ムーンライト・ジェノサイド
カイ猫
第1話
ブロンドの髪に透き通ったブルーの目はイギリス人の母親譲りで、性格は日本人の父親に似ていると良く言われる。母親はマフィア、父親はヤクザと少し特殊なお仕事でお手伝いもしたこともある。周りの家とは少し違うけど、ごく普通の家庭とさほど変わらない。数年前に母親を亡くした事以外は。
「全員席に座れ〜」
担任の先生がいつも通り、眠そうな表情で教卓に立つと一人一人名前を読み上げる。気だるそうに返事をする人、笑いを取ろうと返事をする人、普通に返事をする人とゆっくりと私の番が近付いてくる。
「
「はい」
「やっぱ如月って美人だよな〜。ハーフだぜ?」
「いくら美人でも話が合わないしな」
「お前選べる立場か?」
「そこ、うるさい」
注意された男子達が静かになると先生は黒板に『転校生』という文字を書き始めれば、その文字を見た私以外の生徒は一斉にざわついた。
「転校生だって!」
「イケメンかな?」
「美女かも知れねーだろ」
「どんな奴?」
「わかんない」
カラカラと音を立てて扉が開くと、クラスのみんなが一斉に扉を注目し始める。タンッと一歩踏み込む音が聞こえ、くぐって入って来る大きな影。高身長にがっしりとした体格で、ブレザーの制服を着崩している。日本人特有の黒髪黒目で、少し眠そうな目をしているが、爽やかな短髪で話し掛けやすい柔らかな雰囲気を感じた。
一番後ろにいるのにも関わらず、ぱっちりと真っ黒で眠そうな目と目が合った。にっこりとこちらに微笑みをかけられ、忘れかけていた記憶が思い出せそうな感覚だった。
「それじゃ、自己紹介を頼んだぞ」
黒板にスラスラとすごく綺麗な字で名前を書いた。
男子は退屈そうに、女子は期待するような視線が混ざり合って転校生に集中する。
「
ふと、私はそこで小さい頃の初恋だったお世話係のお兄さんを思い出した。
母親とイギリスに一緒に住んでいて、まだ父親が日本人ということも知らない本当に小さい頃の記憶。忙しい母の代わりに、私の相手をしてくれた世話係のお兄さんもこの転校生と同じような見た目だった。
結局その人も、私と母親を守る為に死んでしまい、母親も私を守る為に死んだ。
「月宮の席は、如月の隣でいいな。
「ウーッス」
ぼんやりとしていた意識がはっきりとする。最初から空いている席に転校生を移動させればいいものの、どうして私の隣にいる人と席を交換するのだろうか。
遠回しに、それこそ外堀から埋められるような、追い詰められた感覚だった。先生と席移動する男子二人を交互に見る。虚げな目に黄色の丸い輪っかの模様が浮かんでいるように見えたが、肩を叩かれて振り向くと隣にはすでに転校生が座っていた。
「ふふ、よろしくね」
そう言って微笑みを絶やすことなくこちらをじっと見つめられる。真夜中みたいな瞳の転校生に対して一言も喋ることができなかった。
怖いって言う訳じゃない。
自然と警戒している。
この得体の知れない転校生に。
「俺、あの時助けて貰った子なんだ」
あの時、そう言った転校生の言葉を頼りに記憶を探す。
転校生の言うあの時っていつのことなのだろうか。
どの記憶を思い出しても、まだヤクザだった頃の記憶しか無くて、人助けどころか脅していた時の記憶しかない。
「えっと?」
「そっか、忘れちゃったか」
顎に手を添えて悩むそぶりを見せると、また話し始める。
「三年前、俺が攫われそうになった時に助けてくれたよね。白シャツに黒ネクタイのスーツ姿。なによりその
三年前。
そう言われてすぐに思い出したのは私が初めて人を殺した時の記憶だった。そういえば、殺す前に子供が攫われそうになっていたんだっけ。
たしか、仕事の手伝いをした帰りに
「はなせ!」
「子供の姿をしても無駄だ! 貴様ら月の
「だ、だれか……!」
子供の頃に襲われる怖さを知っているから、私はあの時助けたんだ。
母親が殺される瞬間の怖さを、一人残される寂しさを知っているから、いてもたってもいられなくて殺して助けたんだっけ。
「やっと目が合った。俺惚れちゃったんだ、助けてくれたあの時に。だからさ、婿入りしたくてきみの跡を追って来ちゃった」
「小さかったはず」
「愛の力だよ。おっきくなってきた。ねぇ、名前は?」
「……如月冴子」
「如月……如月ね。冴子、いい名前だね。俺のこと蓮司って呼んでね」
友達すらクラスに馴染めていない私が、会って数時間の不思議な男の子に対して、混乱し、うるさいほど心臓が動いて、耳が熱かった。
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