幻覚
闇鍋
【本編】
実はこれ、ここだけの話なんだけど、聞いてくれる?
その男の手は酷い火傷でケロイドまみれ。
それを見ないふりをして、話を聞いた。
「実は俺の職業、年収1000万の指揮者なんだ」
直感で、ウソだと分かった。
そんなお金のある人が、うちのような田舎の安スナックに来るはずがない。
「信じてないでしょ?」
といって、男はコートのポケットからコンパスを取り出した。
「見て」
すると、コンパスは急にぐるぐると勢いよく回り出した。
目の前の突然の出来事に、女は驚いた。
でも、これって指揮者じゃなくて、魔術師?マジシャンなのでは?
「あー、お前は疑り深い女だな。違うんだよ、俺は風とか太陽とか雨、雪。そういった自然を指揮することが出来るんだ」
こいつ、あたおかだわ。めんど。
と女が思ったのを察したのか、黒服は卓を変えるよう指示だした。
女は待機室に戻った。
待機室には万年、指名の入らない大の不人気嬢がずっと携帯をいじってた。
営業ラインでも送ってるのかと思ったら、ちらっと見えた画面には「たぬき」と書いてあった。
携帯をいじっていたそのブスは、急に携帯から目を離し、こう口にした。
「スーパーのレジで行列をなしている人、あの人たち、みんな我慢してる顔してる。私にはわかる。」
「そして、レジの人ってバーコード読む機械、あのティラノサウルスみたいな形の機械で、ピッと商品を読み取るじゃない?」
「あの機械は絶対に私たちの心を読み取ってる」
あまりにも指名が取れないせいでか分からないが、その女の精神は崩壊していると感じ、めんどくさいので無視を決め込んだ。
この人気の取れないブスと、そこそこ人気もあって、それこそ一位にはなれないものの、毎月二位か三位にランクインしてる私と、いったいどちらが幸せなのだろうと、何故か考えてしまった。
私はいま、お金が欲しいから一生懸命お金を稼いでる。さっきみたいな詐欺師みたいな客の言うことも、話半分に聞きながら空気は壊さないように、次の指名に繋がるために耳を傾ける。
そんなストレスまみれの毎日を過ごす自分と、目の前の不人気のブス。
稼げるはずの夜の世界に飛び込んだはずなのに、酒のせいなのか、あるいは何らかの薬物を摂取したのか、はたまた精神が壊れているのか?それは分からないが、彼女は自分のインナースペースに耳を傾け、なんとか生きている。
「いつ人気が落ちるんだろう?」
「自分の商品価値は?」
「この仕事、いつまで続ければいいんだろう」
そんなことで頭を悩ませてた女からすると、まるでキチガイな譫言を繰り返すこのブスは、自分の中に幸せ生産装置を内蔵し、それを量産している。
自分はいま、頑張って貯金を貯めてるが、お金ですべてガ手に入れられることも出来ないことも知っていた。
しかし、金は裏切らないはずだ。
だから、貯金を頑張っているのだが、人はいつか死ぬことに気付いてしまった。
じゃあ、私が今やってることってなんなんだ?
むしろ目の前にいるブスは。幸せ量産装置をすでに脳に内蔵してるように見えた。
「◯◯さん、ご指名です。何番テーブルお願いします」
という黒服の声で、考えるのをやめた。
そして女は。仕事用の自分のキャラへと気持ちを切り替え、その指名してくれた客の元へ向かった。
カニの甲羅のような気色の悪い笑顔を浮かべる高齢者のジジイが私の顔を見ていた。
「こいつがわたしの指名した客なのね」
そう思って、その客の靴を見た。
すると、高齢者にありがちな裾の短いズボンから、真っ白でいかにもグンゼと言わんばかりの白い靴下が顔を覗かせていた。
その靴下は眩しく光っていた。
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