その騎士が聖剣を折った理由

水瀬

第1話 彼女との出会い

 嫌な予感はしていた。

 剣の練習をしたいのに両親に引きずられて神殿に連れて来られ、そこで光魔法の適性が出た時から頭の中で警報が出ていた。

 案の定、その予感は当たっていた。


「アラン、お前は珍しい光魔法の適性がある。練習頑張るように」

「愛しているわ、アラン。会いに行くからね」


 父が光魔法の練習に勤しむようにと言い、母が抱きしめる。

 そして両親は俺を神殿に置いて馬車に乗って去って行った。



 ***



 俺、アラン・ラザフォードは帝国のラザフォード伯爵家の次男として生まれた。

 剣の才能があった俺は帝国騎士になりたいと思っていた。

 そんな俺の人生設計が狂ったのは八歳の時。属性を調べるために神殿に訪れて光魔法の適性が判明してからだ。


 この世界には魔法があり、火・水・風・土・雷・光の六つの属性があって、中でも光魔法は希少だ。

 そして光魔法の適性がある人間は神殿で暮らすことが決まっていて、神官か神殿騎士になることを望まれる。

 

 つまり、光魔法の適性がある俺は帝国騎士になるのが難しいということだ。


「俺は帝国騎士になりたいんだぁぁぁ!!」

「まだ言ってるの?」


 叫ぶと友人のリンデンが苦笑いを浮かべる。

 リンデンは俺と同じ年で、侯爵子息だ。同じ年と言うこともあって部屋も同室だ。

 

「神殿騎士もあるんだからそれ目指したら?」

「俺は帝国騎士になりたいんだよ! 帝国騎士の方がカッコいいだろう!」

「どっちも同じじゃない?」


 首を傾げるリンデン。どうやらリンデンには俺の気持ちが伝わらないようだ。


「光魔法の適性がなんだって言うんだ。俺は帝国騎士諦めないからな!」

「じゃあ頑張りなよ。応援するよ」


 俺の決意にリンデンが後ろからそう投げかけた。




 ***




 そうして神殿で暮らして三ヵ月経った頃、あいつと出会った。

 

「アラン、リンデン。彼女はベルティーユだ。デリア伯爵家のご息女で今代のだ」


 神官長から紹介されたのはそいつは赤い髪が印象的で、今代の聖女らしい。

 

「ベルティーユ・デリアと申します。よろしくお願いします」


 礼儀正しく挨拶するそいつを見て一目で分かった。

 俺と真逆の性格で馬が合わない、と。


 その予感は当たっていて、俺と物静かで礼儀正しいベルティーユは見事に反目し合っていた。

 講義で居眠りをすると注意し、木に登って掃除をサボると探し出して箒を渡し、嫌いな食べ物を残そうとすると世話役の神官に報告するなど真面目なベルティーユはいつも俺に突っかかってきた。

 そうなればいつも喧嘩に発展してリンデンがいつも仲裁に入っていて、ベルティーユこいつとは一生仲良くなれないと思っていた。


 それが変わったのはベルティーユと出会って一年経った、九歳のある日。

 希望者だけが参加する剣の訓練が終わってもベルティーユは一人残って訓練に勤しんでいた。


「…………」


 素振りをする姿を遠くから見る。

 正直、ベルティーユは剣の才能がない。なのにベルティーユは毎日剣の訓練をしている。

 無駄なことしていると思う。才能がないのは本人だって分かっているはずなのに、一日も欠かさずに訓練に勤しんで。


「何してるんだ? あいつ」


 呆れながらベルティーユの元へ足を進める。


「お前、何やってるの?」

「! ……アラン様」


 こっちに気付いたベルティーユが金色の瞳を広げて素振りを止める。

 回りくどいのは嫌いなのではっきりと告げる。


「自分でも分かってると思うけど、お前、才能ないよ」

「っ……」


 はっきりと才能がないと伝えるとベルティーユが唇を噛み締める。


「だからやめたら?」

「……それはできません」

「へぇ? 神殿騎士目指してるって?」


 抵抗するベルティーユに片眉上げて尋ねる。

 どうせ興味本位で始めたのだろう。俺みたいに、本気で帝国騎士になりたくて練習しているんじゃないのだから。


「いいえ。でも、私は聖女で聖剣の担い手ですから」

「……聖剣?」


 予想外の返答が来て繰り返すとベルティーユが眉間に皺を寄せる。


「聖女は聖剣の担い手ではないですか」

「いや、それってただの言い伝えだろう?」

「……はぁ、いつも講義を居眠りしているからそんなこと言うのです」

「うぐっ。し、仕方ないだろう眠くなるんだから!」


 痛いところを突かれて大声で言い返す。俺は座学が苦手なんだ。

 言い返すとベルティーユが説明する。


「……聖女は帝国の守護者で先代が亡くなれば十年以内に新たな聖女が生まれるのは知ってますか?」 

「それは……知ってる」


 ベルティーユの問いに頷く。神殿に来た頃、教師役の神官がそんなこと言っていた気がする。

 ベルティーユの先代に当たる聖女は俺が生まれる前に亡くなっているので会ったことない。


「聖女は並外れた魔力と光魔法の適性を有します。そして、聖女は聖剣を持っています」

「つまりお前が?」

「信じられないのならご覧になりますか?」


 そう言うとベルティーユが練習用の剣を鞘に収めて手を広げる。

 すると──どこからかキラキラと黄金の粒子が発生し、ベルティーユの手に白銀の剣が現れる。


「は?」

「これが聖女のみ行使できる聖剣です」


 軽々と片手で聖剣を持ち上げるベルティーユにあんぐりと口を開ける。……これが、聖女が持つとされる聖剣?

 そしてその剣身と柄の素材の素晴らしさに気付いてしまったらもう、興奮を止めることできない。

 

「すっげー! これかなりいい素材でできてるじゃん!!」

「神代にできたと言われてますからね」


 興奮する俺にベルティーユが静かに告げる。神代の産物だからこんなに素材がいいのか。


「なぁ、少し持ってもいい?」

「いいですが──あ」

「あんがと! ──ってうわ!?」


 許可を得てベルティーユから聖剣を借りるが、その重さに驚いて身体がふらつくのを堪える。


「な、なんで重いんだ? お前軽々と持ってたじゃん」

「それは聖女が正当な使い手だからです。他の方からしたら重いようですが、私たち聖女からしたらスプーンのように軽いんです」


 そして俺から聖剣を取り返すと軽々と持ち上げる。


「聖剣を唯一行使できる聖女は魔王が現れた時に倒す役目を有してます。だから私は聖剣を使いこなせるように練習しないといけないんです」

「……手にまめができても?」

「はい」


 俺の問いにベルティーユが当たり前のように頷く。

 講義を居眠りするサボり魔の俺でも、ふんわりとだが知っている話がある。

 それが魔王と聖女の戦いだ。


 数百年ごとに現れる魔王は、魔物を凶暴化させて町や人々を傷つける。

 そして、そんな魔王を倒せるのは聖女のみということ。


「…………」


 ベルティーユは聖女だ。真面目なベルティーユは自分の代に魔王が現れても大丈夫なように備えているんだろう。

 苦手な剣の練習も欠かさずに、手にまめができても。


「……光よ、力を貸したまえ。傷を癒やせ」


 光魔法を唱えてベルティーユの手のまめを治癒する。


「アラン様……?」

「そんな状態で練習しても上達しない。それと、軸がズレてる。剣はこう持つんだ」

「え、えっと……」


 戸惑うベルティーユを無視して姿勢、剣の持ち方について助言する。

 困惑しながらも俺の助言に真面目に耳を傾ける。 


「これでちょっとはマシになったな」

「あ、ありがとうございます」

「別に。お前がちゃんとした理由で練習しているからな。……悪かったな、才能ないなんて言って」 

「アラン様……」


 気まずくなって顔を背けながら謝る。

 思えば、ベルティーユとは喧嘩ばかりでまともに会話なんてしたことなかったなと今更ながら思い知る。

 そんな奴からの突然の謝罪。どう思うのだろうかほんの少し不安になる。

 だが、そんな俺の不安は杞憂だった。


「……いいえ。治癒とご指導ありがとうございます」


 感謝の言葉を紡ぐベルティーユは嬉しそうに笑っていて、息を呑んでしまった。

 一年間、毎日顔を合わせてきた。喧嘩もたくさんしてきた。

 だけど、今日のベルティーユはなぜかいつもと違って見えた。

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