第8話
「な、なんだと……」
修也の提案で男の顔が露骨に歪む。
さっきの余裕が明らかに無くなったのが見て取れる。
(やっぱりか)
修也はこう言えば男がこのような反応をすると分かっていた。
やはり修也の予想通りだった。
そして、修也の言うルールを逆にするとは、勝利条件の変更だ。
今までは同じ柄が出ればラズの勝ち、異なる柄だと男の勝ちだった。
それを修也は逆にしてくれと言っている。
「なんですか? ダメなんですか? これは完全な運勝負なんですよね? だったら別に問題は無いと思いますが? 」
「くっ……お、お前……」
「どうしてそんなに睨むんですか。ただ俺は同じ柄で勝つのが嫌いなんです。俺だってその最強の魔法騎士になりたい」
(まさかコイツこのゲームの仕組みを気付いたのか……!! )
これが今の男の心情だった。
ただ、男はここでふと冷静に考えてみる。
別に修也はそれについて確信をついた発言をしたわけでない。
だが、こんな提案をしてくるということは。
(くっそ……どっちなんだ……コイツは気づいたのか……)
そんな葛藤をしている最中、男は修也の制服に視線がいった。
そして男の中で答えの輪郭が綺麗に浮かび上がる。
(そうだ。コイツは見ての通り緑の弱者だ。そんな無能がこのゲームの仕組みに気付くわけがない!! 間違いない!! だが、ここでコイツの案を却下すれば、今度こそこのゲームの仕組みを理解してしまうかもしれない。となればここはいた仕方ないか……)
「……ああ。いいぜ。これは完全な運勝負だからな」
ニヤリと作り笑顔を浮かべる男に修也は違和感を感じた。
して、男は作り笑顔を浮かべてカードをシャッフル。
宙を舞うカードは卓上へと並べられた。
修也は特に何も考える事なく、二枚のカードを選んだ。
「剣と炎。先ずは俺の先勝ですね」
「くっ……」
男が悔しそうにして修也を睨む。
さっきまでと違い表情に余裕が丸でない。
そしてカードはまた机に並べられ、修也は適当に二枚選んで捲る。
そんなやり取りが四回続いて今の結果が、修也三勝、男一勝。
ラズの時は丸っきり違った状況になっていた。
見れば男が切迫詰まっている表情に対し、修也はポーカーフェイスを保っている。
「もしかしてアウスくんって運に恵まれし人だったり? 」
この状況で一番嬉しそうな表情を出していたのが後ろで見守っているラズだった。
「残念だけど俺は運になんて恵まれていない」
本当に運に恵まれているのなら、前の世界でもっと幸せな生活をしていた。
そんな中、男が奥歯をキリキリと鳴らして修也を睨んでいる。
「くっ……やっぱりお前……」
「何ですか? 俺は何もズルい事はしていないですよ。それともこのゲームには何かやましい事でもあるんですか? 」
「ちっくっしょ……やっぱりお前」
男はようやく確信した。
遅すぎた。
修也がこのゲームの仕組みに気付ていた事に気付くのが。
ただ、どっちにしろ今有利な状況にあるのは修也に変わりない。
男は修也の交換条件を飲んでしまったことで窮地に立たされていた。
ではそんな男には一体何の策が残っているだろうか。
(くそっ……もういっそ、このゲームの仕組みを今ここで暴露するか。このゲームの仕組みをバラせば恐らくこのゲームは無かったことになるはずだが……)
しかし、それにはやはり大きなリスクが伴う。
そのリスクとは興奮気味にこのゲームを傍観している周りの生徒達にある。
もし、ここでこの男がこのゲームの仕組みを暴露するとしたらきっと蔑んだ視線を向けられる。
いくら周りの生徒達がこの男の味方でも、このゲームが平等ではないとバレればきっと。
そして皆はこうも思うだろう。
ズルまでしないと緑の生徒には勝てないのだと。
多数の生徒が見守る状況下で赤服の価値を下げる訳にはいかない。
中には既にこのゲームの仕組みに気付いてる奴もいるかもしれないが、幸いにも周囲の生徒の殆どは青服でそれ以外は黄色服しかいない。
恐らく、バレてない可能性のほうが高い。
色々な感情が男の脳裏をよぎり、そのストレスでまた奥歯をキリキリと噛みしめる。
男はようやくのところで怒りを抑えられている状況だ。
「早く次用意してください」
余裕そうにして両ポケットに手を忍ばせている修也に男の怒りは更に膨れ上がってくる。
弱者である緑服が格上の赤服相手にこの余裕な態度。
男にとってこれほど屈辱的な事はない。
たかが緑服だと決めつけたせいで男は油断してしまった。
頭脳も力もない無能な緑服なら罠にある餌に食いつくネズミのように引っかかってくれると、そう思い込んでしまった。
「どうする……このままじゃ」
このままゲームが続けば勝負は先ず負けてしまう。
お遊びとはいえ赤服が緑服に敗北。
そんな事は決してあってはならない。
もはやこれはこの男だけ問題じゃなく、赤服の生徒全員の沽券に関わっている。
どんな手を使ってもこの勝負、勝たないといけない。
例えどんなズルをしても。
意を決した男は机の上にあるカードを魔法で操作。
勝たないといけない、けどどうすればいいのか分からない。
そんな鬱憤が目一杯に乗ったカード並べだった。
「あの。さっきから随分と操作が雑じゃないですか。体に当たって怪我したらどうするんですか。俺痛いのは嫌いなんですけど」
「うるせぇ!! いいからさっさと選べこの半眼野郎!! 」
「半眼……」
確かに今の修也の瞳は怠惰を彷彿をさせるような半眼をしている。
修也は今まで一度も言われたことがない悪口に少し動揺してしまった。
(これでも前の世界では切れ長でかっこいい目をしてるねって言われたんだけどな)
そんな思いの中で修也は二枚のカードを捲った。
「くっそぉぉ!! 」
男は表になったカードを見た瞬間、激しく声を荒げた。
場には剣と魔法のカード。
これで男が一勝、修也が四勝。
修也のマッチポイントだ。
「ウソだろ……まさか赤服が緑服の新入生に……」
「バカ!! これは運勝負だ!! 」
「そ、そうだよな」
周りの雰囲気がちょっとづつではあるが変わり始めていた。
いつしか、生徒達は声援をなくして皆固唾を呑んで二人の光景を見つめていた。
して、男は修也に鋭い視線を向けてあとあ、カードを机に並べた。
修也はそれに対し特に気にするような素振りも見せず、口を真一文字に結んでカードを捲った。
選択したカードは両端の二つ。
「ふん……」
カードは剣と剣。
これで男は二勝となったが、男は歓喜の表情を一切出さない。
男からすればもうこの状況は絶望的だからである。
そしてまたカードは乱雑に並べられ、修也は適当に一番左とその右隣のカードを選び表にする。
「……じゃあこの試合は俺の勝ちですね」
「くっそ……」
男は机上で悔しそうに握り拳を作って唸る。
そうして次の試合が始まろうとした時、男は勢いよく腰を上げた。
「一旦休息だ。喉が渇いた」
男はそう言ってこの群衆を突っ切ってどっかいってしまった。
周りの空気もこの休息のおかげで柔らかくなりかなり雰囲気が和んでいた。
そんな中でラズは一人テンション上げて修也に口を開いていた。
「凄いよアウスくん!! 次勝てばアウスくんの勝ちだよ!! でも、万が一赤服の先輩に勝ったりなんてしたらアウスくん一気に有名人だね!! 」
ラズははつらつと言葉を並べ、修也の肩をほぐすように揉んでいく。
「まぁ……ある意味有名人になるかもしれないな。緑服のくせにとか言われてさ」
「ま、まぁそれは確かに……でもこれは完全な運ゲームだしその心配はないんじゃない? 」
「……もしかしてまだ気付いていないの? 」
「へ? 気付くって? うん? 」
ラズの目が綺麗な真ん丸になっている。
「……えっと、一応、一試合目が始まった時に答え紛いの事を言ってるんだけど」
「えっと……うん? 」
全く分かっていなさそうなラズに修也は一つ大きなため息をついて、ただ一言。
「あのな、このゲームは平等に出来ていないんだよ」
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