第9話
第 八夜
魔弥矢は暗闇の中 廃墟になったビルで膝を抱えカタカタ震えていた。
寒さで震えるのではない。虚無感からである。
ここはかつて小鬼やサイスを相手に暴れまわった所だ。
影が魔弥矢をこの場所に連れて来た。
「ここに居ろ、一歩も動くな」と、影に言われた通り魔弥矢は膝を抱え待っているが
もう何年も待っているような気がする。それとも、何かの媒体の中に閉じ込められているのか……と、さえ思う。影は一歩も動くなと言ったが立つくらいならよかろうと魔弥矢は立ち上がり辺りを見回した。何処かに小鬼が隠れているのではないか…
などと期待を込めて目を凝らし眺めまわしたが何もない。 影に言われた「一歩も動くな」を忠実に守ってきた魔弥矢だが、気持のどこかで「動いたらどうだと云うのだ」との反発心もある。だが、そんな反発心も四柱に会えなくなることを考えると
忽ち萎んでしまう。 魔弥矢は又座り込んで膝を抱えた。四柱に会いたければ待つしかないのだ。
こうして……長い長い時が過ぎていった。
長い時間眠りに落ちていた魔弥矢は人の話し声で目が覚めた。
薄く瞼を開くと目の前には、待ちに待った影の姿があり、すこし離れた所に紛れもない四柱の姿があった。 魔弥矢が起き上がるべきか迷っていると、「起きろ」と、影が言った。
魔弥矢はそろそろと立ち上がり影の後について行った。
四柱は思い思いのスタイルで立ち並んでいたが 無論、歓迎の気配は一切ない。
「ドロ人形が君に訊きたいそうだ」 と、影は麒麟慈に言った。
麒麟慈は四柱の中で最も厳しい目付きで魔弥矢を睨んだ。
魔弥矢は影の後ろに身を隠す様にしながら麒麟慈にお辞儀した。
「こいつ、自分が何処から来て いつから此処に居るのか知りたいらしい。教えてやれ、後は好きにすればいい」 影は自分を盾にしている魔弥矢の腕を掴むと麒麟慈の前に押しやった。
「………寿限鉾(ジュゲム)、こいつは……どの世界のモノでもない、偶然生じたバグにすぎない。ただの虫けらだ」
「バグが感情を持つか?」 「そんな事は知らん。私がある天才ハッカーの媒体に入り込んでお迎えに出向いた時だ。その媒体は世界征服を目論むグループの一員だった。人間界におけるプログラマーってやつだな」
バグと聞いて魔弥矢は薄っすら残る記憶を手繰り寄せた。
最初は単純な記号だった。その存在を何度も消去されそうになっては 大量の記号データに紛れ込み移動を重ねるうち意思を持つ様になり……
「ありえんな‼ ちっぽけな電子記号に生命が宿るとは何の冗談だ?」 寿限鉾の疑問に麒麟慈以外の死神も一様に頷いた。
「……だから知らん。次元の何かが捻じれに捻じれて……人間界で云えば奇蹟が生じたとしか思えんな」 「恐らく………」幻浄が手を挙げた。
「偶然意思を持って動く様になったバグが成長したと仮定しよう。自らプログラマーとして立ち上げたプログラムと我々の世界が偶然リンクした………と考えれば腑に落ちる…かな?」 「またまた偶然…か…」 不知火が呟くと 「これ以上説明のしようがないんだから仕方がない!」と、幻浄が不満顔で言った。
「おいドロ人形、マミヤと云う名前はどこで?」 マミヤと云う呼び名を認めているならマミヤと呼ぶがいい………と思いながらも魔弥矢は死神たち、とりわけドロ人形呼ばわりする寿限鉾に向かって答えた。
大量の記号の中で、偶々寄せ集まったのがMAMIYA………記憶が残っている。
だがこれで、元はバグであろうが魔弥矢が何処から来たのか解った。
そして、ある時ジャンプする方法を見つけ出したが 迷い込んだ世界が死神界だった事でジャンプ先が死に瀕する人間 (或いはイルカ)ばかりだったと納得できたのである。 では、閻魔に魔弥矢が見えないのは何故か…… この疑問には麒麟慈が答えた。 「我々がオマエと遭遇するのは媒体の中だけだ。小鬼やサイス、グルコンもそうだが。大王だけは媒体の中には入らない」「どうして?」「地獄の王だぞ、王たる者
そんな卑しい事はせん」「地獄の大王は何でもできるんじゃ………」
「大王は偉大な方だが万能ではない」 答えてくれたのは不知火だった。
そうだったのか、と、魔弥矢は得心した。そう言われてみれば、小鬼やサイス、
グルコンとのバトルは媒体の中のみだった。
媒体の中以外では、閻魔だけではなく散々バトってきた小鬼たちにも魔弥矢に見えなかった訳だ。
いや、………待て待て………突然ある疑問が沸き起こり魔弥矢は考え込んだ。
では、今、誰の媒体の中に?
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