第29話 キューマのお仕事

「やれやれ、源十郎と凛子とやら、勝手に話を進めてもらうのは困るね。キューマの所有権はボクにある。そして彼の伴侶となるシアについても同様だ」


 ベルグリムスが赤ワインを飲みながらシアママとシアじーじに対して宣言する。


「ふむ。ベルグリムスとやら、わしは敵対するつもりは毛頭ない。むしろ全面的に協力するつもりじゃ。この日本において大抵のことは推し通せる立場にあるしの。カカカ」


「違うよ。あぁ、違うね。そうじゃない。ボクからするとキミは調子に乗りすぎてるクソガキに見えてしまう。口の利き方には気を付けたまえ。ボクは紳士ではあるが、優しくも甘くもないからね」


 ベルグリムスからむせ返るほどの殺気が放たれる。みんなの顔が引きつり、壁際に立っていたSPや使用人たちの中には腰を抜かすものも出るほどだ。

 そんな中シアじーじは不敵に笑う。


「……カカカカカ。クソガキ、か。愉快愉快。確かにちと調子に乗りすぎていたかも知れんの。気に入らんかったらいつでも殺すがいい。おぬしから見ればクソガキでも、人間八十年、畜生道で背負った業があるゆえに曲げられない意地があるのよ」


 シアじーじは一歩も引かず、堂々とベルグリムスに対してそう言い放った。


「ふむ、そちらのお嬢さんはどうかな?」


「あら、お嬢さんって私? うふふ。私は当然弁えているわ。ただ、そうね。私は理想を生きる一人の女だけど、その前に愛する娘を守る母よ。あなたがウチの娘を使ってよからぬことを企んでいるなら全力で抵抗するわ」


 シアママがウフフと笑いながら胸の前で拳を合わせる。なんか急にバチバチモードになってきたんだが、やめてほしい。シアパパなんてハラハラしながらオロオロしてるじゃないか。


「似たもの親子というわけか。キューマ、上司命令だ。ボクの殺気を受けてそこまで言い退ける胆力に免じ、今回は許そう。だがもう一度言っておく。お前たちが欲しがってるキューマとシアはボクのものだ。そしてボク自身は人間ごときに支配されるつもりは毛頭ない」


 チラリとベルグリムスの頭を見る。確かに毛頭どころか毛根すらないな。うん。


「「…………」」


 シアじーじとシアママも一歩も引かずに堂々としてはいたが、流石にこの直後に何か言うつもりはないようだ。


「もぐもぐ。ね、キューマ、このお肉すごく美味しいよ。おかわりしていいかな?」


「あぁ、シアの実家なんだからいいんじゃないか?」


「ん。じゃあおかわり」


 焼きたてのステーキが運ばれてきて、シアのモキュモキュという咀嚼音が響く。おい、ベルグリムスどうすんだよ。この空気。


「キューマ、暇そうだね。じゃあ仕事をあげよう。ボクらはいずれ海外のダンジョンも荒らし、ネームドを解放していく必要がある。その協力をここにいる者から取り付けてくれ」


「え。あ、あぁ。分かった」


 チラリと荒木さんを見てみる。目を閉じて天を仰いでる。いい大人がガチで隠れみの術をしているようだ。

 さて、どうしたものか。


「まずは何て呼べばいいかな。ひとまず俺の呼びたい呼び方を言ってみると、鷹宮さん、お義父さん、お義母さん、じーじ、かな? どう?」


「ぐぬぬぬぬぬっ」


 お義父さんと呼ばれるのは非常に不服そうなシアパパ。だが、シアママとシアじーじの手前キレれないでいる。おもろ。


「私はそれで構わないよ。葉山君」


「えぇ、私もそれで構わないわ。久馬くん」


 総理とシアママは表面上は快諾、と。じーじはどうかな?


「ふむ。キューマ、お主がそれでいいなら、わしは構わんが、それ相応の覚悟はせぃよ?」


「おーけーだ。じゃあ、じーじ、これからよろしく」


 俺は右手を差し出す。その行為を皆が目を丸くし、固唾を呑んで見守る。


「カカカカカ、ええじゃろ。気に入った。長生きはしてみるもんじゃの。じーじと呼ばれる日が来るとは思わんだから、先を見る力もまだまだじゃの」


 じーじと笑顔で握手を交わす。


「というわけでまぁ家族のよしみってことで海外での活動もフリーにできない?」


「ふむ。凛子なんとかしてやれ」


 じーじからお願いをされ驚いた顔になるシアママ。


「ッフ。まさかお祖父様から頼みごとをされるなんてね。明日は雪でも降るのかしら。さて、久馬君。可能性があるとすればフランスよ。シアと結婚したことによってフランスでなら強引に押し通せる可能性があるわ」


「ベルグリムス、フランスだって」


「ふむ、いいね。ヤツら・・・は、ボクの派閥の部下たちを遠くへと配置するよう必死だったはずだ。遠く離れたフランスの地でなら可能性はある」


「よし、じゃあお義母さん、よろしくお願いします」


「えぇ、分かったわ」


「ぐぬぬぬぬぬぬっっ」


 シアパパは今にもこめかみの血管ブチギレそうだし、唇が焼きすぎて割れそうなウィンナーみたいに歯を食いしばってるし、ちょっと煽ったらなんかが破裂しそうだ。


「じゃ、お義父さん、娘さんは幸せにするんで、俺に下さい」


「ゲボハッ」


 あ、破裂した。








あとがき

お久しぶりです。

お待たせしてすみません。

ちょっとずつまた更新できたらなと思います。

新作も書いてみたので、こちらとまったく違う雰囲気ですが楽しんでもらえると幸いです。

であ

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