砂漠を渡る者

麝香連理

第1話

「ミト、水はもういいのか?」

 相棒である馬に声をかけた青年──ルマは頭を擦り付けてきた相棒の頭を優しく撫でる。

「それじゃあ行こうか。」

 青年と馬は歩き始めた。

 水平線まで続く、黄色い砂に覆われた砂漠地帯を。





 ここはステミール王国。

 大陸随一の土地を有するも、その大半が気候により砂漠化しており、身寄りのないルマにとってはこの砂漠が家であると言える。


 現在は平和となっているが、数年前までは海を越えて砂漠地帯から侵攻してくる者達がおり、それによって砂漠地帯を根城にしていた遊牧民の大半は亡くなってしまった。

 ルマもその遊牧民の出身であり、数少ない生き残りでもある。

 しかしだからこそ、都市部の人々からは冷ややかな視線を向けられ、定住できぬと悟ったルマは相棒と共に砂漠地帯のオアシスを巡りながらたまにすれ違うキャラバンと水と食糧の物々交換で辛うじて生き永らえている。


 ルマにとって、食事の優先度は低い。もちろん食べなければ餓死するだろう。しかし、生きる希望が僅かほどしかないルマには苦ではなかった。

 残りの人生を相棒のミトと共に過ごす。たとえ砂漠で野垂れ死のうとも、これがルマにとっての最大の幸福だった。








「ミト?」

 しばらく歩いていると、ミトが止まった。

 ルマは先を行こうとミトを見つめるが、ミトは待てと言わんばかりにその場を大岩のように直立している。

「分かったよ。」



 しばらくその場で待っていると、遠くからキャラバンの列が見えた。

「ミトはホントに勘がいいな。」

 ルマが感心したようにミトの身体を撫でると、ミトの荷物から水を取り出す。







 ルマが片手を上げ、それに気づいたキャラバンが止まる。ラクダを操っていたのは五十を越えた辺りの男だった。

「なんだ?」

「あんたら、水は足りてるかい?オアシスで掬った水だよ。」

 革袋の水筒を掲げ、水の音が聞こえるように左右に揺らす。

「……おぉい!!水の確認をしろ!」

「へい!」


 キャラバンが慌ただしく人が動くと、後方から走ってきた若い青年が耳打ちをする。

「……そうか、三つあるか?」

「あぁ、ある。」

「代価は?」

「食糧だ。金でも良い。」

「よし、なら金だ。銀貨六枚だ。」

 男は懐から見せるように銀貨を六枚出した。

「安い。金貨三枚だ。」

「な!?………てめぇ、商人を舐めてんのか?」

 男は青筋を経てて表情を険しくする。

「そんなことはないさ。ただあんたら、ツヅリ港まで行くんだろ?こっからは大分距離もあるし、あんたら新参だろ。途中で水が足りなくなるぜ?」

「…………なぜわかった?」

「この向きはどう考えてもだろ。逆に何があるってんだ。それと、荷物が多すぎる。慣れてる奴は荷を絞って利益を得てる。費用が嵩んで赤字になるからな。ま、何事も経験ってことだ。」

「……………降参だ。金貨六枚、これでいいか?」

「情報料、銅貨五枚。」

「ケッ!良い性格してるぜ!」


 男は悪態をつくも、しっかりと金を払い水を受け取った。



「さ、行くかミト。」

 ルマがミトの身体を撫でると、ミトはゆっくりと歩き始めた。それに合わせてルマも移動を始めた。

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