第二章 隣の優等生は、タコパしたいっ

第6話 全人類が好きな弁当

 こうして、あたしは細江ほそえ 桃亜ももあの食事の面倒を見ることになった。


 出前だけでいいと思っていたんだけどな。やったとしても、料理を教えて後はご自分でどうぞ、って感じだと考えていた。


 しかし、「作ってくれ」と言われたら、毎回夕飯に同行したほうがいいよなと。


 家族の了解も得たので、今後は毎日、桃亜の夕飯を作ることにした。


 その前に、弁当だ。


 いつもより、少し早めに起床する。桃亜の分も作るためだ。

 

「今日は、なににしようかな」


 初めての弁当だから、シンプルメシにしよう。栄養のバランスとか考えない、オカンメシ。全人類が好きっていうあの弁当を、自分も作ってみようかな。


 しかもアルミ! ドカベン!

 

 あたしは! 二段式のプラスチックみたいな! おしゃれ弁当箱なんて! 持っていない! いつだって! ドカベン!

 

 冷凍の唐揚げを、レンチン。


 その間に、卵焼きの卵液を作る。と言っても、フライパンで作らない。動画で見た方法を試す。

 生卵にダシとしょう油を足して、よく溶かす。

 底のある皿に、ラップを包んで器を作った。

 卵液をラップに流し込んで、包む。


 ここで、唐揚げが出来上がった。別皿に移して、粗熱を取る。弁当箱の中が、熱くなりすぎるのを避けるため。

 弁当ってのは、熱々を食わせればいいってもんじゃない。熱々を食いたければ、それこそレンチンすべきだ。レンジなんて置いてない学校では、程よい熱加減が重要なのだ。


 六〇〇ワットで、卵液を一分二〇秒レンチン。


 前日の白米を、弁当箱に詰め込む。


 二段式みたいなおしゃれ弁当箱ではなく、アルミ! ドカベン! 大事なことなので、二回言いました!


 自分で買ってもらったやつもある。だけど今日は、ジイサマが学生時代に使っていたという古のドカベンを出した。角やフタなど、色々とベコベコになっているが、気にしない。ボリュームもちょうどいいじゃないか。こっちの形が悪い方は、あたしが使おう。


 大衆食堂の娘に、美的センスなんて求めてはいけない!


 文句を言われたら、「自分で買ってきやがれ」って言ってやろう。


 ドカベンに、白米をぶち込む。そりゃあもう一面に、白い床を敷き詰めた。

 詰めた白米の上に、カツブシをドーン! うま味調味料をパラパラパラッ。しょう油も適量。最後に味付けノリを! 

 これも料理系動画サイトで見た、「こういうのでいい、ノリ弁」ってやつである。

  

 赤いウインナーをフライパンで焼いて、焼き色を付けていった。次に、水を足してフタをする。ある程度蒸らしたら、できあがり。こっちも皿に移して、粗熱を取る。最後の工程があるからだ。


 卵焼きもできたので、切って弁当に詰める。ハート型に切ってやるなんて、しない。愛妻弁当じゃないからね。


 次に、赤ウインナーにも切れ目をいれる。いわゆる、タコウインナーにしていった。


 ウインナーと唐揚げを詰めて、と。


 尾村おむら いすゞ特製、ドカベンの完成だ。


「いや、まだだった」


 りんごを切らないと。こっちはドカベンじゃなくて、別容器に格納。もうりんごが入るスペースはないからな。

 フルーツを入れた容器も、元々は常備菜入れなのだが。


「じゃあ、行ってきます」


「行っといで。てぇてぇ……うまいもんを食わせてやりな」


「おうっ


 母に見送られて、あたしは家を出る。




 昼食になり、あたしと桃亜は向かい合って弁当を広げた。


「いただきます……おいしいっ。これこそ、全人類が求めている味です!」


「ウチは先祖が関西風だったから、卵焼きも塩辛いしょっぱいんだよ。口に合わないってことはないか?」


「とんでもない! これはこれで、最高ですっ!」


 モリモリと飯を食らう。


「ウサギさんに切ったりんごも、いすゞさんらしくてかわいいですね」


「よしてくれよ。桃亜が食うから、ちょっと女子力高めの方がいいかなって」


 とはいえ、ドカベンの時点で女子力はマイナスに振り切っているのだが。


「欲を言えば、いすゞさんのお弁当箱のほうがいいんですが」


「こういうのでいいの?」


「こういうのがいいんです」


 クラス最強の優等生は、ドカベンをご所望だった。

  

「うわー。相っ変わらず、いすゞのメシはうまそう」


 クラスメイトのギャルが、あたしと桃亜に近づいてきた。


「やらんぞ」


「いや、さっき学食で食べてきたからいいけど。それにしてもさ、二人は同じ中身なんだね?」


「そうなんだよ。事情があってな」


「いいね。愛妻弁当だ。だったら、なおさら手を出しちゃいけないね」


 うらやましそうな顔をしながら、ギャルは「じゃねー」と去っていく。


「かわいい弁当箱を、頼んでおくか?」



 人に見られることを想定して、なるべくドカベンは桃亜に持たせたくないのだが。

 

「いえいえ。放課後、お買い物に付き合ってください。このお弁当に見合うドカベンを探しましょう」


 本当に、ドカベンでいいのか。

 

「あと、食材も買いましょう。今日は父が引っ越しの際に持たせてくれた道具で、ゴハンにしますので」


 そうなのか?

 

「先日父に『友だちができた』と電話したところ、『ククク、ついに封印を解くときが来な』と返事が来ました」


 桃亜の父親は、中二病か何かか?

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