第16話 甘樹果

???side


「本当にこんなところにいるのですな?」

「余、わからんナリ。」

「ここら辺には果物があるでやんす!」

「まぁその果物狙いでくるかもしれないでごわすね。」

「そうですな。来たらそこで思いっきりできるのですな。」


果物の実った木の前で黒い服をきた4人は軽く雑談をしていた。


次の日。



藤井side


ふと、太陽が口を開いた。


「メシ、食いたくね?」


これまで水は仲間が持っていた物を使用していたが、食料は飴やグミ程度しかなかった。

そのため、俺たちはみんなお腹が空いていたのだ。


「それな」

「WACUL(?)」


誰かが変な略し方をしたが、ツッコミを入れる余裕もない。空腹は、思考力を削る。


「カルミア、こっちの世界に食べられるもんってあるのか?」


太陽が問いかけると、カルミアはこくんと頷いた。


『ありますよ。ただし、人間の皆さんに適応するか、慎重に見極めが必要です。少々お待ちを』

「慎重って……毒キノコとかだったらどうすんの?」

「毒見係、決めとく?」

「いやそれ、最初に言い出したやつがやるパターンだよね?」

「俺!?」

「さんせーい!」

「まあまあ、カルミアが調べてくれるなら任せようよ」


と、田中さんが微笑む。


『この森の東に、“甘樹果”という果実の木があります。甘みがあり、栄養も豊富です。今の皆さんには最適でしょう』

「それだー!!」


全員のテンションが一気に上がる。


「じゃあ、探索班を出そう。俺、翔吾、齊藤、平井……は無理か。加藤さんと田中さんで行ける?」

「もちろん行くわよ。昨日の分、取り返さないとね!」

「残りはここで待っててね。」

「りょうかーい!」

「じゃあ『甘樹果』採りに行くぞ!」


こうして俺たちは、異世界初の採集に向かうことになった。

だがこの時、まだ誰も知らなかった。

甘樹果の前にはたくさんの試練があったと言うことに。



森の中は静かだった。

だが、耳を澄ませば、葉擦れの音や遠くのせせらぎ、風に揺れる枝のざわめきが聞こえる。


「……カルミアが言ってた通り、なんか甘い匂いがしてきたな」


俺が木の間をぬけながら呟と、先頭を行く齊藤が手をかざして目を細めた。


「見ろ、あれ……」


木漏れ日の中、ほんのりピンク色に輝く実が、重たげに枝から垂れ下がっていた。


「うわ……めっちゃうまそう……!」


俺らは実がなっている木に近づき、甘樹果を採ろうとした。

その時、木の後ろから4人組が現れた。


「だ…だれだ?」


俺はその人たちが着ている黒い服を見て、すぐにギガーズの人間だと思い、

ポケットから魂紙を取り出した。


「まぁまぁ、落ち着くでやんす。」

「余、悪者じゃないナリ。」

「そうでごわす。おいどんたちが悪者だと言う根拠はどこにもないでごわす。」


問い詰められるように言い返され、

俺たちは全員固まっていた。


「名前を教えてくれませんか。」


田中さんがそう言うと、怪しげな4人組のうちの1人が手を上げた。


「余のチーム名前…それは、……。。」


すると、4人は木の後ろに戻って内緒話を始めた。

なんか、別の意味で怪しくなってきたな…。

数秒が経ち、やがて4人組が現れた。


「ゲフンゲフン、では改めて余のチーム名を発表するナリ。それは、アルティメットナンバーフォー!通称AN4!」

「そのリーダーの太郎でやんす!」

「おいっ、リーダーはおいどんでごわすよ!」

「確かわいじゃなかったですな?」

「リーダーは余ナリ!」


そしてまた木の後ろに戻って行った。

皆んなそれを見ながら苦笑いをしていた。


「なにあいつらw」

「さっさと甘樹果回収して帰ろうぜ」

「そうしよー。」


加藤さんが木に登り、甘樹果を数個回収した。

俺たちもそれを真似するように木に登り、甘樹果を回収した。


「よし、帰るか。」

「ちょっと!待つでやんす!」


振り向くとAN4が木の前に立っていた。

俺以外の仲間は振り返らずに帰ろうとしている。


「どうした?」

決闘デュエルをするでやんす。」

「時間ないからまた今度…。」

「しないならおいらのクリーチャーに仲間を襲わせるでやんすよ?」


太郎に脅されるようなことを言われてしまった。

仲間が危ないなら条件を飲むしかないか…


「わかった…

「わざわざ翔吾が出る場面でもないだろ?俺が行くよ。」


気づけば隣に太陽が立っていた。


「でも、AN4には4体のクリーチャーがいるナリ。」

「つまりこっちも4体のクリーチャーを出せということか?」

「そうでごわす!!」


すると齊藤が太陽の横に戻ってきた。


「それ、俺も参加できるか?」


そう言い、齊藤はポケットから魂紙を見せる。

俺は魂紙を見るなり、すぐに言った。


「齊藤も戦えるぞ!」

「ただ、あと1人足りないでやんすよ?」


俺は田中さんと目を合わせた。

田中さんはすぐに力強く頷いた。

そして俺はAN4にこう伝えた。


「太郎、あと少しだけ待ってくれ。」

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