ランドオブデッド・最も危険な夜 -ようこそ、リアル・ゾンビゲームへ-

明鏡止水

ゲーム開始

煌汰こうたは、大きなあくびをした。


ここはとある客船の中。時刻は22時過ぎ。

冴えない顔をし、眠たそうにする彼は、旅行からの帰りだ。

先日休みを取って、離島へ1週間の旅行を楽しんできたところなのだ。


ちなみに、今は真冬だ。

なぜこの時期に行ったかというと、雪まつりに行くため…というのは近からずも遠からず。


彼は、雪国の光景や観光名所、グルメが好きなのだ。

そして今回も、友だちに配るための土産をどっさり買ってきた。


 行きは飛行機で行ったが、帰りはこうして船を使っている。これは、初めからそうしようと思っていたことだった。


だが、こんなに遅くなったのは予想外だった。


飛行機はとうに最終便が飛んでしまったし、1週間旅行を楽しみ、明日には家に帰り、3日間家でゆっくりする…という兼ねてからの計画を最後まで遂行するには、船で帰るしかなかった。


 しかし、到着は明日の朝になるという。

そこから駅まで行って、新幹線で帰るとしても、うちにつくのは昼頃になるだろうか。


予定が少しばかり狂ってしまうが、まあ仕方ない。




 眠い。疲れた。

これまで感じていなかった分、1週間の疲労が一気に襲ってきた。


入浴も夕食も既に済ませていた彼が、まともに歯磨きや着替えもせずに眠りにつくのに、そう時間はかからなかった。





 夢の中で、奇妙な人物に話しかけられた。

それは妙に整った燕尾服を着込み、頭にはピエロのような仮面を被った得体の知れない人物だった。


「青年よ。突然だが、君にいい話がある」

普通に考えれば、こんなのは聞かずに無視一択だが、煌汰はなぜかそうする気になれなかった。

「何だ」


「まず、私のことは『マスター』と呼んでくれたまえ。

して、青年よ。君は、この現実にうんざりしているのではないかね?」


確かに、煌汰はこの現実に…毎日に、飽きを感じていた。


別にこれといった不満があるわけではないが、ただただ単調で、当たり前の生活を送るだけの毎日にうんざりしていたのだ。


「それと何の関係がある?」


「私は、とあるゲームの開催を企画していてね。今、参加者を募集しているのだ。

自分で言うのもなんだが、実に刺激的で面白いゲームだ。参加してみる気はないか?」


「ゲーム?…なんだ、体験型のアトラクションみたいな感じのやつか?」


「そんなところだ。名付けて、『ザ・ランド』。恐らくだが、人類史上今までにない最高のゲームだ。

どうだ、話だけでも聞いてはくれないか?」


 テレビの企画か何かだろうか。

まあ、せっかくだし話くらいは聞いてもいいだろう。

「…どんなゲームなんだよ」


「聞いてくれるのだな?…よかろう、説明しよう。と言っても、そんな難しいことではない。

私が用意した特設の島、『ザ・ランド』に降り立った100人の中の1人となり、翌日の朝7時まで過ごす。ただ、それだけだ」


「なんか、バトロワゲーみたいだな」


「別に争う必要はない。むしろ、ぜひとも参加者同士で協力し合って欲しい。そうして、ぜひ朝まで生き延びて欲しいものだな。

もし翌朝まで生き延びることができたら、君は自由の身だ。その上、賞金100億円を授与しよう」


「100億!?」


「ああ。もちろん現金でだ。そして、これは当然ながら嘘ではない…約束しよう」

100億。この手の怪しいゲームや大会の賞金としてはありがちな額だが、いざこうして直に聞かされると凄まじいパワーがある。


「そ、それをもらったらうちに帰れるのか?無事に、本当に…」


「もちろんだとも。私はその後のことは一切干渉しないし、小難しい制限や条件なども付け加えたりしない。賞金は、好きなように使ってくれたまえ」


「…」

 煌汰は考えた。

こいつの話が本当なのか以前に、そもそもこいつが何者なのかもよくわからない。だが、100億の賞金が、ただ島で生き延びるだけのゲーム内容が、本当なら…。


煌汰は、最終確認をした。

「…本当に、それだけなんだな?用意された島に降りて、100人で朝まで生き残る。生き残れたら、賞金100億をもらって帰れる。

それだけなんだな?」


「それだけだ。私は嘘はつかない。どうだ…参加してくれるかね?」

 正直、まだ不安はあるし、こいつ自身のことも半信半疑だが、ここは男を見せたい。

何より、100億円という額はこれ以上なく魅力的だ。

そう思った煌汰は、一か八かで答えた。


「参加する」


マスターと名乗った男は、仮面の下から不穏な笑い声を出した。

「…よかろう。参加を感謝する。では、会場へ行くとしようか」 


「えっ…」



そして、煌汰は目覚めた。






 そこは、眠った時と変わらぬ船内の客室だった。

何かがおかしい…気もするが、それが何かはわからない。


夜の暗さも、窓から差し込む月の光も、静けさも、特に異常はない。しかし…何かが、おかしいような気がする。


とりあえず客室を出た。

廊下を左に進み、エレベーターへ…


「!?」

口から心臓が飛び出そうになった。

エレベーターに続くはずの道が、なくなっている。というか、まわりの壁や床ごと途中からなくなっている。


一体、これは?



 元々壁があった場所の穴から、砂浜や壊れた船体の一部が見えたことで気づいた…船が難破し、どこかの陸地に流れ着いたのだと。


海水が入ってこなかったのはよかったが、疑問が生まれた。


普通、航海中に船にトラブルがあれば、アナウンスの1つくらい入るだろう。

煌汰は、そういうのには割と反応するタイプだから、聞こえなくて起きなかったというのは考えづらい。


となると、まさかアナウンスはなかったのか?…いや、今どきそんなことがあるとは思えないが。


 と、後ろの方から何か物音がした。

ゴトッ、という音だった。


「…誰かいるのか?」

暗闇に覆われた廊下の奥を見つめ、声をかけるが返事はない。

もしかしたら、他にも自分のような生存者がいるのかもしれない。


万が一のために持ち歩いていた懐中電灯をつけ、道の奥を照らしてゆっくりと歩いた。


「おーい…」

少しずつ足を進めていく。


 辺りは静寂に包まれ、自身の足音以外に聞こえる音はない。


多少不気味ではあったが、煌汰は立ち止まらなかった。


怖さよりも、誰か生きた人間に会いたいという気持ちの方が強かったのだ。



やがて行き止まりに来たが、やはり人の気配はない。


人でないとしたら、ネズミか何かか。

いずれにせよ、同じ生き残りではなさそうだ。


 くるりと回れ右し、来た道を戻ろうとしたその時、また何か物音がした。

今度はガタッ、という音だ。


やっぱり、何かいる。


ネズミであれ人間であれ、その正体を突き止めたい。

そう思った煌汰は、音がした部屋の扉に手をかける。



 ゆっくり扉を開け、中を照らす。

何もいない…そう思った時。


突如、部屋の隅から何かが飛びかかってきた。


一瞬、相手の正体がわからなかったが、床に落とした懐中電灯に照らされてその姿がはっきりと見えた。


それは、体が朽ち果て、ボロボロの服をまとった人間だった…



「えっ…!?」

驚いた隙に、相手は煌汰の首筋に噛みつこうとしてきた。


慌てて取り押さえた際に顔が見えたのだが、目が血走り肌が変色して腐っている…まるで、「ゾンビ」のようだった。


「っ…!」

向こうは力が強く、だんだん追い込まれていく。このままではまずい。


 と、何かが目についた。

それは、床に転がった銀色の水筒。


一か八かで手を離し、水筒を拾い上げる。

そして掴みをかわし、背後に回り込んで相手の頭を思い切り殴りつけた。


血が迸り、相手はうめき声と共に倒れた。


「はあ…」

水筒に、中身がしっかり入っていてよかった。へこんだその表面には、べったりと赤い血がついている。


倒れた相手を改めて見ると、全身から腐ったような異臭を放っていた。


「なんだこれ…まるで、ゾンビだな…」


とりあえず懐中電灯を拾い上げ、荷物の入ったカバンだけ回収して船を出ることにした。


今後もあのようなものが襲ってこないとも限らないので、先程の水筒はこのまま持っていく。




 壁の穴から出て、船から離れてあたりを見渡した。

どうやら、ここは島のようだ。

そして船は、見事に陸地に乗り上げていた。


さっき出てきたところの近くに大きな岩があったが、あれにぶつかったのかもしれない。

しかし、今どきの船でそんなことが起きるものだろうか。


考えても仕方ない。

とりあえずは、助けが来るまで生き残ろう…と思ったその時、頭の中で声がした。


「お目覚めかね?

さあ、見たまえ。これが今回のゲームの舞台の島だ。

今は23時、明日朝7時まで8時間を生き残ることが出来れば、君は賞金を獲得し自由になれる。もし倒れれば、その時点で脱落だ。

まずは適当な建物で物資を入手し、敵に立ち向かう準備をしたまえ。それでは…健闘を祈る!」


 あの、夢の中で聞いた声だった。

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