおりました」
バーナードとハロルドが待機する部屋へ兵が報告に来る。
「やはりか…」
「引き続きその2人について情報があれば報告するように」
バーナードが兵に告げると、兵は下がった。
「すまない…手間をかける」
「ハロルド様、キャロライン様ならたとえ霧に飲まれていたとしても大丈夫ですよ。ここの砦を一瞬で作り替えるほどの力を持っているのですから」
オーガストが捕らえられてから、ここの砦の防御面も見直され、キャロラインが砦と防壁の強化を行っていた。多少の魔法や物理攻撃ではびくともしない、鉄壁の防壁に作り替えたのだ。
「俺もそう願っているよ」
しかし、正午を回ろうかという頃、エイミーが1人砦に戻ってきた。
「キャロラインお嬢様は霧に飲まれました」
エイミーがハロルドに報告する。
「状況を説明しろ」
ハロルドは睨むようにエイミーを見ている。
「はい、森に入り探索をしていると急に私とお嬢様を遮るように目の前に霧が立ちこめました。おそらく普段でしたら、住民も立ち入るくらいの浅い場所です。すぐにお嬢様に声をかけましたが、姿は霧で既に見えず返答もありませんでした。しばらく辺りを探しましたが、見つからなかった為、引き返してまいりました」
「キャロラインが霧のことを知らないと知っていて行かせたのか」
声色からもハロルドが怒っていることが分かる。
「私の役目は監視です。彼女が行くと言えばついていくまで」
「何だとっ!!!!」
ハロルドが立ち上がり今にもエイミーに殴りかかりそうだ。
「えっ?監視?どういうことですか?」
事情を知らないバーナードが戸惑うようにハロルドとエイミーを交互に見る。
「このエイミーは諮問官だ。キャロラインの魔法開発を監視する任を受けている」
「えっ!?諮問官!?」
「くそっ!!!!!!」
ハロルドが机を殴る。拳は震え、怒りを抑え込むように歯を食いしばっている。
「あの、ハロルド様。キャロライン様ならきっと大丈夫ですよ。ここで待ちましょう」
バーナードが必死にハロルドを落ち着かせる。
「…ああ、すまない。そうさせてもらうよ」
ハロルドは頭をかかえ崩れ落ちるように椅子に座り直した。そんなことも知らず、魔法少女は霧の球体を嬉々として眺めているのであった。
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