カシマとカトリの蕃神録 風神の羽は如何にして失われたか

神田 るふ

第1話 蕃神録計画

 私の名前は、思井おもいかの。


 文化庁神祇課じんぎか調査班特別対策室の室長補佐にして、ただ一人の人間の職員だ。


 私の職務は日本の神々が発案した蕃神録ばんしんろくという計画を、神々に成り代わって遂行すること。


 蕃神録とは何か。


 簡単に言えば、神々の整理計画である。


 他国の人間、異民族が持ち込んだり、彼らに憑いてきた神々が日本で定住できるよう“あらゆる手を尽くして”取り計らうこと。また、お世辞にも神とは呼べない悪鬼羅刹あっきらせつ魑魅魍魎ちみもうりょう怪力乱神かいりきらんしんたちを討伐することも目的としている。


 日本の神々の中枢機関、高天原たかまがはら聖令せいれいを受けた文部科学省所管の文化庁神祇課が対策室を設立したのは三年前。その後、東京都新宿区神楽坂のとある雑居ビルに事務所を置き、紆余曲折を経て、現在に至る。


 私の主な仕事は蕃神録に関するデータ収集、報告、神々との調整事項などである。いわゆる、事務方というやつだ。


 一方、対話だけでは解決しない場合の実力行使を担うのは、二人の外部委託職員、つまり、契約職員である。二人とも女子高生なので、出勤は夕方以降になる。


 そのうちの一人、鳴神なるかみカシマことカシマさんは、現在、事務所内にある応接室のソファーの上でお昼寝、いや、お夕寝中だ。


 色素の薄い、流れるような長髪のサイドを綺麗に結いつけ、日本人離れした愛らしい顔立ちをした美少女が、夕日に照らされた事務所の中ですやすやと寝入っている。起きている時は雷鳴の如きかしましさだが、寝ている時は見た目通り、深窓の令嬢そのものだ。


 もう一人のエージェント、祝乃いわいのカトリことカトリさんは、先ほどからずっとスマホを眺めている。いったいスマホで何をしているかわからないが、こちらに話しかけてくることは殆ど、いや、全く無い。黒い長髪と端正な目鼻立ち。カシマさんが動く仏蘭西ふらんす人形なら、カトリさんは生きる日本人形である。まあ、今はどちらも活動停止中のようだが。


 ちなみにこの二人、人間では、無い。


 カシマさんは雷神タケミカヅチの神霊、カトリさんは武神フツヌシの神霊の化身である。タケミカヅチもフツヌシも、神代の昔に日本土着の神である国津神の平定に遣わされた神々だ。高天原は、再度、蕃神の整理のために、この神々を派遣したというわけである。


 現在、時計は夕方六時。そろぞろ、外の陽も陰が濃くなった。


 階下で、人が入ってきた物音がする。おそらく、今日、アポを取ってきた人物だろう。


 神々や化物が相手の対策室が、外部の人間と応対するのは珍しい。


 面会を依頼してきた団体の名前は薔薇十字ばらじゅうじ協会。


 やって来るのは錬金術師なのだという。


 どう見ても、普通じゃない連中だよな、こいつら。

 

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