第2話 なんでも屋ケーシー 2

「な、な、なぜだぁぁぁぁっ!!??」

「いや、なぜと言われても……」

「そこをっ! なんとかっ!!」


 このどこからどう見てもたった今出土されたばかりです!と言わんばかりの埴輪の彼に、僕は1週間ほど前から毎日求婚されている。


 一番最初の求婚時、異世界コチラに来てそれなりに長い年月を過ごしている僕の長い人生において「埴輪に求婚される」という意味不明な事態は、生まれて初めての事だったので流石の僕も少し感動したのを覚えている。


 そもそもの話、当たり前のように埴輪が生きて動いているのも不思議だし、当然のようにペラペラと流暢な日本語を話しているのも違和感しかない。


 異世界コチラでは埴輪は生きているというのは常識なのだろうけども、未だに日本人としての感覚が抜けてない僕には全くもって理解ができない。



 この意味不明なファンタジーな生き物――生き物と言って良いのか分からないが――に熱烈な求婚をされて、


「毎朝身体を磨くというのが埴輪のプロポーズの言葉なんだな」


 とか、


「埴輪との結婚生活ってどんな感じなんだろう?」


 とか、まぁまぁ興味や好奇心が色々と湧いたし若干結婚してもいいかなと思ったりもしたけれども、よくよく考えたら残念ながら僕には埴輪と生涯添い遂げるような覚悟も自己犠牲の精神も何も無いわけで。


 自信満々な埴輪の彼に対する僕の返答はもう決まっている。


「ごめんなさい」

「んなっ!!」


 さっきまで求婚を受け入れられて当然みたいな顔をしていて気持〜ちドヤ顔だった彼の顔――1週間も顔を見ていると埴輪と言えど表情の判別ができるようになった――が、僕の返答を聞いた後にはぐにゃぐにゃひにょひにょとみるみる萎れて物凄く悲しそうで心が痛い。


 しかし、なんで彼は毎度毎度結婚出来ると確信しているのか……自信家なのかな。


 あと、身体はどう見たって土器なのにタコのようにぐにゃぐにゃと動く謎。

 うん、この埴輪本気でどういう構造しているのか気になるんだけど。

 一回分解させてくれないかな?

 だめ?

 ……そう。ざんねん。


「ごめんね、僕は埴輪……じゃなくて、あなた達ゴーレム族の人とは結婚は無理だと思う。何度も言っているけれど」

「なっ?! やはりゴーレム族の吾輩では駄目なのかっ!?」

「種族とか君が駄目、というより、そもそも僕は誰とでも結婚する気はないんだよ。これも何度も言っているけれど」

「なんと……もったいないっ!」


 このやり取りも何回目だろうか。

 いい加減飽き飽きしてきたのだけれど。


「だから諦めてもう帰ってくれないかな? 僕は世間では『なんでも屋』と言われてはいるけれど、残念な事に僕への結婚の申し込みは『なんでも』の範疇ではないんだよ。ごめんね」

「……。よかろう、ならばっ! 貴女が吾輩を認めてくれるまでっ! 吾輩は諦めないっ!」

「なんでだよっ! あー、これだからゴーレム族はめんどくせぇ」


 彼らゴーレム族の特徴の一つとして、非常に忍耐強いというものがある。

 目的を達成するためならどんな苦難も乗り越えようとする、オリハルコンのような硬い意志を持つのが彼らゴーレム族の特徴だ。

 カッコよく言ってはいるけれど、まぁ言い換えるとクソしつこいのだ、コイツラは。


「あー、もういいや。とりあえず今日は帰ってくれません? 僕は『何でも屋』の仕事が詰まっているので」

「ふむ、そうだな。恋も戦も駆け引きが大事、だからな。ふふ」

「はぁ……1名様おかえりでーす。出口はあちらでーす」


 これは明日も来るだろうなぁ。

 彼らゴーレム族は一度こうすると決めたら爆裂魔法が降り注ごうがドラゴンが里に降りてこようが、その命尽きるまで絶対に目的を遂行しようとする。

 まるでそうプログラムされたロボットみたいに。

 ま、上位者からの命令があれば別らしいけれども。


「うむ。それでは、また会おうっ! 未来のマイスイートハニーよっ! そして執事殿もいつも美味しいお茶をありがとうっ!」

「……誰がハニーだ」

「またのお越しをお待ちしておりますゴロー様」

「ふっ、ではさらばだっ! アッハッハッハっ!」


 そう言うやいなや、彼はぐにゃぐにゃした埴輪な身体を翻し、目にも止まらぬ早さで部屋から出て行ったのだった。


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