第17話 誘われたからこそ気が付けたご主人様の良い所

「準備が出来たようだね。ならこれを、つけておいて欲しい」


 そうして、ご主人様から受け渡されたのは、御剣家の支配する領土で咲くと聞いた桜の花を模った髪留めだった。


「これは……」


「お守りみたいなものだ。ここにいる間は、付けておいて欲しい。それがある限り君を守ってくれる」


「お守り……」


 私は受け取った桜の髪留めを見る。


(お母様も花の髪留めをプレゼントしてくれましたね)


「来たよ!お母様!!」


「リオナ、来てくれてありがとう。今日は、プレゼントをあげようと思って、はい、これ」


 そして、お母様が渡してくれたのは、とても綺麗な花を模った髪留めだった。


「わあーー!!とても綺麗!!!ありがとう!お母様!!!」


「ふふ、喜んでくれて嬉しいわ。リオナ、こっちに来て、付けてあげる」


「うん!お願い、お母様!!」


(お母様……)


 わたしは、今も大切につけているお母様がくれた前髪に使う髪留めを触る。


「うん?ああ、被ってしまったか」


 私が髪留めを触ったことで、ご主人様は似たような髪留めを渡してしまったことに気がつく。


「綺麗な髪留めだね。よく手入れが行き届いている。これと比べると、僕のは色々と見劣りしてしまうね。変えるかい?」


「え、いえ、大丈夫です!」


 私は慌てて、お母様にもらった髪留めの下に、ご主人様から貰った髪留めをつける。


「その、似合ってますか?」


「美しいといった感じが増して、とても似合っているよ」


「あ、ありがとうございます。それと髪飾りを褒めてくれてありがとうございます。大切なものだったので、とても嬉しかったです」


 不思議な気分だ。


 髪留めも容姿も、よく褒められるのに、こうも気持ちが突き動かされることはなかった。


 何が違うのだろうか。


 私には分からなかった。



「これから、外に出るけど王女のメイドではなく、僕のところのメイドの設定で行くからよろしくね」


「分かりました」


 ご主人様が、一人のメイドために動いている事実は色々と問題がある。


 なので、ご主人様の付き添いをしている形にしたいのだろう。


 メイドが主に付き添うことは普通なのだから。


 そうして、ご主人様に付き添う形で門の外に出た時だった。


「おやおやおや、海斗様じゃないですか!!」


「ドクナイか、相変わらずタイミングだけはいいね」


 ご主人様からドクナイと言われたら、帽子と肩掛けバッグを背負った細身の青少年がこちらに走ってくる。


「いやー、僕、運だけはいいですから。ところで今からお出かけで?」


「まあ、そんな感じだね」


「ふむ、何処へ行くとかは教えてもらったりは?」


「今回は、ダメだね」


「ありゃりゃ、残念残念」


 ご主人様とドクナイさんは、とても気軽に話す。その光景に、私は驚いていた。


 ご主人様はかなりフラットな性格なのは、わかっていたけど平民に対しても友達みたいに接するのはかなり例外なことだ。


 第一王女として数多くの人と接してきたが、ご主人様のようなタイプは初めて。


(ご主人様と私は同い年なんですよね・・・・・)


 楽しそうに話す光景を見て、同じ人を導く立場として、そして人間としてとても差があると感じた。


 このような差を感じるのは、別に初めてのことではない私よりも凄い人なんて多くいるのだから。


 同い年の中でも、私に並ぶもしくはそれ以上の人だっている。だけど、ご主人様から感じる差とは違う。


 楽しそうに喋るご主人様達の姿が、何処か輝いて見えた。


(もしも、ご主人様がお母様の子であったのなら、私なんかよりて、痛い)


 いきなり魔法によるデコピンをされた私は、デコピンをした張本人であるご主人様に非難の視線を向ける。


「何をするんですか、ご主人様」


「いや、まあ、下向きなこと考えてそうだったから」


「う……」


 ご主人様の言うとおり、また下向きなことを考え始めようとしていたので、私はバツが悪くなる。


「ダメですよ、海斗様。こんな可愛いメイドを虐めたい気持ちは分かりますが、実際にいじめちゃ」


「虐めてないよ」


「そうなんですか?と言うか、自己紹介を忘れてましたね!」


 二人の関係など、知らないことが多すぎて置いてけぼりになっていた私に気がついたドクナイさんがこちらを向いて、自己紹介をしてくれる。


「僕は、ドクナイです。見習い記者をやっています。どうぞよろしくお願いします。美しい髪留めをしているメイドさん」


 爽やかな笑顔をドクナイさんはこちらに向けてくる。


「ありがとうございます。ドクナイ様。海斗様のメイドを務めさせて頂いているメアリーです。どうぞ、よろしくお願いします」


 いつもやっている第一王女として相応しい作り笑顔で対応する。


「お、ガード硬いなーー。流石、海斗様のところのメイドですね!!」


「いや、褒めたら許されるわけじゃないからな?何狙ってるんだよ」


 ご主人様はドクナイさんを軽く叩く。


「ごめんなさい、海斗様ーーー!」


「おい、ちょ、逃げるな」


 ドクナイさんは、素早く危機を察知して、足早とここから立ち去る。


「あはは……」


 私は苦笑いしながらその様子を見る。


(平民にもいるのですね。ああ言ったタイプの人は)


 第一王女という立場もあって、様々な方法で誘惑してくる人は多くいる。


 顔の良さを活かして、それっぽい褒め言葉で堕とそうとしてくるのは、よくある手段の一つだ。


(そう言えば、ご主人様は一切そんなことをしなかった)


 会った時から、ご主人様は必要以上に好感度を稼ごうとか、よく見せようともしてこなかった。


 短い時だけど、ご主人様は、相手にとってそれが必要だと思ったことをしていている印象が強い。


 私が恥じらいもなく大泣きした後の、荷解きや、私の為に部屋、フワフワ気持ちいいタオル、肌触りの良い服など色々な事を、嫌な顔をすることなくしてくれた上、そのことについては一切触れることもなかった。


 まるでやるのが普通だと思っているかのようであり、事実一切そのことに触れることすらなく、本人も気にしていなかった。


 上手くやれば、それなりに自分を良く見せることができたはずなのに。


(あ!そう言えば私、まだお礼を言えていない)


 振り返ってことによって、お礼を言っていないことに気がつく。


 あの時は気が動転していたことと、ご主人様が一切気にしていないこともあって、完全に忘れてしまった。


(今更気がつくなんて、やっぱり私……)


 なんてダメな人なんだろうと思う前に、ご主人様のデコピンのことを思い出して、ギリギリで踏み止まる。


 そして、ご主人様の方を見る。


「あいつ、逃げ足だけは早いんだよな」


 ご主人様は、路地裏に逃げ込んだドクナイさんに対して、私もいることもあってか、深追いすることなく、呆れた感じで逃げ去る背中を見ていた。


(あ、危なかった)


 もし隣にいたら、デコピンされていたかもしれなかった。


 私のことを気遣ってからか、あまり痛くないのですが、やはりいきなりされることもあって、毎回それなりにドキッとする。


 そして、諦めたご主人様がこちらに戻ってくる。


「もう気が付いたかもしれないけど、威厳とかその辺りが僕には一切ないから、多分この後もあんな感じで絡まれると思う、その時は今回みたいに適度に対応して欲しい。


 まあ、さっきのが一番ヤバい方だから、そこまで警戒する必要はないと思うけど」


「あ、はい。分かりました」


 ご主人様の発言から、ドクナイさんが特別ということもないようだ。


「ちょっと邪魔が入ったけど、最初の場所に行こうか」


「あの!」


 目的地に向かおうとするご主人様を私は呼び止める。


「荷解きなど、私の為に色々してくださり、ありがとうございます。お礼を言うのが遅れてしまい、申し訳ございません」


「どういたしまして。役に立てたようで嬉しいよ。ただ、あまり気にしなくていいよ?やると決めてやったことに過ぎないから」


 ご主人様の優しい表情をして応える。その姿を見て、私はお母様の面影を感じてしまう。


「どういたしまして。リオナに喜んでもらえて、私、嬉しいわ」


(お母様……)


 どうしてこうも、ご主人様にお母様の面影を感じるのか、私には分からない。


「他に言うこととかない感じかな?」


 ご主人様の言葉に私は頷く。


「それなら、行こうか」


「はい、ご主人様」


 そうして、改めて私達は街の視察へと向かった。

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