第2話 洞窟暮らし
(と言う訳なんだよ、お嬢さん)
(要するにカイトは間抜けなんだね)
石畳に転がったナッツを、四つ足になって拾いながら籠に入れる少女。
(君は俺が怖くないのか?)
(……不思議と怖くない。何でだろう?)
また一つナッツを拾い、籠にしまいながら少女は首を傾げた。もしかしたら神様が俺が転生しやすい体を選んでくれたのかもしれない。
(多分、一人で寂しい私を神様が選んでくれたからだよ)
そうかもしれないが――。
(君は一人なの?)
まだ年端もいかない女の子が一人? 親や兄弟は?
(うん。私、親無し子だから)
(親無し子?)
(小さい時に捨てられた子が親無し子だよ。だから私は一人なの)
な、なんて酷い世界なんだ。しかし……。
(孤児院とかは無いのか?)
(孤児院はあるけど、あそこは親が孤児院に預けた子だけが入れるの。だから私は入れないし、私みたいな子は沢山いるよ)
チャウシェスクの落し子かよ。歴史の教師が雑談で話していたルーマニアの孤児問題を思いだした。
(それじゃ君はどうやって……)
って、なるほど。この子はナッツを売って生計を立てているのか。
(ナッツは売れているのかい?)
(ううん。今日は売れてないよ。昨日も、その前も、そのその前も、そのそのその前も、そのそのそのその……その……)
少女の瞳が少し涙目になってきたのが分かる。
(あ〜、分かったよ。つまり全く売れてないんだね)
(……うん)
全てのナッツを拾い上げた少女は肩を落としながら立ち上がった。溢れかかった涙を汚れた服の腕で拭う。
(ア、アンナは泣かないよ! お日様に笑われちゃうからね!)
……健気な子だ。俺はこの子を助けたいと強く思う。
(売り方を少し変えてみたらどうだ?)
(売り方?)
アンナと名のった少女はコトンと首を傾げた。
フフフ、ここはお兄さんが人肌脱ごうではないか。
◇◇◇
(アンナはここに住んでるのか?)
(うん)
今日のナッツ売りは早々に引き上げて、アンナの住まいへとやって来たのだが……。
(洞窟だな)
(うん。洞窟だよ)
あの後、アンナは街を出て森の中へと入って行ったので、少し嫌な予感がした。
アンナが岩石が見える山肌にあるブッシュを退けて現れたのは小さな洞穴。子供だから入れるサイズの洞窟だから熊とかが住み着く可能性は低そうだが……。
洞窟の中には山積みの枯れ草があり、淵の欠けた木の皿と取っ手の欠けた木のコップがある。剥き出しの岩面の壁の下には割れた瓶が幾つか並んでいた。
(あれは何だ?)
俺が言うとアンナは壁側に歩いて瓶の中を覗いてくれた。中には水が張ってあり、殻を剥いた緑色のナッツが入っている。割れた瓶の数は全部で四つあり、全部がそうだった。
(ナッツは固いから水に三日漬けてから食べるんだよ)
なるほど。茹でたり炒ったりはしないのか。洞窟の中に火を使った形跡はない。
(火は使わないのか?)
(うん。火種がないから)
この世界にどういった火種があるかは知らないけど、子供一人で火を扱っていないのはある意味で正解だ。山火事とか怖いからね。
アンナは瓶の中のナッツを掬い上げて口に入れる。柔らかいピスタチオって感じの味だ。
(毎日、これを食べているのかい?)
(葉っぱも食べてるよ)
(生で?)
(うん)
食べられる野草は日本にもある。ヨモギやペンペン草なんかは有名な野草だ。しかし、湯通しもしないで食べるとかハードモードな生活だ。
するとアンナは走り出して洞窟の外に出た。なんかとても楽しそうだ。
(アンナは、何で笑っているんだ?)
(カイトとお話が出来るから!)
小さな女の子が一人で暮らしていた。神様はアンナの話相手に俺を転生させたのかもしれない。
アンナが来たのはナッツの木。緑の葉が茂る中に木の実が見える。木の下には枝から落ちた木の実が幾つか落ちていた。
(これがナッツの木だね)
(うん! もう少ししたら沢山のナッツが落ちてくるよ)
いわゆる実りの季節ってやつだ。しかしナッツが沢山あってもアンナには売り切る事は出来ないだろう。
(街の人はナッツを食べないの?)
水でふやかしたナッツでもそれなりに美味しかった。殻ごと炒って殻を割って食べたらピスタチオみたいに美味しいと思うんだけどな。
(分からないけど、誰も買わないよ)
アンナが売っているこのナッツがマイナーなのか? 歴史の授業で縄文人の主食はどんぐりだったと習ったし、現代ではピスタチオやアーモンド、木の実ではないけどピーナッツ。スタンダードな食べ物だと思うけど、この世界では違うのかな?
(そう言えば、『家畜の餌なんか食えるか』って言われた事があったよ。ナッツ、美味しいのにね)
家畜の餌か。確かにどんぐり等は動物の食べ物だけど……。つまりは食わず嫌いって事か?
それなら色々と売り方があるかもしれないな。
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