第10話 だが希美は許すッ!!
どうやったら希美を幸せにできるか。
どうやったら希美の一番を取り戻せるか。
考えるべきは、それだけだ。
同時に俺は、一つだけ救われた事実があった。
希美にどちらを選ぶか尋ねた時、彼女はすぐに俺だと即答してくれた。
自己弁護のために反射的に言ったのだとしても、それはそれで構わない。
迷うことなく言葉にしてくれたことが、何よりも重要なことなんだ。
さっきも言ったが、希美の言葉が彼女の心からの本音であることを確かめるには、この先ずっと彼女と同じ時間を過ごすことでしか分からない。
ここで
それはお互いを不幸にしかしないはずだ。
「確かに希美は被害者から始まった。でも、自分から加害者になった。一番最初にレイプされた時に、俺に相談するべきだった。警察や弁護士に相談したり、親に相談したり、被害届を出したり、できるべき選択肢はいくらでもあった筈だ」
「はい……その通りです」
「でも君は加害者となった。経緯はどうあれ、それは許されることじゃない。そのことに関して、俺は非常に怒っているし、嫌悪している。希美の言うとおり、さっさと別れてしまいたい気持ちが無かったと言えば嘘になる」
「……はい。分かってます……」
罪の意識に苛まれたのだろう。
彼女の目尻には再び大粒の涙が零れそうになる。
だが、すぐに閉目して、『どんな制裁でも受け入れます』と。そのように呟いた。
だからこそ、俺はこの言葉を口にすることができる。
「だが希美は許すっ!!」
「えっ……!?」
「例え、他の人が全員、希美を有罪だと言っても、俺は全てを『赦(ゆる)す』。無論、俺はそんなエラそうな事を言える立場じゃない。希美の苦しみに気がつく事すらできなかった大馬鹿野郎だ」
「そんなことっ」
「あるよ。だって一番傷付いてるのは希美じゃないか。俺のプロポーズを嬉しいと言ってくれた。それを心から喜んでくれていることは、俺にも分かる。俺は、希美が一番幸せになれる形を実現したい。そして、それを実現させるのは俺自身でありたいと思ってる。性犯罪者なんかじゃ、絶対にないッ」
「はい、私も……もうアッ君以外の人に、身体も心も渡したくないです。本当にごめんなさい……自己保全しか頭になくて、本当に大切な事から、目を逸らしてた」
「それで言うなら、俺は悔しい。希美の幸せを願うと言いつつ、それを叶えるのは俺自身でなきゃってプライドがあるんだ。君を世界で1番幸せにできる男は、俺だけだと思ってる。そうでありたいって、これまで努力してきたつもりだ」
「嬉しい……、凄く嬉しい……。私……本当に馬鹿だった。どんなに謝っても許される事じゃない。流されたとしても、脅されてたとしても、最後に自分から抱かれに行くと選んでしまったのは私自身だから……でも……それでも、身勝手なのは分かってても、アッ君と一緒に居たい……それが、今の私の、心からの本音です」
「分かった。だからこそ、俺は一番じゃなくなってしまった身体のパートナーとしての立場を、取り戻す努力をしたい」
「アッ君……。ごめんなさい……、傷付いたよね」
「ああ。だが、ちっぽけなプライドさ。比べたって良い。俺はその全てを越えてみせるから。繋がりの原因が身体の快楽なら、俺がそれを与えれば何も問題ない筈だ」
先ほども言った言葉を、もう一度繰り返して彼女に聞かせる。
「いいの? 私、許されない事したのに」
「一つ聞きたい。希美は、その男を庇いたいと思う? 好きな気持ちに未練はあるか?」
俺の問いかけに、希美は強く首を横に振った。
「いいえ、憎いです……。確かに傾きかけていたし、もう言われるがままに犯され続けた方が楽なんじゃないかって、思ってしまっていました。自分の事を棚に上げてしまうことになるけど、アッ君だけの筈だった私を汚したあの人を、許したくありません。殺したいほど憎いです」
「なら、問題無い。許す許さないって言葉で飲み込めないなら、俺と一緒に幸せになること。それが希美に対する一番の罰だよ」
「アッ君……」
今度は、より強い想いを込めて、俺は希美に宣言する。
「言いにくい事でも、ちゃんと言って欲しい。俺は、そいつの何に劣ってる? いや、答えは分かってるか。テクニックもサイズの差も、全部だよね」
「う、うん……本当に、凄く大きかったし……上手かった。考えられないくらい簡単にイカされて……」
「肉体の条件は、今すぐにはどうしようもない。俺は自分のサイズに満足していた訳じゃないけど、初めての時から希美がそれでいいって言ってくれたから、大きくするような努力はしてこなかった」
「……私も、それで良かった……、十分幸せだった。子宮の奥にある快感なんて、知りたくなかった」
「だけど希美は知ってしまった。その事実はもう変える事ができない。そこにハマってしまったのが原因なんだから、いつかなんとかしなきゃいけない。だからまずは実践だ。君を抱く。今から、俺の持ってる全部を使って愛して見せる」
「アッ君……私の為に……」
「しばらくは不満足かもしれないけど、それでも良い?」
俺の問いかけに、希美は何度も首を縦に振った。
「それでも足りないところは、必ず越える。サイズがなくたって、なんとかなるさ。できる事はいくらでもある。どうしてもダメだったら手術でもなんでもするさ」
「ありがとう……本当にありがとう。私も努力する。受け身になりすぎてた自分を、捨てる。必ず変わってみせるから。アッ君と一緒に……そう、一緒に気持ち良くなれるように。私に足りなかったのは、きっとそういう事だから。いつもいつもアッ君に任せてばかりで……自分からは何もしようとしなかった」
ある意味で俺が悔しいのは、あの男が無理矢理だったとしてもそういう希美を引き出して、当たり前にさせたことにある。
言ってしまえば、俺は希美に尽くしすぎていたのかもしれない。
引っ込み思案な希美に無理をさせたくないと言いつつ、独りよがりなセックスをしていたのかもしれない。
「ああ。希美。これはお願いになるけど」
「うん」
「上書きさせて。希美の身体に染みこんだ汚いものを、全部追い出してやる。悪いけど、俺はその男を全否定するよ。希美がいくら好きだったとしても、希美の心を汚したそいつを、俺達だけの領域に土足で踏み込んで荒らし回った男を、俺は絶対に許さない」
「……はい」
「まずは決定事項として、その男は強姦の罪で訴える。証拠を集めて、徹底的に追い詰めて、二度と社会復帰できないように落とし前を付けてもらう。一切の手心は加えない。希美もちゃんと証言すること。それでいいね?」
「はい、分かってます」
「そして希美への罰だ。もう二度と、間違えないでくれ。成長すると誓ってくれ。正直なところ、君のやったことは頭がおかしいと
「はい。本当に、その通りです」
「俺の元からいなくなることは、罪の清算にはならないんだよ。逆なんだ。俺は希美を手放したくない。俺の側に居ることが苦しいなら、それこそが希美の罰だ。そのことを忘れずに、苦しみを味わうことが、何よりも重い贖罪になる」
「うんっ、うんっ……もう間違えない。分からなかったら、相談する……っ! アッ君を悲しませるようなこと、絶対にしない。……苦しいこと、辛いこと、ちゃんという。だから私も、償いをします。アッ君の言葉を、嘘にしないために、絶対良い奥さんになるからっ!!」
「ああ。もしもたった一言でもヤツを擁護するような言葉を使ったら、俺は希美を許せなかったかもしれない。それくらい君のしたことは罪深いんだ」
「うん、分かってる。私もあの人を許せる訳じゃない。もう間違えない。警察に証言します。どんなに辛くても、絶対に逃げないから」
「分かった。覚悟はある? 俺はその男を絶対に許さない。徹底的に潰す。君が好きになった相手をどんな手を使っても絶望のどん底にたたき落とす。そして希美の手でとどめを刺してもらう。自分の手でそいつを潰すんだ」
「分かってます。もう絶対に迷いません」
「頼むよ。だけど、君は俺への愛を優先してくれた。それだけで、俺は全てを許す努力をすることができる」
間違いは誰にだってある。
ここで希美を不貞を働いた浮気者として処断するのは簡単だ。
普通の感覚で言うなら、長い時間をかけて培った絆を、強姦魔に明け渡してしまう頭のおかしい女など気持ち悪い以外の何物でも無い。
他の男に心も身体も明け渡してしまった女など、気持ち悪くて抱くのは無理だ。
そう考えると思っていたのに……。
俺が出した答えは真逆だった。
俺は希美を抱く。自分の持っている全てをぶつけて、奪われてしまった領域の全部を取り戻すんだ。
もう俺達の時間を邪魔するものはいない。
2ヶ月で奪われたなら、1ヶ月で取り戻せばそれで済む話だ。
背丈はどうしようもないにしたって、体は鍛えればいい。
サイズがなくたってできる事は無限にある。
最終的にどうしてもダメなら手術でもして伸ばしてやればいい。
せいぜい2~3センチ程度の話らしいが、9センチより12センチの方ができる事は多い筈だ。
だけど、俺は自分のためにその選択肢を選ぶことは絶対にしない。
それは最後の最後で、希美がどうしても乗り越えられない時に取るべき選択肢だ。
まずは俺自身が努力で勝ち取れるスペックで奪い返す。
そうじゃなきゃ、俺は強姦魔の呪縛に一生縛れることになってしまう。
やってやるぜ。
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