第24話

 修也達はモニターに表示された結果を唖然として見つめていた。

 このジャンケンもいつもと同じ結果だろうと慢心していた。

 だから、脳が今の状況を理解するのに時間がかかってしまった。

 咄嗟に腰を上げた生徒や開いた口が閉じない生徒。

 中にはこの現実をまだ受け入れられない生徒もいる。

 そんな中、ラズが問うような視線を修也に向けた。

 

「ねぇ、これってもしかして……」


 控え室のモニターには、青服クラスの勝利、と間違いなく表示されていた。

 修也の目にもしっかりとそう映っている。

 ただ、修也は思いのほか落ち着いている様子だ。


「どうだろうな。ただ、向こうの運が良かっただけの可能性もあるが」


 果たして、これは相手クラスによる仕業なのだろうか。

 それとも修也の言うように、ただ運が良かっただけなのか。

 少なくとも、それらを決定づける確証は修也にもなかった。


「一応聞くが、ちゃんと投票したんだよな? 」  


「も、もちろんだよ!! もしかして疑ってるの!? 私そんな事絶対しない!! 」

  

 そう言ってラズはパッと腰を上げた。 


「わかってる。ただ、意図的じゃなくても無投票は相手のポイントになる。ちゃんと投票出来てなかった可能性があるんじゃないか、って事」


「な、なるほど。はぁ……でも、確かに私ならそんな事もあり得るかも……もしそうだったら私どうすれば……」


 思い出してみても確かに投票した記憶はある。

 だが、ラズは自分でもおっちょこちょいな事を理解しているので、その記憶に確信が持てない。

 ラズはそんな自分に嫌気がさし、しゅんとして腰を下ろしてしまった。

 

「まぁ、一ポイントくらいどうってことない。だから気にするな。それに俺も野暮な事を聞いて悪かったな」


「う、うん」


 深く落ち込んでいるのか、そんな励ましではラズの表情は晴れることはなかった。


 一方周囲を見れば、他の生徒の表情から笑みが消えていた。

 どうやら消えかけていた緊張感がまたむんむんと漂い始めたみたいだ。


 そう、忘れてはいけないがこれは試験だ。

 生徒たるもの、常に全力で試験を駆け抜けないといけない。

 自分の未来がかかっているのだから。

 

「で、先に向こうにポイントが入ったわけだけど。これからどう動くつもり? 」


 先程からだんまりを決めていたオレットが、タイミングを見計らって修也に話しかける。


「……まぁ一試合目ももう次で最後だし、予定通り次は俺が投票する。どう動くかは次の結果次第だな」

 

 もし次のジャンケンが引き分けに終われば、今の勝ちは運で勝ったものだとわかる。

 しかし、また青服クラスが勝つなんて事があれば、これはなにか策をうってきたと考えてもいい。

 なんにしろ、次のジャンケンでそれがはっきりとする。

 

 そうして一試合目の最後のジャンケンの投票者は修也で決まり、時間は残り一分となった。


 投票者の修也は控室を出ていき、そのまま投票室へ入った。 

 修也はぐるりと周囲を見渡すが、何も怪しいところはない。

 強いてあげるなら、なにも無いことが怪しいくらいだ。

 

 そうして修也は台座の上にある魔素水晶に手を翳して、間違いなく投票した事を確認し投票室を出ていった。


「どうだったアウスくん? 投票出来た? 」  


「ああ」

 

 修也が控室へ戻ったそのタイミングで十分の制限時間が過ぎた。

 さっきの件もあるせいで、モニターをみるみんなの視線には緊張感があった。


 そして皆のそんな視線の先に映し出された結果は――


「……なるほど」


@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

 

 一方、勝利を目にした青服の生徒達は控え室で笑みを浮かべていた。

 あれからずっと不機嫌だったアルトも、勝利のおかげですっかり機嫌を取り戻し、手鏡に中に映る自分を見つめている。


 今回のジャンケン、レオンの言う通りリリアンの投票で勝利した。

 レオンのあの言葉に間違いはなかった。

 皆は勝利を目前した途端、手のひらを返すようにレオンを讃えた。

 

 そして、レオンの言う通りに動いていれば必ず勝てると皆確信した。


「でも、一体何故俺達は勝てたのだ? 何をしたのだ貴様は」


「別に大した事はしてない。ただちょっとな」


 そう言って最後、レオンは言葉を紡がなかった。

 ただ、皆にはそんな事大した問題じゃない。

 とにかく勝てればいいのだ。

 そして、今はただレオンの言うことを聞いていればいい。

 

 そして投票時間が残り一分となり、レオン達はまたみんなを連れて投票室へと向かう。  

 あとは先程と同じ、レオンが一人先に投票室へと入り、二十秒ほど経ってから投票もせずに戻って来る。

 前のゲームと全く同じ過程だ。

 

「で、次の投票は誰にどうするの? 」

 

 レイの問いに皆今か今かとレオンの返答を待っている。

 そうしてそんなレオンから出た答えは――


「次の投票者は――俺だ。なんならもう済ませてきた」


「そ、それでまた僕達が勝てるのか? 」


「ああ。この勝負も間違いなく俺達の勝ちだ」


 レオンの言葉に皆が静かに笑みを浮かべる。

 そして控え室に戻ったレオン達に待っていた結果は――

 

「……勝った」


 モニターには、またしても青服のクラスの勝利、と表示されていた。

 皆はまた大きく歓声を上げ、喜びを分かち合う。

   

「もうこの試験はオイラ達のもんっすね兄貴!! 」

 

「ああ。この試験俺達の勝ちだ」


 ――ピンポンパンポーン


「ただいまをもちまして一試合目のジャンケンは終了となります。また、二試合目の開始は三十分の休憩を挟んだ後に行われます。休憩の間は自由にしてもらって構いませんが、大広間を通る事は禁じます。それでは後ほど」

 

 そう言ってアナウンスが途切れた。

 こうして一試合目の結果は青服のクラス二ポイント、緑服クラスはポイント無しで終わった。


 そうして未だに歓喜の渦が戻らない青服の生徒たち。

 そんな中、レオンはみんなを自分の前で集合

させた。


「どうしたんだ? 何か話か? 」


「ああ。これから二試合目の作戦を発表する」


「「「「「「おおおおお!! 」」」」」」


 レオンのその言葉に皆は目を輝かせ、興味津々に耳を傾ける。


「次の試合はお前らにも働いてもらう。だが、その前にお前達にはタネを話しておこう」


「タネというのはさっきのジャンケンの事か? 」


「そうだ。実はな、俺には相手が投票した属性が見えていた」

 

 レオンの発言はあまりにも信じ難いがたい事だったが、さっきの勝利を思い出すとそれを認めざるえない。


「で、でも……この建物の構造上相手の人達と顔を合わせるにはあの大広間を通るしかありません……でもその大広間は立ち入り禁止になってます……わ、私なんかがこんな偉そうな事言ってごめんなさい」


「いや、エルサの言うことはあってると思う。いくらレオンの魔法感知でも控え室と控え室があれだけ遠いと感知は流石に難しいよね? あ、もしかして魔法感知とは違ったまた別の方法で知れたとか? 」


「じゃあ、どうやってレオンさんは相手の属性を知ることができたんですかー?  」


「そ、それは、うーん……」


 リリアンの問いにレイは一生懸命返答を考えるが全く何も思い浮かばない。

 

「いや、俺は間違いなく魔法感知で相手の属性を知った」 


「じゃあ、どうやってさ」


「それはな、あの投票室にタネがある」


「投票室? 」

 

「お前らには到底気づけないだろうが、実はあの投票室はな、相手の投票室と壁一枚で繋がってたんだよ」


「な、なんだと!? 」

 

 この反応を見る限り、レオンの言う通り誰もその事に気付いていなかったようだ。


「俺がそれに気づいたのは六回目の投票が終わった後だった。その時俺は控え室から何かの物音を聞いた。だが中には何もそれらしきものはない。そんな時俺は思った。もしかしたら壁の向こうにもう一つ部屋があるんじゃないかってな。それで試しに俺の力を使ったみたら、見事に魔法を感知出来た。緑服の生徒に見合った微弱な魔力をな。で、その瞬間俺はこう確信した。壁の向こうにある部屋は相手の投票室なんだと」


「なるほど。だから貴様は一人先に投票室へと入っていたのだな。相手の投票した属性を感知する為に」


「そういう事だ」


 この瞬間は青服の生徒達は絶対的な確信した。

 今回の試験はこっち側の勝利だと。

 

 レオンはこの試験の勝ち筋を導き出した。

 投票した属性を感知するという絶対的な勝ち筋を。

 だが、レオンはこんな状況でも一切油断しない。

 だから、こうして皆を集合させたのだ。


「それじゃ二試合目の流れを説明する。二試合目のジャンケンは一人一回の投票が決められていて、投票した後は相手と顔を合わせないといけない。そこでお前らに一つしてほしい事がある。といっても簡単な事だ」

 

「してほしい事? アタシ達にか? 」


「ああ。お前らには対面した相手の顔を覚えておいてほしい」 


「そっか。こっちは相手の投票した属性が分かるから、自ずと対面する相手の属性も分かる。だから、おぼえておかないと三試合目で困っちゃうのか」


「そういう事だ。じゃあ今回の作戦を説明するぞ。といってもやることは一試合目と変わらない。先ずは投票前に俺が投票室へ先に入って相手の投票した属性を知る。そしてこっちはそれに応じた属性を投票。あとは対面した相手の顔を覚えれば作戦は完了だ」 


 皆が首を縦に振って頷くな中、エルサが少し怪訝そうな表情をしていた。


「どうしたのエルサ? 」


「いや……ちょっとこの作戦について気になる事があって」

  

「気になる事? 私は完璧な作戦だと思うけど」


「話してみろ」


 レオンの鋭い視線にエルサは背筋をピクっと震わせて恐る恐る口を開く。


「その……レオンさんは投票の際、それに応じた属性を投票するといいましたが、それは勝ちに行くということなのでしょうか? 」


「ああ」


「えっと……その本当に差し出がましいのですが、私にはその……勝ちに行くメリットがないように感じて……」


「というと? 」  


「えっと……この二試合目では投票の後に必ず対面しないといけません……なので、もし…こっちがジャンケンに勝ってしまったら相手にも私達の属性が分かってしまうのでは……」


「ああ。バレるだろうな」


「だ、だったら……わざと引き分けにした方がいいのでは……そうすれば相手に属性をバラさないで済みます……」


 エルサの発言に皆は、確かに、と声を揃えるがレオンだけは違った。

 丸でこんな疑問が上がることを予想してかのうよな表情だ。


「それなら問題ない」    


「な、何故でしょう……」


「相手の属性を知って有利を取れるのはあくまで三試合目で選択権をもつクラスだ。そしてその選択権はポイントの高いクラスに譲渡される。だから、勝とうが引き分けようが関係ない」

 

「けど、もし何かあって……相手のクラスに選択権がいってしまったら……」


「そんな事は絶対にあり得ないな。なにせ相手にはこっちの投票を知る術はないからな。それに格下相手にわざと引き分けるのってなんか癪だろう? 勝てるもの勝っておかないと」


 レオンの発言には少し狂気さを感じられるが、理にも適っている。

 相手の投票を知る事ができるレオンがいる限り、先ず負ける事はない。

 それが青服クラスの総意となり、これにて二試合目の作戦会議をおえたのだった。

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