第2話
私の地元で、これから改めてお世話になる街。
栄えているわけではなく、廃れているわけでもない。
一言でいうなら、住みやすい街だ。
何より、この街には美術館がある。
それだけで私は満足だ。
せっかく帰って来たのだから、美術館には通いやすい方がいいと、部屋探しにこだわった。
その甲斐もあって、美術館へも、これから通う学校へもアクセスの良いアパートが見つかったのは、運が良かった。
引越しの手続きを終えた私は、これから1人で住むことになる部屋を見渡す。
ユニットバスのワンルーム。
中学時代に無理を言って両親と共に引越したのに、今回も迷惑をかけるわけにはいかない。
私は地元に戻ると決めたとき、一人暮らしをすると宣言した。
とはいえ、見渡す限りは私ひとりには広すぎる部屋で、作品制作のスペースを作ったとしても充分すぎるくらいだった。
夕飯は軽くインスタントで済ませようと、お湯を沸かし始める。
実家にいた頃から簡単な料理はしていたが、入学式の前日にひとりで豪勢な食事を食べる気にはならなかった。
備え付けのIHコンロは絶妙に火力が低く、中々お湯が沸かない。
私はふと思い立ち、クローゼットから制服を取り出す。
紅ヶ関女子高等学校。
私が明日から通う高校の制服。
黒地に赤のラインの入ったセーラー服で、ほんの少しだけカッコ良さのあるデザインだと私は思う。
…まぁ、セーラー服だろうとブレザーだろうと、私は制服にこだわりは無いけれど。
そんな事を考えているうちにお湯が沸いた。
私は制服を仕舞うと、カップ麺へとお湯を注ぎ、3分間を特に何もせず過ごした。
夕飯後、お風呂を済ませた私は眠る前に軽く作品を描くことにした。
作品、と言っても誰に見せるでもない日記のようなものだ。
100均で買ったスケッチブックを開き、HBの鉛筆で線を引く。
描くのは、今日1日で最も印象的だったもの。
机の上に無造作に置かれたカップ麺の空きカップと、まだわずかにコーヒーの残るマグカップ。
今日の被写体はこの2つだ。
あくまでも日記のかわり、と5分程度で描き終えた私はスケッチブックを閉じる。
そのままコーヒーを1口で飲み干し、マグカップを洗う。
これからは家事も自分でやるんだな、と当たり前のことを考え苦笑する。
マグカップを逆さで仕舞うと、カップ麺のゴミをゴミ箱へと捨て、部屋の電気を消す。
布団へと入り、明日から始まる新生活を夢想しながら、私は眠りに落ちていった。
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