プログラマー

@0074889

第1話   

  プロローグ 遠之 えみ作


魔弥矢 (マミヤ)は深い谷底が見下ろせる淵に追い詰められていた。

光も音もない静寂の地である。辛うじて見える向こう岸に渡るか、引き返すかの二択しかない。

いや、二択あるだけでもいいと思わなければこの窮地からは逃れられない。

向こう岸は全力で跳んでも届く距離ではない。しかし、迷っている時間もない。

が、果てしない淵に沿って歩きながら引き返すしかないと思い浮かべた途端、ついさっき抜け出したばかりのカオスに戻され再び気味の悪い悪霊どもと闘わなくてはならなくなる憂鬱が襲ってくる。だがしかし、もうそんな体力は残っていない。いっその事谷底に落ちる覚悟で跳んでみるかと考えた刹那 向こう岸の淵がせり上がる。拒んでいるのだ。魔弥矢は仕方なく禁じ手を繰り出した。禁じ手は失敗すると一巻の終わりである。

と云うのも、今 魔弥矢が彷徨っていた媒体は末期がんに侵された38歳の女性である。

脳内に侵入してすぐに、死期が迫っている事に気付いたがジャンプ(移動)する寸前

に悪霊に絡まれてしまった。追い払っているうち逆に魔弥矢の方が淵に追い詰められて大ピンチである。死を迎え入れる準備が整った媒体に誤った刺激を与えると媒体もろとも淵へダイビングする事になる。

しかしもう、これしかないと決めて魔弥矢は媒体に語りかけた。

「ほら!目を覚まして!行くのはまだ早い!」


女性が横たわるベッドを囲むように医師と看護師、友人と思しき2人の女性が刻一刻迫りくるその瞬間を見守っていた。既に女性の身体からは生命を維持する器具が取り外されていた。

程なく医師の口から臨終の言葉が出ると 看護師が用意された白布を瘦せ細った女性の顔に被せた。


魔弥矢は間一髪のところでジャンプする事ができた。できたが……禁じ手を使った後は途轍もない恐怖に襲われ、暫くは身動きどころか瞬きすらできずカオスの方がマシと思えるくらいなのである。更に、上手くジャンプできたとしても乗り移った媒体が今の様に臨終の淵に立っている場合は最悪である。立て直す時間もないのだ。だが魔弥矢は、気付けば悪霊がウヨウヨしている媒体に送り込まれている。理由も解らず、それどころか自分は生きているのか死人なのかさえ定かではないのだ。唯一、もしかして生きている?と実感できるのが禁じ手を使った後だが……

禁じ手とは、直接媒体に語りかけたり操ったりする事だ。タブーなのである。






































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