Einsatz

第10話

街中から聴こえてくるあの声を聴く度、私は無性に泣きたくなる。



どこに居てもいつだって彼はいる。



そして今日もテレビの中には彼がいた。




――…大翔。ごめんね。




流れる歌を口ずさみながらお腹を優しく撫でる。



だいぶ大きくなったお腹の父親は紛れもなく彼だった。



だからこそ言えなかった。



今ここで大翔の将来を、夢を私が奪う訳にはいかない。



大翔の歌が好き。大翔が好き。



だからこその選択だ。



子供を一人で育てられる自信なんてないけど、不思議と怖くはなかった。

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