第20話

 三回目のジャンケンが終わり、四回目の開始のアナウンスが流れる。

 修也達もかなり緊張が解け、次に投票する生徒を決めようとしていた時、青服の生徒達は控室で程よい緊張感を出していた。

 この生徒達に慢心の文字はない。


「で、もう三回も引き分けになってるんだけど、なんか気づいた事はないのアンタら? 」


 と、威勢よく声を張ったのはロルンだ。

 しかし、みなはその質問に、うー、と唸るだけで明確な返答は一切返ってこない。


「はぁ……どうすんだよこんなんで。このままじゃ負けちまうかも」


「まぁまぁ、少し落ち着きなよロルン君。君は少し焦りすぎだよ。まだ試験は始まったばかりじゃないか。きっと何か策はあるはずさ。大体ここにはこの僕がいるんだ。何があっても負けはしないよ」


 と、言って手鏡を見ながら髪をセットしているアルト。

 

「青服ごときのお坊ちゃんが何天狗になってんだ。言っとくけどこの中の誰もお前になんて期待してねぇから」


「な!? この僕が折角慰めてあげてると言うのに!! 」

 

「まぁ落ち着いてよ二人共。喧嘩は良くないって」

 

 今にもデットヒートしそうな二人をレイが仲裁に入って宥める。

 なんとか事なきをえたようだ。


「ふむ。だが、確かにそろそろ何か策を打っておかないと、いくら相手が格下でもこっちが後手に回ってしまうかもしれないぞ。それだと足元を掬われかねない。んー何かないのか!! 」

 

 暑苦しさを辺りに浸透させ、生徒達の表情を露骨に歪ませるマサ。

 そして、誰もその問に返答しないという鬼畜ぶり。


「じゃあ今は耐えるしかないんですかね……でも、きっと何か策はあるはずです……だから、今は焦らず……あ、そんなに動き回ったら怪我しますよリリアンちゃん」


「えー? でも、話が退屈なんだから仕方ないですよー。心配しないでくださいでーす。気をつけますか――ぶはぁ!? 」


「リ、リリアンちゃん!? 」


 リリアンは心配してくれていたエルサに視線を向けたせいで顔面から勢いよく壁にぶつかってしまった。

 エルサは直ぐに駆け寄るが、リリアンは元気に立ち上がり、大丈夫ですー、と言ってまた辺りを走り始めた。


「全く……落ち着かない奴らだ。強者なら常に余裕を持ってほしいもんだ」


「そのとおりっす!! オイラ達と同じチームメイトなのにほんと情けないヤツらっすよ!! それに比べて兄貴をいつも冷静だし、常に周りが見えていて尊敬するっす!! いつまでも着いていかせてくださいっす!! 」


「ああ。お前みたいな従順な奴なら大歓迎だ」


 ウィルはレオンの言葉に、ありがとうございます!! と声を上げて目一杯に頭を下げた。


「それでどうなんっすか兄貴? 進捗の方は」


「ああ。バッチリだ」

 

「さっすが兄貴!! よ!! 最高の男!! 天才!! 」

 

 ウィルが大袈裟に褒め称え、レオンもそれに対し悪い気はしないといった表情を浮かべている。

 だが、こんな表情を見せれるのも、きっとレオンなりに何か策があるからなのだろう。


「あと二試合だ」


「はいっす!! その後はもう兄貴のターンっすよ!! 」


「ああ。だが、まだそれだけじゃ勝ちは手繰り寄せられない。むしろ勝負はそこからだ」


「そうっすね!! でも兄貴ならきっと――いや絶対に大丈夫っす!! そして見せてやるっすよあの格下達に!! 兄貴の凄さってやつを!! 」


「ふん。当たり前だ」


 そう自信満々に笑みを浮かべた瞬間、時間は残り一分となり、今回の投票はマサが行くことになった。


 マサは投票室へと入り、手を水晶に翳した。

 これでマサの投票は完了。

 マサはそのままスタスタと投票室を出ていく。

 そして、投票室を出たその先に、マサの知った顔があった。


「おい貴様、一体こんなところで何をしているんだ」


 マサの視線の先には壁に背を傾けて腕を組むレオンが立っていた。


「いや別に。ただ、お前が本当に投票しているのかと気になってな」


「な、何を馬鹿な事を!! 僕はみんなを裏切るような事は絶対しない!! 」


「ああ、どうやらそうみたいだな。まぁ俺も別にお前を疑ってた訳じゃないないさ。ただ念の為の確認だ」


「確認だと? ……そういえば貴様毎回投票の時間になったら部屋出て行ってたな……まさかこれまでの投票の時も!? 」  

  

「ああ。俺は毎回投票時間になるとここでお前達を監視していた。裏切るようなことをしてないかを確認にする為にな」

     

 そう、レオンはこれまでの投票の時も今と同じように監視していた。

 そしてみなはマサと同じような反応を示し、レオンもその度に今と同じような説明をしてきた。

 

 ただ、レオンの言い分も分かるのか、皆はそれに納得をしてその場を終わらせていた。


「そ、そうだったのか……でも、僕にはその行動に意味があるとは思えないのだが? 」

 

「ふん。だから念の為だと言っている」


「だが、この試験は投票しないだけで相手にポイントが入るルール。つまり投票しなければその時点で負け。でも、その分投票していない裏切り者の特定は安易に行うことができるはずだ。こちらは誰が投票に行ったのか把握しているのだからな」

  

「馬鹿かお前? そもそもこれはジャンケンなんだ。もしかしたら、本当にジャンケンで負けたのかもしれないだろ? それに結果に表示されるのはどっちが勝ったかという勝敗だけ。だからこうやって監視しておかないと無投票で負けたのか、本当に負けてしまったのか分からない」

   

 レオンの説明に一度は納得の表情を見せたマサだったが、やはり気に入らないのかぶんぶんと首を横に振っている。


「……いや、やはり納得いかない。確かに貴様の言う通り、敗北の経緯までは結果に表示されない。でも、だったら貴様はどうやってそれを判断するのだ? 投票の際、部屋の扉を閉められていて中の様子を確認するのは不可能だはずだ」


「……俺なら出来るんだよ」


「……な、なんだと? どうやってだ!! 」


「ふん。悪いが今はその時じゃない。だが安心してくれ。話すタイミングがやってきたら必ず話してやる」


 そう言ってレオンは壁から背中を浮かせて、控え室の方へと去っていった。

 一方取り残されたマサは怪訝そうな表情でその

背中を見送っていた。


「な、なんなのだアイツは。でもアイツがいればもしかしたら……あの余裕の表情……この試験勝てるのか」 


@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@


 その頃、修也達は簡潔な相談の結果、投票者はルクスに決まった。  


 ただ、今は同じ人物の連続投票は禁止になっているだけなので、実際なところ前の投票者以外なら誰が行っても変わらない。

 ただ、皆で相談している中で、早い内に投票の流れを経験した方がいいという結論に至り、この一試合目でも一人一回投票しようと決まった。


 そしてこちらもまた相手のチーム同様、何も策は思いついていない。

 というよりも、もはや誰も頭を働かせていない。

 やはり、一貫して相手の動きを待つ作戦にしているようだった。

 その余裕からか、修也はラズ、オレットの二人と談笑している。


「そういえばさ、二人はなんでこの学園に入ったの? 」  

 

 少し踏み入った質問を口にしたのはラズだ。

 そんなラズは先ずは自分からと言って話を続けていく。


「私がこの学園に入学したのはね、実はたまたまなんだよね」 


「たまたま? 」


 オレットの言葉にラズはコクっと首を縦に振る。


「実は私この学園に入学しようなんて微塵も思ってなかったんだよ。本当は普通の学園に行く予定だったんだけど。その……間違えてこの学園に願書を送っちゃって……てへへ」  


「えっと……そもそも願書って学園事に違うはずだげど」


「あはは……それも間違えちゃった。はぁ……ちゃんと確認して手にすれば良かったよぉ……」


 ラズは過去を悔い、分かりやすく意気消沈する。

 しかし、ラズのエピソードの凄さはここからだった。

 

「でね……願書も出しちゃったしとりあえず試験だけは受けてみるかって受けてみたんだけど、その試験が普通じゃなくて。ほらカードを使った……」


「えぇ……あれは大変だったわ。私もギリギリだったもの」


「そうなんだよ!! ルールを聞いても全く意味が分からないし!! だからヤケクソでやってみたんだけど、そしたらなんか合格しちゃって」

 

「なんか運がいいのか悪いのか……」


「全く同感だわ。でも、意外と彼女みたいな人が最後まで生き残るのかもね」


 修也はオレットの言葉にうんうんと首を縦に振っていた。

 そうして、次にオレットが経緯を話し始める。

 

「私は別にそれといった理由はないけど、強いていうなら……家族を見返したかったから、かしら」


「そ、そうなのか……えっと」


 気まずい沈黙。

 そして、修也はなにか重そうな話だとこの空気で瞬時に悟った。

 ラズも話を振った自分のせいだと感じ取ったのか、露骨にオドオドしている。

 なので修也は直ぐ様自身の身の上話へと移した。


「俺は……」 

 

 そう言いかけたところで修也はふと考えた。

 一体何を話せばいいのだろうかと。

 修也はこの世界に転生してきてまだ二日目。     

 あまりにも話す質量が足りない

 かといって、この二人に転生の話をする訳にいかない。

 でも、今の修也の大部分はこの転生に関わっているので、それを省くとなるともう本当に話す内容がなくなってしまう。

 となると、今の修也に話せる内容は――


「俺は学園長の推薦でこの学園に入った。動機については、まぁラズと同じようなものだな。俺も別に自分の意思でこの学園に入りたいわけじゃなかった。なんかこう、なりゆきでそうなった」

 

「へぇ……学園長の推薦なんだぁ……って」


「「えええええっ!?」」

 

 オレットとラズのユニゾンした叫び声が修也の鼓膜を潰しにかかる。

 この刹那、修也は悟った。

 多分、してはいけない話だったと。


「学園長の推薦って歴代の紫服の生徒でも数人しかいなかったはず!! それを緑服の貴方が!! ねぇどうして!? 貴方一体何者なの!! 」


「い、いや、別にそんなにだいそれた話じゃないんだが」

 

「や、やっぱりアウス君って凄い人なんだ……ねぇねぇ!! 私も気になるよアウス君!! 一体どういった経緯なの!? 」


「アウス!! 」


「えっと……」


 修也が二人の気迫に押されかけた時、四回目の投票時間の終わりを告げるアナウンスが流れた。

 これこそまさに助け舟。

 おかげで二人は少し落ち着きを取り戻したみたいだ。

 して、結果は引き分けとモニターに表示されて、そこから間髪もいれず五回目開始のアナウンスが流れたのだった。

 

 

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