第33話 牢獄
広場を離れ、細い路地を抜けると、目の前に古びた城の門が見えた。
重厚な鉄製の門は、長い時を経て錆びつき、薄暗い影を落としている。
「ここが、彩音が言ってた城だよね。」
田中さんが呟く。
「地下室への入り口は、この庭のどこかにあるんだよな……」
俺たちは慎重に城の敷地内に足を踏み入れた。
敷地の中には誰でも入れるらしく、城の中に入るところに門番が2人立っていた。
石畳の上には、苔がびっしりと生え、風に揺れる木々の葉音だけが響く。
「まずは庭を隅々まで探そう。誰かに見つかるわけにはいかない。」
俺は声をひそめて言った。
田中さんも頷き、二手に分かれて探索を始める。
数分が過ぎた頃、俺の視線の先に、石でできた小さな扉が半ば草に隠れるようにして存在しているのを見つけた。
「田中さん、こっちだ!」
俺は駆け、扉の前でしゃがんだ。
鍵穴は古びているが、錠前はかかっていなかった。
ゆっくりと扉を開けると、ひんやりとした地下の空気が顔を撫でた。
「入るしかないな……」
田中さんも背後で息を呑む。
地下室は薄暗く、壁には古びた松明の跡が見える。
奥へと続く石の階段がゆっくりと下へと伸びていた。
——ドサッ
暗闇の奥、かすかな物音が聞こえた。
それは、俺たちの到来を知らせるように、静かに響いていた。
薄暗い階段を慎重に降りると、湿った空気が肺の奥まで染み込んでくる。
足元には小さな水たまりがいくつもできており、時折石壁に当たる水滴の音が静寂を切り裂く。
「気をつけて……誰かいるかもしれない。」
田中さんの声が震えている。
しかし、俺たちは止まらず進む。
階段の先に広がる地下室は、予想よりも広く、薄暗いランタンがぽつんと灯っているだけだった。
床には血のような赤い染みが点々と続いている。
「誰かがここで……倒れたのか?」
田中さんが唇を噛む。
その時、地下室の隅から物音がした。
「待て!」
俺が声を上げる前に、黒い影がこちらに向かって飛びかかってきた。
咄嗟に身をかわし、俺は手にしていた石のかけらを投げつける。
影は壁に激突し、うめき声をあげて倒れ込んだ。
「大丈夫か?」
俺が近づくと、そこには薄汚れた服を着た少年がうずくまっていた。
「君は…?」
少年は確かな眼差しで俺たちを見返した。
「俺は……エイジ。ここで囚われているんだ。助けてくれ。」
エイジの声はか細く、それでも切実さが伝わってきた。
「ここに、他にも仲間がいるんだ。城の中で捕まって、無理やり協力を強いられている。もし助けなければ……」
言葉が途切れ、震える手が膝を押さえた。
田中さんがすぐにその手を握り、優しく励ます。
「大丈夫、私たちが必ず助けるから。」
エイジは弱くうなずいた。
「でも気をつけて……一番奥にいる奴らは異常に強い。ギガーズの中でも、それなりの戦闘能力を持っている。」
その言葉に、俺たちの背筋が凍った。
「奴ら……一体どんな人なの?」
田中さんが問いかける。
エイジは少し間を置いて、暗い地下室の隅を見つめながら答えた。
「目は燃えるような赤。腕には無数の傷があり、誰にも負けたことがないと言われている2人組だ。」
俺は拳を固めた。
「でも今はここから脱出しなきゃ。外に知らせる方法はあるのか?」
エイジは小さく首を振る。
「通信手段はない。でもここを出て早く家族に会いたいんだ…!」
俺たちは互いに顔を見合わせ、決意を新たにした。
「よし、エイジ、俺たちが力になる。みんなを助け出そう。」
「それに、私たちの仲間もいるかもしれないからね。」
田中さんも力強くうなずいた。
地下室の闇の中、脱出と反撃への計画が静かに動き出した。
俺はエイジに細かく状況を聞きながら、周囲を見回した。
薄暗い地下室は湿気でじめじめとしていて、石壁には古びた鎖や錆びついた鉄具がかけられている。
「この先に、そこに囚われている仲間がいるんだろう?」
エイジは頷いた。
「そうだ。あそこには…俺以外にも、連れ去られた奴らがいる。けど見張りは厳重で、簡単にはいけない。さらに、一番奥にいる2人はクリーチャーを扱うことができるんだ。」
「了解。」
俺はエイジの言葉に身を引き締めた。
「クリーチャーを操る奴がいるってことは、戦闘は避けられないな……」
田中さんも小声で呟いた。
「でも、今は慎重に動こう。無駄な戦いは避けたい。」
地下室の奥へ続く通路は薄暗く、ところどころに蜘蛛の巣が垂れている。俺たちは壁に沿って、できるだけ物音を立てないように進んだ。
「見張りはどのくらいいる?」
俺が耳を澄ますと、遠くから規則的な足音が聞こえてきた。
「4、5人はいると思う。交代で見回っているみたいだ。」
エイジの声も緊張している。
「なら、見張りの位置とタイミングを見極めて、一気に抜けるしかないな。」
田中さんが地図代わりの記憶を頼りに道順を確認する。
「連れてかれてる仲間の居場所はどこ?」
「そこの全ての牢獄の中に人が入っていて、そのどこかだ。」
「了解。じゃあ、そろそろ助けに行くか…!」
その時だった。
———ジリリリリリリ
地下室のアラームが鳴り響いた。
「…行くぞ!」
俺たちはすぐに突入した。
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