翌る日のゾンビ

雛形 絢尊

第1話

「直、お前、さっさと飲めよ、

グラス下げてもらおうぜ」

輝が箸をこちらに向けながら言った。

それと裏腹、私は溢れかえるほど

酒を飲んだ挙句、その脂濃さの濁流に飲まれ、半ば我慢をするような形で

グラスに入ったレモンサワーを飲んだ。

異常なほどにアルコールに

満たされていたようで、酔いがまた回る。

「ほら、ぐったりしてるよ」と満が言う。

私の向かいに座る彼だ。

彼の左手には吸いかけの

タバコが煙を上げていた。

ため息にも似たその白い空気は

この店の天井に徐々に昇っていく。

駅から5分ほど歩いた場所にある、

ここ『個室居酒屋・遊来』は何かと

飲みの席に選ばれる店である。

幾らか残った皿の中で

一際目立つのは四つ残った揚げ餃子。

名物というものがないらしいが、

この揚げ餃子が人気である。

個人的な意見だが、ここの水炊きが

なかなか美味い。味付けが巧妙で、舌が喜ぶ。

大層のない会話を拵えながら、

また、会話の着地点はその場所に戻る。

先ほどまで話してたその話だ。

「悠介、お前本当に噛まれたのかよ」

輝が彼に目線を向ける。

それと同時に我々も彼を向く。

「いや、それがさ、本当なんだよ」

先程の会話が驚くほど記憶にない。聞き返す。

「おい、嘘だろ、直。お前寝てたのか」

それはある意味合いにおいては正解で、

話を聞いていなかったと

いうことを誤魔化す手段である。

「ごめん、そこだけ聞いてなかった」

皆が笑う。それを輝が説明する。

「悠介が、普通に高円寺を歩いてたんだって、そしたら、急におっさんに噛まれたらしいぞ」

おっさんに噛まれるという、

普段聞き馴染みのない 

その文章は確かに奇妙でならなかった。

それは夜?と悠介に聞き返す。

「そうだな、夜だな、確か0時前」

酔っ払っていたんだろう、

やっぱりと輝が笑みを浮かべる。

満も同様、吹き出すように笑った。

「それがよ」悠介のその動きを見せる。

ワイシャツの右手首を折り曲げる。

確かに手首より少し下の方、

何者かに噛まれた痕跡がある。

その場所は青紫色に染まり、

酒の入れた身体からも

異様であることが感じ取れた。

「そんな体験なかなかないよな」

「逆に貴重だぜ?死ぬまでねえと思うよ」

そんな会話を往復すると

満がこちらを見ながらいう。

「いやー、もしかしたらさ、もしかするとよ。それってゾンビかもしれないぜ?」

この言葉の直後、

糸がはち切れたように笑った。

「なんだよ、脅かすなよ」

「ウォーキングデッド?俺撃たれんの?」

大声に笑い声が混じり、

店内がより一層騒がしくなった。

たまたまその時、悠介と目があった。

「なあ、直?」

咄嗟に彼に目を向けると彼はこう言った。

「俺がもしゾンビになったら、

お前が殺してくれよな」

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