第7話 ただの幼馴染!?

「どうだったかな?」


 俺は映画を観た後、ファーストフード店に雪歩と一緒に入った。休日に雪歩と2人で映画館にファーストフードなんて、なんかデートをしているみたいじゃないか。俺は内心ドキドキしていた。雪歩はどうして俺と一緒に行こうとしたのだろう。普通の同級生ならば、デートだと思うだろう。


「面白かったよ」


 ただ、俺と雪歩はただの幼馴染だ。勘違いなど起こるはずもない。狭間の代わりだと考えれば納得がいく。


「なあ、俺を揶揄うのは楽しいかもしれないけど、なぜそれだけで俺なんだ?」


「だって、颯太はわたしのパパのこともよく知ってるでしょ」


 確かに俺は雪歩の家庭のことはよく知っている。それは俺が幼馴染だからだ。物心ついた時から、俺の隣には雪歩がいた。そして、俺をいつも揶揄っていた。小学校に入学するまで、雪歩は俺より年上だと思っていたくらいだ。


「まあ、そうだが……」


 だが、俺が近くにいるからゆえに、俺に気を遣って雪歩に近づく男子はどんどんと減っていった。確かに俺を差し置いて告白する奴はいたが、今のところ全て断られているらしい。


「でもさ、雪歩は俺と一緒にいて楽しいのか?」


 平日、部活が終わった後、一緒に帰るのと、休みの日に一緒にモールに行くのとは全く違う。


「うん、楽しいよ」


 雪歩はそう言って明るく笑った。もちろん俺を揶揄って楽しいと言う意味だが、それでも少しドキッとしてしまう。


「でもよ、その……こんなところ他の男子たちに見られたら、困るだろ」


「そうかな!? いつも一緒に帰ってるじゃない?」


「いつもじゃないぞ、偶然同じ時間に終わった時だろ」


「そうかな。ま、どっちでもいいけどね」


 こんな状況が続くと普通は勘違いしてしまうぞ。雪歩は狭間が好きだ。何度も親しげに話していたのを見たことがあるし、スマホの写真リストに狭間の写真があったことも知っている。


「どっちでもいいわけないだろ!」


 これは、あんまりだ。蛇の生殺しだよ。どうして、雪歩は狭間を誘うのではなく、俺を誘ったのだろう。


「ね、そっちのジュース飲んでいい?」


「えっ!?」


「カフェオレってどんな味するのかなって……」


「そういや、お前あまりコーヒー関係飲まないよな」


「うん、でもカフェオレなら飲める気がする」


 そう言って俺が飲んでいたカフェオレを少し飲んだ。ちょっと待て、それって間接キス……。


「コーヒーは無理だけど、これなら甘くておいしいね」


 どうして雪歩はこんなことできるんだ。


「飲まないの!?」


「だってさ……、それって……」


「間接キス……になるから?」


「えっ!?」


 俺は雪歩の顔を見てちょっとびっくりする。少し顔を赤らめた雪歩の顔がすぐ近くにあった。


「か、揶揄うなよ」


「わたしは、颯太となら間接キスなんて気にしないけど……」


「えっ!?」


 どう言うつもりなんだ。俺が幼馴染だから雪歩は間接キスなんて気にしないのだろうか。それとも俺が慌てるのを見て楽しんでるのだろうか。


「飲まないの?」


「いっ、いや……」


「わたしの飲んでもいいよ」


 俺の心臓の鼓動が大きくなり、これ以上近づいたら雪歩に聞かれそうだ。


「ば、馬鹿言うなよ」


 俺はそう言いながら雪歩の飲んだカフェオレを飲んだ。


「間接キス……だね」


「また、揶揄うのか」


「だって反応楽しいんだもん」


 俺は狭間に雪歩の本心を伝えようと思った。流石にこんなことをずっと続けていくことはできない。


「なあ、お前……狭間のこと……」


「どうしたの?」


「いや、なんでもない」


 俺は雪歩の本心が知りたかったが、それを聞いてどうなると言うのだ。


「ねえ、映画。どのシーンが良かった?」


「そうだな。ハッピーエンドで終わったことかな」


「だよね。結局、元鞘だったけども、奪われなくて良かった、と思ったよ」


「冬月は、幼馴染とイケメンのライバル彼氏とどっちが良かった」


 なんかこの構図どったかで見たような気がする。


「うーん、そうだなあ」


「そうだな、ってなんだよ、それ」


「颯太はどっちが好きだと思う?」


 幼馴染との純粋な恋愛を育んできた関係だ。その波風を立てたのがイケメンのライバルの登場だ。きっと、このライバルが登場しなければ、幼馴染との関係は変わらなかっただろう。


「うーん、冬月は純愛が好きだろ」


「そうだね。よく分かってるじゃない」


「じゃあ、幼馴染かな」


「そうだねえ、やはり重みが違うもんね」


「颯太はどっちが好き?」


「へっ!?」


 幼馴染とイケメン彼氏か。俺は男だから、どうしても男子の視点で見てしまうが、やはり幼馴染の方に軍配が上がると思う。


「幼馴染……かな」


「まあ、この映画、フェアじゃないもんね」


「そう?」


「だって、イケメン彼氏が軽薄だからね」


 確かに物語上、最初から幼馴染の描き方の方が事細かく、感情移入しやすく作られている。


「確かにそうだね」


「現実ならどっちに軍配上がるのかね」


「現実!?」


「ふふふ、なんでもない」


「なんだよ、それ」


 現実とは何を言っているのだろうか。俺はあの幼馴染のようにイケメンでもない。まあ、雪歩が俺を揶揄ってるのは間違いない。


「揶揄うなよ」


「ふふふ、バレたか」


「何年の付き合いだと思ってるんだよ」


 俺はその日、雪歩の家まで送って帰宅した。雪歩の両親から食事に誘われたが、このままズルズルと中途半端な関係でいいわけがない。雪歩が好きなのは狭間だ。それは間違いないことなのだ。

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